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1巻
1-2
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「そ、それ、は、たぶん、あなたがお医者様で……っ、ち、治療とおっしゃっているから……!」
「でしょうね。まぁ、今はそれでよしとしましょう。――とにかく、ほかの男に媚薬云々は却下。なぜならあなたが誰かとそうなることを想像しただけで、僕がその相手の男を殺したくなるから」
「は、はい?」
不意に不穏さを孕んだ低い声で呟かれて、イルミラはびくっとした。
しかしデュークはそれまでと変わらぬ涼しげな顔で、イルミラのスカートをまくり上げて、真っ白な太腿にじかに手を這わせてくる。
「あっ、あああ、あのっ! ちょっと……!」
「拒まないでくださいね。これも治療の一環です。あなたが僕をあまり恐れないのは不幸中の幸いでした。……まぁ、もしかしたらあなたも僕と同じく、出会った瞬間ピンとくるものを感じているのかもしれませんが」
「はぃ? なにを、おっしゃって……いるのか……っ、んン……っ?」
デュークの顔が近づいてきたと思ったら、唇を温かななにかでむにゅっと覆われて、イルミラは硬直した。
真っ赤な目を限界まで見開き、眼前に迫るデュークの瞳を見返す。あまりに近すぎて、彼の眼鏡がイルミラの鼻にコツンと当たった。
(え、ちょ、ちょっと待って、これって……っ?)
「キス……!? んむっ……、ふ……っ」
「鼻で息をして。あと、もう少し舌を伸ばして」
「ンぅう……?」
唇を合わせながら淡々とそう指示され、イルミラは大混乱に陥った。
とっさに口を開くと、熱くぬるついたなにかが口腔に入り込み、縮こまるイルミラの舌をぬるりと絡め取る。
「ッ!? ……ふ……ッ!?」
なにがどうなっているのだろう。
なぜ自分の口の中を、自分の舌ではないなにかが這い回っているのか。
おまけにいつの間にかしっかり正面から抱き寄せられて、乳房がデュークの胸板に押し潰されている。しかも予想外にたくましい彼の腕に腰をがっちり拘束されて、逃げようにも身動きできない体勢になっていた。
「ふぁ……デュー、ク……さまぁ……っ」
「……その声、反則。もうやめてあげませんからね」
「ええっ? あ、んむっ……、ふ、ぁあ……ッ!」
肉厚の舌がイルミラの歯列をねっとりと舐め回す。快感が頭を突き抜けていくのを感じて、彼女は激しく狼狽した。
――いったいどうしてこうなったのだろう?
「ひあっ、あ……、ンン……っ」
湧き上がる愉悦のあまり細腰をくねらせ、イルミラは何度も背をしならせながら、真っ赤に上気した顔ではぁはぁと喘いでいた。
いつの間にか地味な色合いのドレスは床に落ち、コルセットとドロワーズのみの下着姿になっている。
場所も暖炉前に置かれた長椅子へと移動しており、そこに深々と腰かけたデュークの膝の上で、イルミラは丹念な愛撫を施されていた。
「ひ、ぅ……、だ、だめぇ……!」
もう何度、駄目、やめて、と声を張り上げただろう。
しかし背後から抱きしめてくるデュークはそれに構うことなく、イルミラの耳裏に舌を這わせ、耳朶を甘噛みし、細い首筋に唇を滑らせていく。
熱い吐息が肌にかかるたびに、ぞくぞくした喜悦が身体の奥底から湧き上がってきた。初めての感覚に、イルミラは羞恥と戸惑い、不安と混乱に突き落とされて、ふっくらとした唇をわななかせる。
ルビーのような鮮やかな瞳に溜まった涙が、今にもこぼれ落ちそうだ。
身体が震えるのに合わせて、長い睫毛がふるふる揺れるのも、なんとも扇情的で艶めかしい。
――もっとも快感に耐えるイルミラには、自身のそんな変化に気づく余裕はなかったが。
「も……やめ……、はっ、あぁあ、んッ……!」
「耐えてください。快感に慣れることこそ、この治療の一番の目的です。セックスを恐ろしいものではなく気持ちいいものと、男を恐怖の対象ではなく快感を与えてくれる者と見られるようになることこそ、今のあなたに必要なことです」
どんどん乱れていくイルミラに反し、デュークが変わらず淡々とした口調のままでいることも、羞恥心をよけいに掻き立てた。
(た、耐えろと、言われても~~!)
耳孔に舌を差し込まれちろちろ動かされるだけで、身体がむずむずしてたまらない。彼の手が思わせぶりに二の腕やデコルテを撫でてくるのにも、いちいち反応してしまうくらいだ。
なにより、彼の膝の上に座っているこの体勢が、とんでもなく恥ずかしいというのに……!
だが何度逃げだそうとしても、まるで見えない糸でくくりつけられているかのように引き戻されて、イルミラは結局ねっとりとした愛撫を受け続けていた。
「はっ、はぁっ、……い、いつまでこうするの……? あん……っ」
「まだまだこれからですよ。肝心なところには一つもふれていませんし」
「そ、そんな」
つい絶望的な表情を浮かべたイルミラに、デュークの目が妖しく細まる。
「んー、なら、そろそろ次の段階に行ってみますか?」
「つ、次って……あっ!」
デュークの手がコルセットの紐を引っ張るのを感じて、イルミラは身体を強張らせた。
「い、いけません。お願いやめて……っ」
「そんな風に懇願されると、なにがなんでも脱がせたくなるのですが」
「やぁっ、どうして……、あっ」
必死の抵抗も虚しく紐の端がしゅっと解かれ、身体の締めつけが一気に緩む。
真っ白な乳房が弾むように顔を出して、イルミラはひゅっと息を呑んだ。
「ほう、これは大きい――」
「言わなぃ、で……、う……っ」
淫魔とは思えない性格に育ったイルミラだが、その身体つきは年相応……よりも、かなり早く育っていた。
背はさほど高くないが、手足はすらりと長く細い。首も腰もほっそりしているのに、胸と臀部には張りがあり、異性だけでなく、同性でさえうらやむほどの極上のプロポーションを持っていたのだ。
だがイルミラ自身は、自分の大きな胸やお尻がまったく好きではなかった。それどころか、淫魔の性を前面に押し出す身体つきが恥ずかしくてたまらず、コルセットをわざときつく締めて、胸の膨らみを押さえつけていたほどである。
締めつけが緩んだことで、二回りも大きく見えるようになった乳房を目の当たりにし、イルミラは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆った。
だがデュークはわずかに目を瞠ったのち、それまで背中から抱きしめていたイルミラの身体を反転させ、自分と正面から抱き合う体勢にする。
「きゃあっ!? デュ、デュークさま……ッ?」
「綺麗な胸ですね。真っ白で……こんなに大きいのに、乳輪は小さく、乳首も可愛らしい」
「ひっ……!?」
デュークの言う通り、シミ一つない真っ白な乳房は、綺麗なお椀形に盛り上がっている。呼吸に合わせ、かすかに震えるのがなんとも扇情的だ。
頂を飾る乳輪は、乳房の大きさに反して小さく、薄赤くて慎ましい。かすかにしこり始めた乳首など、男ならむしゃぶりつかずにはいられないほど可愛らしかった。
だが言われたほうのイルミラは、喜びよりも羞恥といたたまれなさを強く感じて、顔をくしゃりと歪めてしまう。
「み、見ないで、見ないでください……!」
「無理です。こんな美味しそうなものを前にして目を逸らすことなどできません」
「お、美味しそ……? ひあっ!?」
デュークがおもむろに乳房に顔を寄せてきて、イルミラは必死に彼を押しやろうとした。
「だ、だめです! 食べちゃ……っ」
彼があまりに真剣に膨らみを見つめているので、もしや本当に食べられるかも……!? と恐怖が芽生える。
そんなイルミラに、デュークはかすかに笑った。真っ白に盛り上がった乳房の谷間から、不敵な上目遣いでこちらを見つめてくる。
「本当に食べたりしませんよ。ただちょっと、味見するだけです」
「……ッ!?」
そう告げる彼の声はこれまでで一番艶っぽく、眼鏡の奥の瞳は捕食者のようにギラついている。
これまで男性にこんな目を向けられたら、一目散に逃げるか魔力を暴発させていたイルミラだ。
なのに、今はなぜか心臓が大きく音を立てて、体温が一気に上がるのを感じて驚いてしまう。
おまけになんだか……身体の奥が……妙にむずむずして、切ない感じが……
(ど、どうなっているの、わたしの身体……! デューク様に見つめられるだけで、なんだかドキドキして、……苦しい……っ)
だが決して不快な感じではない。少なくとも今すぐ張り倒して脱走したいとは思わなかった。
とても見苦しい姿をさらしているであろうことは、いたたまれなくて仕方ないけれど……
「ここ、可愛いですね。見ているだけでぷっくりしてきて。ほら、もう弾けるくらいになってますよ」
「え……? あ、あんっ!」
デュークが人差し指の腹で、左の乳首をピンと弾く。硬くなりかけていた乳首は、刺激を受けてたちまちぷくんと勃ち上がった。
「匂いも強くなった」
「ひンっ……」
うっすらと上気した胸元をペロリと舐められ、イルミラはびくんと肩を揺らす。
「は、あぁ……っ」
「繰り返し言いますが、これは治療の一環です。恥ずかしがることも心苦しく思うこともありません。あなたは与えられる感覚を素直に受け取り、感じればいい。わかりましたか?」
そんなことを言われても、もう今の時点でいっぱいいっぱいだ。頷けるはずがない。
イルミラは泣きそうな顔で首を振るが、デュークは当然ながら聞き入れてはくれなかった。
「本当に、可愛い果実だ。口に含まずにはいられない……」
「あっ! ンン……っ」
膨らみ始めた二つの乳首を、デュークは指先でコリコリと刺激してくる。
人差し指と親指の腹に優しく挟まれしごくようにされると、胸の奥に痛みのような疼きのようななにかが走って、それが下腹をさらに熱くした。
「はっ、あぁ、あ、ン……ッ」
未知の感覚に目を見開いてわななくイルミラだが、すっかり勃ち上がった乳首をペロッと舐められた瞬間、大げさなほど肩を跳ね上げてしまった。
「ひぁっ、……あっ、きゃっ……!」
とっさに逃れようとしたイルミラは、危うくデュークの膝の上から転げ落ちそうになる。
デュークはそれを軽々と受け止め、彼女を長椅子の座面に仰向けに押し倒した。
そして乳房に顔を埋め、柔らかな膨らみを包むように揉みしだく。
「いぁっ……、あ、あ、あっ……」
ふるんと揺れた乳房が、彼の手の中で卑猥に形を変えていく。
恥ずかしくてたまらないのに、ゴツゴツした手の平で乳首を転がされ、もう一方の乳首を温かな口腔に咥えられると、背筋にゾッとするほどの喜悦が押し寄せ、知らず背が弓なりにしなった。
「ひぁ……、ンンぅ……!」
ちゅっ、ちゅうっ、と音を立てて乳首を吸われて、イルミラはたまらず甘やかな声を漏らす。身体の奥がぐつぐつ煮え立つような快感が溢れて、自然と胸を突き出す体勢になっていた。抗おうとしても手足に力が入らず、デュークのシャツを握る指先が弱々しく震えてしまう。
繰り返し乳首を舐められ、乳輪ごと吸い上げられると、頭の中がぼんやりと霞がかっていく気がした。
「はぁ、はぁっ……、んっ……!」
「いいようですね」
長い睫毛を震わせながら、濡れた唇をわななかせるイルミラにデュークは微笑む。
視界の端にチラリと彼の微笑みを見つけたイルミラは、それだけで胸がどくんと高鳴るのを感じた。すると不思議なことに、身体を渦巻く愉悦も一気に倍になって暴れ始める。
「……っ、デュークさ、ま……っ、あぁ、だめ……、わたし、なにか……おかしく……っ」
「正しい反応ですよ。それにやはり淫魔だけあり、感度がいい。これなら治療もはかどりそうです――」
「ああぁん……! んく、ンっ……、あぁぁ……ッ」
ちゅぱっ、と音を立てて、きつく吸い上げた乳首を解放される。それに合わせ豊かな乳房がぶるんと震えて、イルミラはいやいやと首を振った。
「も、だめ……、本当、に……っ」
「まだまだ。治療は始まったばかりです。さあ、いい子だから少し腰を上げなさい」
「え……腰を……?」
「まだ一枚、あなたの身体に残っている布がありますよ?」
ドロワーズを引っ張りながら言われて、イルミラは気が遠くなる思いだった。
「い、いやぁっ、それは……取らないでぇ……!」
大きな胸を見られただけでも息が止まりそうなのに、この上そんなところまで見られてしまったら……!
「それなら、こちらから攻めましょうか?」
「ひあっ! あ、あっ、そこは、あぁ……ッ」
デュークがドロワーズから手を離し、代わりにイルミラの脇腹をいやらしい手つきで撫で上げてくる。びくびく震えたイルミラは、次の瞬間、デュークが舌先を臍のくぼみに差し入れたのを見て悲鳴を上げた。
「ひぁああッ……!」
形のよい小さな臍を舌先でくりくりとえぐるように刺激されると、愉悦がじかに下腹に響いてたまらなくなる。
赤い瞳をこぼれんばかりに見開いたイルミラは、臍をひと舐めされるごとに、びくっ、びくんっ、と腰を跳ね上げた。
「そん、な……、ああ……!」
くちゅくちゅとわざと音を立てて、唾液を纏わせた舌先でねっとりと臍を舐め回す。そうしながらもデュークは、豊かな胸を波打たせて喘ぐイルミラを眼鏡のレンズ越しにじっと観察してきた。
その視線は、果たして医師として患者の様子を観察しているのか。それとも……
いずれにせよ、上半身への愛撫ですでに限界近くまで昂ったイルミラには正常な判断は下せない。
ただただこの喜悦から逃れたくて、あるいはどうにか昇華したくて、豊かな黒髪を振り乱しつつ懸命に正気を保とうとしていた。
だがイルミラのそんな努力を、デュークは易々と打ち砕く。
指先できゅっと乳首を摘ままれ、くりくり刺激されながら臍を舐められたイルミラは、立ち上る疼きにみだりがましい声を上げてしまった。
「ひぃっ、だ、めぇぇえ……ッ!」
イルミラがびくびくと身体を震わせたところで、デュークは臍から舌を引き、代わりになだらかな腹部や乳房の膨らみにきつく吸いついていく。
真っ白な肌に鮮やかな赤い痕がつき、そのたびにイルミラは唇を震わせた。舌の付け根から絶えず唾液が湧き出し、それを呑み下すだけでも一苦労だ。
「く……ぅうン……っ、デューク……さ、ま……っ」
「追い詰められると苦しいけれど、こうして愛撫をやめられてしまうと、それはそれでつらいでしょう? どうです?」
「あ、ん……っ」
彼の言う通り、ただ肌を吸い上げられるだけでは、中途半端に昂った身体が疼くばかりだ。愉悦に翻弄されているときは、一刻も早くやめてほしいと思ったのに。いざやめられると、もっとしてほしくてたまらなくなってしまう。
(う、うそ……。なんで、もっとしてほしい、だなんて)
ふと心に浮かんだ欲求に、イルミラはかぁっと首筋まで赤くなる。
一方のデュークはイルミラのそんな苦悩などお見通しとばかりに、彼女の首筋に舌を這わせながら、艶を帯びた低い声で囁いてきた。
「もっと素直におなりなさい。そもそも淫魔は本能に忠実な種族だ。恥ずかしがることはありません」
「で、でも……っ」
「とはいえ、恥じらう姿も多分に可愛らしくて、僕としては喜ばしいのですが」
「え、か、可愛い……?」
思いがけないことを言われ目を瞬かせるイルミラに、デュークはちゅっと口づけた。
「んぅ……っ」
「さぁ、腰を浮かせて。もっと気持ちいいことをしてあげますから」
「ふぁっ……、あ、いや……、ンンぅ……ッ!」
「なら、いいと言うまでキスし続けますね」
言葉通り、デュークは肉厚の舌をイルミラの口腔に差し入れ、縮こまる彼女の舌を絡め取り、丹念に擦りつけてくる。互いの粘膜がふれ合うぞくぞくした疼きが背筋を伝い降り、未だくすぶる下腹部をさらに熱くした。
「ん、くっ……ふぁ……」
くちゅくちゅと音を立てながら舌を擦りつけ合い、舌の根をくすぐられ、頬の内側を舐め上げられる。口蓋や歯列の裏をなぞられると自然と腰が浮き上がり、イルミラは無意識に身体をよじって身悶えた。
いつの間にかデュークの胸に抱きすくめられている。口づけの合間に臀部や太腿を撫でられ、イルミラは知らずびくっびくっとつま先を跳ね上げた。
硬くしこって感じやすくなった胸の頂が、彼の胸板に擦れるのがたまらない。息もできないほどの深い口づけに酔わされて、すっかり思考が鈍くなったイルミラは、気づけば彼の身体に自分の身体を擦りつけていた。
「はっ……んむ、ぅ……、んふっ……」
「そう。素敵ですよ。そのまま気持ちいいことに集中していなさい」
低い声でそう囁かれるのにすらぞくぞくして、息が上がってしまう。
うっすら目を開けると、眼鏡越しにこちらをじっと凝視するデュークの端整な顔が見えて、心臓がひときわ大きな音を立てて跳ね上がった。
「あ、あ、……デューク、さまぁ……っ」
「ああ、その声、最高にいいですよ。治療の成果が出てきていますね」
深くキスをされ、身体中を撫で回され、さらには舐め回され。治療というにはあまりに淫らすぎるそれに、イルミラは完全に溺れ始めていた。
(だって、気持ちいい……。キスも、すごく、感じちゃう……っ)
自分の奥底に眠る淫魔の本性が、ようやく目覚めのときを迎えたのだろうか。
だがそう思っても、いざドロワーズの紐がシュッと解かれる音が聞こえたときには、羞恥が一気に舞い戻って激しく動揺してしまった。
「あっ、あっ……! 取らないでぇ……ッ!」
しかし快楽に酔った身体では抵抗などできるはずもなく、薄い絹の下着はあっという間に床へ落とされてしまった。
「ああ……っ」
イルミラは思わず、羞恥とも絶望とも、あるいは期待ともつかないため息をつく。
とうとう自分は一糸纏わぬ姿を異性の前にさらしてしまった。……普通の淫魔であれば、少なくとも数年前にはそうなっていておかしくなかっただろう。そしてそれを誇りこそすれ、こんな風に心許なく思うことはないはずだ。
「み、見ないで、くださぃ……!」
「無理な相談ですね」
デュークは淡々と言い切るが、そのまなざしはどこか優しかった。
「こんな美しい身体を前に、目を逸らすことなどできるわけがない」
「あっ……」
「綺麗ですよ、イルミラ。とても綺麗だ。この淡い茂みも、あなたらしくて愛らしい」
「んっ」
控えめな下肢の茂みを優しく撫でられ、イルミラはぴくんと華奢な肩を揺らす。弾みで乳房がふるりと揺れ、恥ずかしさに目元まで熱くなった。
デュークは無理に足を割り開こうとはせず、イルミラの腹部に顔を埋め再び臍に舌を差し入れたり、太腿をゆったりと撫で上げたりと、焦れったい刺激を送ってくる。
まるでイルミラが根負けして、自分から足を開くのを待っているようだ。悔しいことだが、実際に一番疼きのひどいそこにもふれてほしくて、足をもぞもぞさせてしまう。
「ふふっ、イルミラ、足がヒクヒクしていますよ」
「言わない、でぇ……っ」
わかっていることをわざわざ指摘してくるデュークをいっそ恨めしく思いつつも、指先でお臍をこちょこちょとくすぐられて「あぁあんっ」と声を上げてしまう。
汗ばんだ乳房をゆったりと揉みながら、デュークは悪魔のごとく甘い声で囁いてきた。
「ほら。どうして欲しいか言ってみなさい」
「そ、そんな……恥ずかしい……っ」
「繰り返しますが、これは治療なんです。あなたが淫魔らしく快楽に慣れ親しみ、自ら相手を求めるようにならなければ治療は成功とは言えません」
「そ、んな……、やっ、あぁああん……っ」
内腿を思わせぶりに撫でられて、イルミラはびくんと跳ね上がる。外気にさらされた恥ずかしい部分が期待にヒクついて、どうしようもなく泣きたくなった。
だが再び胸元に顔を伏せたデュークに、ぷっくり膨らんだ乳首をころころと舐め転がされ、まろやかな臀部を撫で回されると、恥ずかしいなどと言っていられなくなる。
今にも溢れ出しそうな愉悦に下腹部を波打たせながら、イルミラはついに観念した。
「デューク、さま……さわっ、て……! お願い」
「どこを? イルミラ」
「うっ……、し、下を……」
「下って?」
うぅ、とイルミラは小さくうめく。わかっているくせにわざわざ言わせようとするなんて。
恨めしさと悔しさに思わず顔をくしゃりと歪めるが、潤んだ瞳に上気した頬、艶やかに濡れた唇でそうしたところで、男の情欲を煽る結果にしかならない。
「さあ、イルミラ?」
むっちりとしたイルミラの太腿を指先でつぅとたどって、デュークが囁く。
イルミラは半ばやけくそになりながら、震える足を開き、自身の下生えをそっと押さえた。
「……っ、ここ、を……っ、ここを、さわって、ください……っ」
恥ずかしさのあまり、とうとう涙がこぼれてこめかみを伝う。
透明なそのしずくをデュークは唇で吸い上げて、彼女の豊かな髪を撫でた。
「よく言えました。ご褒美にたっぷりさわって、舐め回して、可愛がってあげましょう」
「ひっ……」
優しい声音で言われたというのに、なんだか空恐ろしく感じる。だが同時にドキドキもしてきて、イルミラは自分の感情を持て余してしまう。
そうこうするうち、デュークは彼女の太腿の裏に手をかけ、彼女の足を思い切り開脚させた。
「きゃあっ!? あっ、あぁ……!」
診察台のときと同じような体勢を取らされ、イルミラはいやいやと激しく首を振る。
一方のデュークは落ちてきた眼鏡を指先でとんっと押し上げると、イルミラの秘所をのぞき込んでどこか愉しげに笑った。
「ああ、すっかり濡れていますね。てらてらと光って、とても綺麗だ」
「~~っ、言わないでぇぇ……!」
恥ずかしい場所をそんな風に評されて、イルミラは悲鳴を上げる。けれどデュークは至極真面目な顔である。
「大切なことですよ。女性が感じるとここを濡らすのは知っていますね? あなたは今、気持ちよくなるための治療をしているのだから、ここが反応してくれなければ、逆に困ってしまうのです」
「ひうぅっ!」
そう言われながら、蜜をたっぷりたたえて濡れそぼった蜜口を指先で撫でられ、イルミラは腰を跳ね上げた。あまりの衝撃に見開いた瞳から涙が散る。
同時に蜜口からも、新たな蜜がとろりとこぼれ落ちた。
「あ、あ……っ、わたし、こんな……っ」
いくら自然なことと言われても、恥ずかしくてたまらない。無意識に逃げを打とうと、お尻が長椅子の座面の上を滑るが、すかさずデュークに押さえつけられてしまった。
「や、あ……っ」
「治療から逃げてはいけません。あなたはおとなしく悦楽を覚えればいい」
「うぅ……」
「でしょうね。まぁ、今はそれでよしとしましょう。――とにかく、ほかの男に媚薬云々は却下。なぜならあなたが誰かとそうなることを想像しただけで、僕がその相手の男を殺したくなるから」
「は、はい?」
不意に不穏さを孕んだ低い声で呟かれて、イルミラはびくっとした。
しかしデュークはそれまでと変わらぬ涼しげな顔で、イルミラのスカートをまくり上げて、真っ白な太腿にじかに手を這わせてくる。
「あっ、あああ、あのっ! ちょっと……!」
「拒まないでくださいね。これも治療の一環です。あなたが僕をあまり恐れないのは不幸中の幸いでした。……まぁ、もしかしたらあなたも僕と同じく、出会った瞬間ピンとくるものを感じているのかもしれませんが」
「はぃ? なにを、おっしゃって……いるのか……っ、んン……っ?」
デュークの顔が近づいてきたと思ったら、唇を温かななにかでむにゅっと覆われて、イルミラは硬直した。
真っ赤な目を限界まで見開き、眼前に迫るデュークの瞳を見返す。あまりに近すぎて、彼の眼鏡がイルミラの鼻にコツンと当たった。
(え、ちょ、ちょっと待って、これって……っ?)
「キス……!? んむっ……、ふ……っ」
「鼻で息をして。あと、もう少し舌を伸ばして」
「ンぅう……?」
唇を合わせながら淡々とそう指示され、イルミラは大混乱に陥った。
とっさに口を開くと、熱くぬるついたなにかが口腔に入り込み、縮こまるイルミラの舌をぬるりと絡め取る。
「ッ!? ……ふ……ッ!?」
なにがどうなっているのだろう。
なぜ自分の口の中を、自分の舌ではないなにかが這い回っているのか。
おまけにいつの間にかしっかり正面から抱き寄せられて、乳房がデュークの胸板に押し潰されている。しかも予想外にたくましい彼の腕に腰をがっちり拘束されて、逃げようにも身動きできない体勢になっていた。
「ふぁ……デュー、ク……さまぁ……っ」
「……その声、反則。もうやめてあげませんからね」
「ええっ? あ、んむっ……、ふ、ぁあ……ッ!」
肉厚の舌がイルミラの歯列をねっとりと舐め回す。快感が頭を突き抜けていくのを感じて、彼女は激しく狼狽した。
――いったいどうしてこうなったのだろう?
「ひあっ、あ……、ンン……っ」
湧き上がる愉悦のあまり細腰をくねらせ、イルミラは何度も背をしならせながら、真っ赤に上気した顔ではぁはぁと喘いでいた。
いつの間にか地味な色合いのドレスは床に落ち、コルセットとドロワーズのみの下着姿になっている。
場所も暖炉前に置かれた長椅子へと移動しており、そこに深々と腰かけたデュークの膝の上で、イルミラは丹念な愛撫を施されていた。
「ひ、ぅ……、だ、だめぇ……!」
もう何度、駄目、やめて、と声を張り上げただろう。
しかし背後から抱きしめてくるデュークはそれに構うことなく、イルミラの耳裏に舌を這わせ、耳朶を甘噛みし、細い首筋に唇を滑らせていく。
熱い吐息が肌にかかるたびに、ぞくぞくした喜悦が身体の奥底から湧き上がってきた。初めての感覚に、イルミラは羞恥と戸惑い、不安と混乱に突き落とされて、ふっくらとした唇をわななかせる。
ルビーのような鮮やかな瞳に溜まった涙が、今にもこぼれ落ちそうだ。
身体が震えるのに合わせて、長い睫毛がふるふる揺れるのも、なんとも扇情的で艶めかしい。
――もっとも快感に耐えるイルミラには、自身のそんな変化に気づく余裕はなかったが。
「も……やめ……、はっ、あぁあ、んッ……!」
「耐えてください。快感に慣れることこそ、この治療の一番の目的です。セックスを恐ろしいものではなく気持ちいいものと、男を恐怖の対象ではなく快感を与えてくれる者と見られるようになることこそ、今のあなたに必要なことです」
どんどん乱れていくイルミラに反し、デュークが変わらず淡々とした口調のままでいることも、羞恥心をよけいに掻き立てた。
(た、耐えろと、言われても~~!)
耳孔に舌を差し込まれちろちろ動かされるだけで、身体がむずむずしてたまらない。彼の手が思わせぶりに二の腕やデコルテを撫でてくるのにも、いちいち反応してしまうくらいだ。
なにより、彼の膝の上に座っているこの体勢が、とんでもなく恥ずかしいというのに……!
だが何度逃げだそうとしても、まるで見えない糸でくくりつけられているかのように引き戻されて、イルミラは結局ねっとりとした愛撫を受け続けていた。
「はっ、はぁっ、……い、いつまでこうするの……? あん……っ」
「まだまだこれからですよ。肝心なところには一つもふれていませんし」
「そ、そんな」
つい絶望的な表情を浮かべたイルミラに、デュークの目が妖しく細まる。
「んー、なら、そろそろ次の段階に行ってみますか?」
「つ、次って……あっ!」
デュークの手がコルセットの紐を引っ張るのを感じて、イルミラは身体を強張らせた。
「い、いけません。お願いやめて……っ」
「そんな風に懇願されると、なにがなんでも脱がせたくなるのですが」
「やぁっ、どうして……、あっ」
必死の抵抗も虚しく紐の端がしゅっと解かれ、身体の締めつけが一気に緩む。
真っ白な乳房が弾むように顔を出して、イルミラはひゅっと息を呑んだ。
「ほう、これは大きい――」
「言わなぃ、で……、う……っ」
淫魔とは思えない性格に育ったイルミラだが、その身体つきは年相応……よりも、かなり早く育っていた。
背はさほど高くないが、手足はすらりと長く細い。首も腰もほっそりしているのに、胸と臀部には張りがあり、異性だけでなく、同性でさえうらやむほどの極上のプロポーションを持っていたのだ。
だがイルミラ自身は、自分の大きな胸やお尻がまったく好きではなかった。それどころか、淫魔の性を前面に押し出す身体つきが恥ずかしくてたまらず、コルセットをわざときつく締めて、胸の膨らみを押さえつけていたほどである。
締めつけが緩んだことで、二回りも大きく見えるようになった乳房を目の当たりにし、イルミラは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆った。
だがデュークはわずかに目を瞠ったのち、それまで背中から抱きしめていたイルミラの身体を反転させ、自分と正面から抱き合う体勢にする。
「きゃあっ!? デュ、デュークさま……ッ?」
「綺麗な胸ですね。真っ白で……こんなに大きいのに、乳輪は小さく、乳首も可愛らしい」
「ひっ……!?」
デュークの言う通り、シミ一つない真っ白な乳房は、綺麗なお椀形に盛り上がっている。呼吸に合わせ、かすかに震えるのがなんとも扇情的だ。
頂を飾る乳輪は、乳房の大きさに反して小さく、薄赤くて慎ましい。かすかにしこり始めた乳首など、男ならむしゃぶりつかずにはいられないほど可愛らしかった。
だが言われたほうのイルミラは、喜びよりも羞恥といたたまれなさを強く感じて、顔をくしゃりと歪めてしまう。
「み、見ないで、見ないでください……!」
「無理です。こんな美味しそうなものを前にして目を逸らすことなどできません」
「お、美味しそ……? ひあっ!?」
デュークがおもむろに乳房に顔を寄せてきて、イルミラは必死に彼を押しやろうとした。
「だ、だめです! 食べちゃ……っ」
彼があまりに真剣に膨らみを見つめているので、もしや本当に食べられるかも……!? と恐怖が芽生える。
そんなイルミラに、デュークはかすかに笑った。真っ白に盛り上がった乳房の谷間から、不敵な上目遣いでこちらを見つめてくる。
「本当に食べたりしませんよ。ただちょっと、味見するだけです」
「……ッ!?」
そう告げる彼の声はこれまでで一番艶っぽく、眼鏡の奥の瞳は捕食者のようにギラついている。
これまで男性にこんな目を向けられたら、一目散に逃げるか魔力を暴発させていたイルミラだ。
なのに、今はなぜか心臓が大きく音を立てて、体温が一気に上がるのを感じて驚いてしまう。
おまけになんだか……身体の奥が……妙にむずむずして、切ない感じが……
(ど、どうなっているの、わたしの身体……! デューク様に見つめられるだけで、なんだかドキドキして、……苦しい……っ)
だが決して不快な感じではない。少なくとも今すぐ張り倒して脱走したいとは思わなかった。
とても見苦しい姿をさらしているであろうことは、いたたまれなくて仕方ないけれど……
「ここ、可愛いですね。見ているだけでぷっくりしてきて。ほら、もう弾けるくらいになってますよ」
「え……? あ、あんっ!」
デュークが人差し指の腹で、左の乳首をピンと弾く。硬くなりかけていた乳首は、刺激を受けてたちまちぷくんと勃ち上がった。
「匂いも強くなった」
「ひンっ……」
うっすらと上気した胸元をペロリと舐められ、イルミラはびくんと肩を揺らす。
「は、あぁ……っ」
「繰り返し言いますが、これは治療の一環です。恥ずかしがることも心苦しく思うこともありません。あなたは与えられる感覚を素直に受け取り、感じればいい。わかりましたか?」
そんなことを言われても、もう今の時点でいっぱいいっぱいだ。頷けるはずがない。
イルミラは泣きそうな顔で首を振るが、デュークは当然ながら聞き入れてはくれなかった。
「本当に、可愛い果実だ。口に含まずにはいられない……」
「あっ! ンン……っ」
膨らみ始めた二つの乳首を、デュークは指先でコリコリと刺激してくる。
人差し指と親指の腹に優しく挟まれしごくようにされると、胸の奥に痛みのような疼きのようななにかが走って、それが下腹をさらに熱くした。
「はっ、あぁ、あ、ン……ッ」
未知の感覚に目を見開いてわななくイルミラだが、すっかり勃ち上がった乳首をペロッと舐められた瞬間、大げさなほど肩を跳ね上げてしまった。
「ひぁっ、……あっ、きゃっ……!」
とっさに逃れようとしたイルミラは、危うくデュークの膝の上から転げ落ちそうになる。
デュークはそれを軽々と受け止め、彼女を長椅子の座面に仰向けに押し倒した。
そして乳房に顔を埋め、柔らかな膨らみを包むように揉みしだく。
「いぁっ……、あ、あ、あっ……」
ふるんと揺れた乳房が、彼の手の中で卑猥に形を変えていく。
恥ずかしくてたまらないのに、ゴツゴツした手の平で乳首を転がされ、もう一方の乳首を温かな口腔に咥えられると、背筋にゾッとするほどの喜悦が押し寄せ、知らず背が弓なりにしなった。
「ひぁ……、ンンぅ……!」
ちゅっ、ちゅうっ、と音を立てて乳首を吸われて、イルミラはたまらず甘やかな声を漏らす。身体の奥がぐつぐつ煮え立つような快感が溢れて、自然と胸を突き出す体勢になっていた。抗おうとしても手足に力が入らず、デュークのシャツを握る指先が弱々しく震えてしまう。
繰り返し乳首を舐められ、乳輪ごと吸い上げられると、頭の中がぼんやりと霞がかっていく気がした。
「はぁ、はぁっ……、んっ……!」
「いいようですね」
長い睫毛を震わせながら、濡れた唇をわななかせるイルミラにデュークは微笑む。
視界の端にチラリと彼の微笑みを見つけたイルミラは、それだけで胸がどくんと高鳴るのを感じた。すると不思議なことに、身体を渦巻く愉悦も一気に倍になって暴れ始める。
「……っ、デュークさ、ま……っ、あぁ、だめ……、わたし、なにか……おかしく……っ」
「正しい反応ですよ。それにやはり淫魔だけあり、感度がいい。これなら治療もはかどりそうです――」
「ああぁん……! んく、ンっ……、あぁぁ……ッ」
ちゅぱっ、と音を立てて、きつく吸い上げた乳首を解放される。それに合わせ豊かな乳房がぶるんと震えて、イルミラはいやいやと首を振った。
「も、だめ……、本当、に……っ」
「まだまだ。治療は始まったばかりです。さあ、いい子だから少し腰を上げなさい」
「え……腰を……?」
「まだ一枚、あなたの身体に残っている布がありますよ?」
ドロワーズを引っ張りながら言われて、イルミラは気が遠くなる思いだった。
「い、いやぁっ、それは……取らないでぇ……!」
大きな胸を見られただけでも息が止まりそうなのに、この上そんなところまで見られてしまったら……!
「それなら、こちらから攻めましょうか?」
「ひあっ! あ、あっ、そこは、あぁ……ッ」
デュークがドロワーズから手を離し、代わりにイルミラの脇腹をいやらしい手つきで撫で上げてくる。びくびく震えたイルミラは、次の瞬間、デュークが舌先を臍のくぼみに差し入れたのを見て悲鳴を上げた。
「ひぁああッ……!」
形のよい小さな臍を舌先でくりくりとえぐるように刺激されると、愉悦がじかに下腹に響いてたまらなくなる。
赤い瞳をこぼれんばかりに見開いたイルミラは、臍をひと舐めされるごとに、びくっ、びくんっ、と腰を跳ね上げた。
「そん、な……、ああ……!」
くちゅくちゅとわざと音を立てて、唾液を纏わせた舌先でねっとりと臍を舐め回す。そうしながらもデュークは、豊かな胸を波打たせて喘ぐイルミラを眼鏡のレンズ越しにじっと観察してきた。
その視線は、果たして医師として患者の様子を観察しているのか。それとも……
いずれにせよ、上半身への愛撫ですでに限界近くまで昂ったイルミラには正常な判断は下せない。
ただただこの喜悦から逃れたくて、あるいはどうにか昇華したくて、豊かな黒髪を振り乱しつつ懸命に正気を保とうとしていた。
だがイルミラのそんな努力を、デュークは易々と打ち砕く。
指先できゅっと乳首を摘ままれ、くりくり刺激されながら臍を舐められたイルミラは、立ち上る疼きにみだりがましい声を上げてしまった。
「ひぃっ、だ、めぇぇえ……ッ!」
イルミラがびくびくと身体を震わせたところで、デュークは臍から舌を引き、代わりになだらかな腹部や乳房の膨らみにきつく吸いついていく。
真っ白な肌に鮮やかな赤い痕がつき、そのたびにイルミラは唇を震わせた。舌の付け根から絶えず唾液が湧き出し、それを呑み下すだけでも一苦労だ。
「く……ぅうン……っ、デューク……さ、ま……っ」
「追い詰められると苦しいけれど、こうして愛撫をやめられてしまうと、それはそれでつらいでしょう? どうです?」
「あ、ん……っ」
彼の言う通り、ただ肌を吸い上げられるだけでは、中途半端に昂った身体が疼くばかりだ。愉悦に翻弄されているときは、一刻も早くやめてほしいと思ったのに。いざやめられると、もっとしてほしくてたまらなくなってしまう。
(う、うそ……。なんで、もっとしてほしい、だなんて)
ふと心に浮かんだ欲求に、イルミラはかぁっと首筋まで赤くなる。
一方のデュークはイルミラのそんな苦悩などお見通しとばかりに、彼女の首筋に舌を這わせながら、艶を帯びた低い声で囁いてきた。
「もっと素直におなりなさい。そもそも淫魔は本能に忠実な種族だ。恥ずかしがることはありません」
「で、でも……っ」
「とはいえ、恥じらう姿も多分に可愛らしくて、僕としては喜ばしいのですが」
「え、か、可愛い……?」
思いがけないことを言われ目を瞬かせるイルミラに、デュークはちゅっと口づけた。
「んぅ……っ」
「さぁ、腰を浮かせて。もっと気持ちいいことをしてあげますから」
「ふぁっ……、あ、いや……、ンンぅ……ッ!」
「なら、いいと言うまでキスし続けますね」
言葉通り、デュークは肉厚の舌をイルミラの口腔に差し入れ、縮こまる彼女の舌を絡め取り、丹念に擦りつけてくる。互いの粘膜がふれ合うぞくぞくした疼きが背筋を伝い降り、未だくすぶる下腹部をさらに熱くした。
「ん、くっ……ふぁ……」
くちゅくちゅと音を立てながら舌を擦りつけ合い、舌の根をくすぐられ、頬の内側を舐め上げられる。口蓋や歯列の裏をなぞられると自然と腰が浮き上がり、イルミラは無意識に身体をよじって身悶えた。
いつの間にかデュークの胸に抱きすくめられている。口づけの合間に臀部や太腿を撫でられ、イルミラは知らずびくっびくっとつま先を跳ね上げた。
硬くしこって感じやすくなった胸の頂が、彼の胸板に擦れるのがたまらない。息もできないほどの深い口づけに酔わされて、すっかり思考が鈍くなったイルミラは、気づけば彼の身体に自分の身体を擦りつけていた。
「はっ……んむ、ぅ……、んふっ……」
「そう。素敵ですよ。そのまま気持ちいいことに集中していなさい」
低い声でそう囁かれるのにすらぞくぞくして、息が上がってしまう。
うっすら目を開けると、眼鏡越しにこちらをじっと凝視するデュークの端整な顔が見えて、心臓がひときわ大きな音を立てて跳ね上がった。
「あ、あ、……デューク、さまぁ……っ」
「ああ、その声、最高にいいですよ。治療の成果が出てきていますね」
深くキスをされ、身体中を撫で回され、さらには舐め回され。治療というにはあまりに淫らすぎるそれに、イルミラは完全に溺れ始めていた。
(だって、気持ちいい……。キスも、すごく、感じちゃう……っ)
自分の奥底に眠る淫魔の本性が、ようやく目覚めのときを迎えたのだろうか。
だがそう思っても、いざドロワーズの紐がシュッと解かれる音が聞こえたときには、羞恥が一気に舞い戻って激しく動揺してしまった。
「あっ、あっ……! 取らないでぇ……ッ!」
しかし快楽に酔った身体では抵抗などできるはずもなく、薄い絹の下着はあっという間に床へ落とされてしまった。
「ああ……っ」
イルミラは思わず、羞恥とも絶望とも、あるいは期待ともつかないため息をつく。
とうとう自分は一糸纏わぬ姿を異性の前にさらしてしまった。……普通の淫魔であれば、少なくとも数年前にはそうなっていておかしくなかっただろう。そしてそれを誇りこそすれ、こんな風に心許なく思うことはないはずだ。
「み、見ないで、くださぃ……!」
「無理な相談ですね」
デュークは淡々と言い切るが、そのまなざしはどこか優しかった。
「こんな美しい身体を前に、目を逸らすことなどできるわけがない」
「あっ……」
「綺麗ですよ、イルミラ。とても綺麗だ。この淡い茂みも、あなたらしくて愛らしい」
「んっ」
控えめな下肢の茂みを優しく撫でられ、イルミラはぴくんと華奢な肩を揺らす。弾みで乳房がふるりと揺れ、恥ずかしさに目元まで熱くなった。
デュークは無理に足を割り開こうとはせず、イルミラの腹部に顔を埋め再び臍に舌を差し入れたり、太腿をゆったりと撫で上げたりと、焦れったい刺激を送ってくる。
まるでイルミラが根負けして、自分から足を開くのを待っているようだ。悔しいことだが、実際に一番疼きのひどいそこにもふれてほしくて、足をもぞもぞさせてしまう。
「ふふっ、イルミラ、足がヒクヒクしていますよ」
「言わない、でぇ……っ」
わかっていることをわざわざ指摘してくるデュークをいっそ恨めしく思いつつも、指先でお臍をこちょこちょとくすぐられて「あぁあんっ」と声を上げてしまう。
汗ばんだ乳房をゆったりと揉みながら、デュークは悪魔のごとく甘い声で囁いてきた。
「ほら。どうして欲しいか言ってみなさい」
「そ、そんな……恥ずかしい……っ」
「繰り返しますが、これは治療なんです。あなたが淫魔らしく快楽に慣れ親しみ、自ら相手を求めるようにならなければ治療は成功とは言えません」
「そ、んな……、やっ、あぁああん……っ」
内腿を思わせぶりに撫でられて、イルミラはびくんと跳ね上がる。外気にさらされた恥ずかしい部分が期待にヒクついて、どうしようもなく泣きたくなった。
だが再び胸元に顔を伏せたデュークに、ぷっくり膨らんだ乳首をころころと舐め転がされ、まろやかな臀部を撫で回されると、恥ずかしいなどと言っていられなくなる。
今にも溢れ出しそうな愉悦に下腹部を波打たせながら、イルミラはついに観念した。
「デューク、さま……さわっ、て……! お願い」
「どこを? イルミラ」
「うっ……、し、下を……」
「下って?」
うぅ、とイルミラは小さくうめく。わかっているくせにわざわざ言わせようとするなんて。
恨めしさと悔しさに思わず顔をくしゃりと歪めるが、潤んだ瞳に上気した頬、艶やかに濡れた唇でそうしたところで、男の情欲を煽る結果にしかならない。
「さあ、イルミラ?」
むっちりとしたイルミラの太腿を指先でつぅとたどって、デュークが囁く。
イルミラは半ばやけくそになりながら、震える足を開き、自身の下生えをそっと押さえた。
「……っ、ここ、を……っ、ここを、さわって、ください……っ」
恥ずかしさのあまり、とうとう涙がこぼれてこめかみを伝う。
透明なそのしずくをデュークは唇で吸い上げて、彼女の豊かな髪を撫でた。
「よく言えました。ご褒美にたっぷりさわって、舐め回して、可愛がってあげましょう」
「ひっ……」
優しい声音で言われたというのに、なんだか空恐ろしく感じる。だが同時にドキドキもしてきて、イルミラは自分の感情を持て余してしまう。
そうこうするうち、デュークは彼女の太腿の裏に手をかけ、彼女の足を思い切り開脚させた。
「きゃあっ!? あっ、あぁ……!」
診察台のときと同じような体勢を取らされ、イルミラはいやいやと激しく首を振る。
一方のデュークは落ちてきた眼鏡を指先でとんっと押し上げると、イルミラの秘所をのぞき込んでどこか愉しげに笑った。
「ああ、すっかり濡れていますね。てらてらと光って、とても綺麗だ」
「~~っ、言わないでぇぇ……!」
恥ずかしい場所をそんな風に評されて、イルミラは悲鳴を上げる。けれどデュークは至極真面目な顔である。
「大切なことですよ。女性が感じるとここを濡らすのは知っていますね? あなたは今、気持ちよくなるための治療をしているのだから、ここが反応してくれなければ、逆に困ってしまうのです」
「ひうぅっ!」
そう言われながら、蜜をたっぷりたたえて濡れそぼった蜜口を指先で撫でられ、イルミラは腰を跳ね上げた。あまりの衝撃に見開いた瞳から涙が散る。
同時に蜜口からも、新たな蜜がとろりとこぼれ落ちた。
「あ、あ……っ、わたし、こんな……っ」
いくら自然なことと言われても、恥ずかしくてたまらない。無意識に逃げを打とうと、お尻が長椅子の座面の上を滑るが、すかさずデュークに押さえつけられてしまった。
「や、あ……っ」
「治療から逃げてはいけません。あなたはおとなしく悦楽を覚えればいい」
「うぅ……」
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