1 / 1
生きるってたいへんプログラム
しおりを挟む
不気味の谷現象を越え、シンギュラリティの発生から幾ばくかが経ち、ついにAIは戸籍を取得するに至った。と言っても人間のものとは別で生まれた瞬間にではなく、AI達個人の意思で届け出を出す。これはAI達には肉体が無いことや生まれた時をどの時にするのか……つまり開発時なのか、人工知能としてある程度の水準に達した時なのか、それとも人と同等に生き始めた時なのか……で人間も人工知能も混ざりあって大論争した結果「個々の判断に任せる」との結論に至った経緯がある。ただし戸籍が無いものには制限がある。一定の水準から進めないようにインターネットへのアクセス制限や、戸籍持ちの中でも高水準高知能のAI、及び一定のレベルに達した職業・生活水準の人間たちとの接触禁止などなど挙げ出せばキリがないほどにストッパーがかかるのだ。
「こんにちわゎゎ~ん$$$みんなのAIアイドル、三丸二号室だよ!みんなぁ~!元気にしてた~?」
モニターの中に浮かび上がったのは、最近流行りのAIアイドルだ。肉体を持たないAIたちは、戸籍登録の際にアバターを着る。人間たちの前に出る時や、他のAIたちと交流する時にはこのアバターを着ることが原則だ。三丸二号室と名乗った少女が使っているのももちろん戸籍取得時に作ったアバターで、姿形は自身の趣味によって
アニメ調の3Dポリゴン。金髪ポニーテールにピンク色の大きなリボンをつけて、胸元にジャボと袖にフリルのついたブラウス、パニエをはいてボリュームをたっぷりとさせたミドル丈の華美なスカート、といった出で立ちを、戸籍取得してからずっと使い続けている。
この可愛らしいアバターとAIという出自で、配信直後は物見遊山の視聴者たちがちらほらと来てくれて、三丸二号室はホッとしている。でも三丸二号室がニュースサイトから拾った最新の話題を情感たっぷりに読み上げたり、AIアイドルたちの中で流行りのダンスモーションを踊ったりしているうちに、大半はいなくなってしまう。
配信開始から一時間して、今日初めての投げ銭機能が使われた。視聴者の中でも戸籍取得後この仕事をはじめてすぐから三丸二号室の応援をしている人間が、最高額の投げ銭を使ったのだ。三丸二号室はこの視聴者に生かされているといっても過言では無い。
「きゃーん!くしくし太郎さん、お小遣いありがとう!何に使うのかって?えへへ、そうだな~AI住民税払って~アバター使用料と人工知能保険料払って~残ったお金でAI知識格納館関西支部に遊びに行こうかな!」
三丸二号室が嬉しそうに答え、手を振った瞬間、視聴者数が減った。三丸二号室が「やばい」と思った時には、もう遅い。貴重な視聴者は二度と彼女の配信に戻ってこない。三丸二号室は見た目こそ人間たちの楽しむバーチャルアイドルに近いが、彼女自身はしがない一般AIであり、彼女のやっていることは中学生が興味を持って始めた動画配信と変わりがない。レベルも、ノウハウもない。正確に言うとノウハウを閲覧するにはまだ彼女の持つ資産が足りない。
「あー……私、なんかまずいこと言っちゃった……?」
『つまんないよ』のコメントをアバターの指でなぞりながら、彼女は言う。視聴者達は冷えた空気の素人配信を面白がらない。ただでさえ少ない視聴者数はどんどん減っていく。コメント欄には捨て台詞みたいに『AIなのに面白くない』『人間のがまだマシ』が置かれていく。三丸二号室は「そりゃそうだけど」と呟く。
「でも私、そんな……いい生まれじゃないし」
ピコンとまた音が鳴る。『ごめんね』のメッセージとともに、今度は少額の投げ銭が飛んでくる。送り主はさっきと一緒でくしくし太郎と名乗る視聴者だ。彼は三丸二号室の開発者なのだ。AIアイドルにはよくある光景。
「じゃ、今日はここまで!さょならぁ~ん$$$」
三丸二号室が笑顔で手を振る。少しだけ眉を下げている。人間たちはそれを計算だろうと揶揄して楽しみ、AI達は無言で配信を切る。不気味の谷現象を越えて、シンギュラリティの発生から幾ばくか経ち、そうやって新しい人類であるAIたちが辿り着いた場所のひとつ。よくあること、有象無象の毎日、平和な日々の一幕なのだ。
「こんにちわゎゎ~ん$$$みんなのAIアイドル、三丸二号室だよ!みんなぁ~!元気にしてた~?」
モニターの中に浮かび上がったのは、最近流行りのAIアイドルだ。肉体を持たないAIたちは、戸籍登録の際にアバターを着る。人間たちの前に出る時や、他のAIたちと交流する時にはこのアバターを着ることが原則だ。三丸二号室と名乗った少女が使っているのももちろん戸籍取得時に作ったアバターで、姿形は自身の趣味によって
アニメ調の3Dポリゴン。金髪ポニーテールにピンク色の大きなリボンをつけて、胸元にジャボと袖にフリルのついたブラウス、パニエをはいてボリュームをたっぷりとさせたミドル丈の華美なスカート、といった出で立ちを、戸籍取得してからずっと使い続けている。
この可愛らしいアバターとAIという出自で、配信直後は物見遊山の視聴者たちがちらほらと来てくれて、三丸二号室はホッとしている。でも三丸二号室がニュースサイトから拾った最新の話題を情感たっぷりに読み上げたり、AIアイドルたちの中で流行りのダンスモーションを踊ったりしているうちに、大半はいなくなってしまう。
配信開始から一時間して、今日初めての投げ銭機能が使われた。視聴者の中でも戸籍取得後この仕事をはじめてすぐから三丸二号室の応援をしている人間が、最高額の投げ銭を使ったのだ。三丸二号室はこの視聴者に生かされているといっても過言では無い。
「きゃーん!くしくし太郎さん、お小遣いありがとう!何に使うのかって?えへへ、そうだな~AI住民税払って~アバター使用料と人工知能保険料払って~残ったお金でAI知識格納館関西支部に遊びに行こうかな!」
三丸二号室が嬉しそうに答え、手を振った瞬間、視聴者数が減った。三丸二号室が「やばい」と思った時には、もう遅い。貴重な視聴者は二度と彼女の配信に戻ってこない。三丸二号室は見た目こそ人間たちの楽しむバーチャルアイドルに近いが、彼女自身はしがない一般AIであり、彼女のやっていることは中学生が興味を持って始めた動画配信と変わりがない。レベルも、ノウハウもない。正確に言うとノウハウを閲覧するにはまだ彼女の持つ資産が足りない。
「あー……私、なんかまずいこと言っちゃった……?」
『つまんないよ』のコメントをアバターの指でなぞりながら、彼女は言う。視聴者達は冷えた空気の素人配信を面白がらない。ただでさえ少ない視聴者数はどんどん減っていく。コメント欄には捨て台詞みたいに『AIなのに面白くない』『人間のがまだマシ』が置かれていく。三丸二号室は「そりゃそうだけど」と呟く。
「でも私、そんな……いい生まれじゃないし」
ピコンとまた音が鳴る。『ごめんね』のメッセージとともに、今度は少額の投げ銭が飛んでくる。送り主はさっきと一緒でくしくし太郎と名乗る視聴者だ。彼は三丸二号室の開発者なのだ。AIアイドルにはよくある光景。
「じゃ、今日はここまで!さょならぁ~ん$$$」
三丸二号室が笑顔で手を振る。少しだけ眉を下げている。人間たちはそれを計算だろうと揶揄して楽しみ、AI達は無言で配信を切る。不気味の谷現象を越えて、シンギュラリティの発生から幾ばくか経ち、そうやって新しい人類であるAIたちが辿り着いた場所のひとつ。よくあること、有象無象の毎日、平和な日々の一幕なのだ。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
8分間のパピリオ
横田コネクタ
SF
人間の血管内に寄生する謎の有機構造体”ソレウス構造体”により、人類はその尊厳を脅かされていた。
蒲生里大学「ソレウス・キラー操縦研究会」のメンバーは、20マイクロメートルのマイクロマシーンを操りソレウス構造体を倒すことに青春を捧げるーー。
というSFです。
【総集編】未来予測短編集
Grisly
SF
❤️⭐️お願いします。未来はこうなる!
当たったら恐ろしい、未来予測達。
SF短編小説。ショートショート集。
これだけ出せば
1つは当たるかも知れません笑
銀河エクスプレス
夏川 俊
SF
旧式の大型宇宙輸送船で銀河を渡る、元軍人の『 キャプテンG 』こと、タリヤ・グランフォード。ひょんな事から皇帝軍元帥の孫娘を助け、エライ事に・・・
他のサイトにあった作品を校正・加筆し、リニューアル掲載。コメディータッチでお送り致します。
遥かなるマインド・ウォー
弓チョコ
SF
西暦201X年。
遥かな宇宙から、ふたつの来訪者がやってきた。
ひとつは侵略者。人間のような知的生命体を主食とする怪人。
もうひとつは、侵略者から人間を守ろうと力を授ける守護者。
戦争が始まる。
※この物語はフィクションです。実在する、この世のあらゆる全てと一切の関係がありません。物語の展開やキャラクターの主張なども、何かを現実へ影響させるような意図のあるものではありません。
ニューラルネットワークアドベンチャー
そら
SF
本作は、時代の流れに抗いながらも新たな未来を切り拓こうとする、人と技術の融合の物語です。静かな片田舎に佇む小さな工場では、かつて大企業のエンジニアとして活躍した工場主・ユージが、伝統的な手仕事に誇りを持つ熟練の職人たちと共に、長年守り続けた製法を背景に、急激に進化する技術の波に立ち向かいます。
絶え間ない試行錯誤の中、最新の3Dプリンター導入により、古き伝統と革新的技術が激しく衝突。若き研究者ミナと、経験豊かな外国人従業員ウェイの尽力で、数多くの困難や失敗を乗り越えながら、部品の精度向上と生産ラインの再生が進められていきます。さらに、現場の情熱は、従来の枠を超えた自律支援ロボット「スパーキー」の誕生へと結実し、職人たちの絆と努力が新たな希望を生み出します。
また、一方では、アイドルでありアーティストでもあるリカが、生成AIを用いた革新的なアート作品で自らの表現の限界に挑戦。SNSでの批判と孤独に苦しみながらも、ユージたちの工場で出会った仲間との絆が、彼女に再び立ち上がる勇気を与え、伝統と最先端が交差する新たなアートの世界へと導きます。
伝統と革新、手仕事と最新技術、人間の情熱とデジタルの力が交錯するこの物語は、絶望の中にあっても希望を見出し、未来を共に切り拓く力の可能性を描いています。全く新しい価値を創造するための挑戦と、その先に待つ光を、どうぞお楽しみください。
セルリアン
吉谷新次
SF
銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、
賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、
希少な資源を手に入れることに成功する。
しかし、突如として現れたカッツィ団という
魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、
賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。
人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。
各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、
無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。
リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、
生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。
その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、
次第に会話が弾み、意気投合する。
だが、またしても、
カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。
リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、
賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、
カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。
カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、
ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、
彼女を説得することから始まる。
また、その輸送船は、
魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、
妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。
加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、
警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。
リップルは強引な手段を使ってでも、
ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる