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外伝 望まぬ新人冒険者【前編】
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今日の稼ぎが意外と良かったので、『しょんべん横町』と呼ばれる飲み屋街の一角で、一人酒を楽しんでいた。
この辺りの飲み屋は、名前からも窺い知れるように客層はあまり良いとは言えない。ただ、店さえ間違えなければ、低価格で美味しい料理と酒が楽しめた。
「この獣肉のモツ煮、旨ッ!!」
安酒を煽りながら舌鼓を何度も打つ。異世界に来た当初、重い荷を一日中担いでも、この界隈で飲めば数日分の給金が飛んでしまうので、よほどのことがなければ足を運ばなかった。
「おばちゃん!! 果実酒を追加ね、酒濃いめでよろひく」
ほろ酔い機嫌で、お代わりの酒を注文した。店員のおばちゃんからコップに酒を注がれ
「兄さん、良い飲みっぷりだね」
と、煽てられているのが分かっていても、それが心地よく感じる。財布を気にせ飲める冒険者になって、本当に良かったと心から思えた。
「よー、おっちゃん!! 随分ご機嫌だな」
後ろから知らない男に、声を掛けられた。
「……?」
振り返って男を見たが、全く見当がつかない。
「おいおい、衣食を共にしたのに、つれないよな」
そう言われて、初めてその男が誰なのか思い出す事が出来た。
「ジェットンか……髭を伸ばしていたんで、男前すぎて分からなかったわ」
「そ、そうか」
彼はそのお世辞に対して、満更でもなさそうな顔で応じてきた。ジェットンは自分が荷運びをしていた職場に居たとき、たこ部屋で、一緒に寝泊まりした職場仲間であった。付き合いといっても冒険者になる半年前に、新しい働き手として来た男だった。
「おばちゃん、俺も同じの一つね」
そう言って、ずうずうしくも、俺の前に座って飲み出した。
一人酒を楽しんでいたので、うざいと思いつつ、暫く付き合うことにする。
「久しぶりの出会いに乾杯!!」
ジェットンが勝手に乾杯の音頭を取る。
彼とは特に嫌な思い出もなかったので、酒を酌み交わす。
「そういや、冒険者になって儲けていると聞いたんだが」
心なしか、俺を見るその目が据わっているように感じる……。
「はははは、いまだに底辺の冒険者だよ。まあ、命を賭けて働くから荷運びよりは、見入りは大きいな」
「マジかよ!! 俺も冒険者になるわ」
そう言って、ジェットンは、コップにぎりぎりまで注がれた酒を一気に煽った。
何だかんだで元居た職場の愚痴を肴にし、店の看板が下ろされるまで二人で飲み続けた。
そんな出来事も忘れていたある日、ギルドの窓口でマリーサさんに声を掛けられる。
「新人冒険者にレクチャーを受けたいと言われたんだけど、受けてくれないかしら」
「依頼を受けるのはやぶさかではないが、金額次第だな」
「おっちゃんには悪いけど、ギルドからはお金が出ないのよね」
マリーサさんは力なく首を横に振り、申し訳なさそうな声でそう言った。
「それなら面倒くさそうな依頼みたいだし、お断りさせて頂くわ」
即答する。
「それがね……その新人の冒険者は、おっちゃんの知り合いだと話すの……」
「俺に心当たりは無いのだ……」
そう言いかけたとき
「おっ!! ずいぶん探したぜ。ギルドにいれば直ぐに会えると思っていたんだけど、ようやく見付けた」
ジェットンがにやにや笑いながら俺に近づいてきた。俺は窓口にいるマリーサさんの顔を見やると、いつのまにか窓口にクロ-ズの布が下ろされており、彼女は別の冒険者と話をしていた……。(おいおい……俺に全部、丸投げかよ)と彼女を睨みつけたが、完全に無視を決め込まれる。俺の瞳には、悲しげな滴が溜まっていた……。
MMM――
「で、何のようだ?」
ぶっきらぼうに相手をする。
「おっちゃんに、冒険者の手解きを受けたいんだよ」
ヌケヌケとそんな事を言って来た。
「それなら受付で申し込めば、初心者講習は受けられるぞ」
「はは……金が掛かるし、先輩ならもっと上手く稼ぐ方法を知ってるだろう」
ただで教えを請いたいと臆面もなく要求してきた……。先日一緒に飲んだこともあり、俺は断ることを一瞬ためらってしまう。
「……」
この瞬間、俺は対応を失敗してしまったと確信してしまう。
「それじゃあよろしく頼みます。せ・ん・ぱ・い」
俺は無精髭を撫でながら
「はあ……一日だけだぞ」
と、観念したかのように肩をすくめて、彼の依頼を了解した。
「じゃあ、行こうか!!」
ジェットンは意気揚々と声を掛けて、ギルドから出て行こうとした。
「おいおい、お前はその姿で山に行く気か!?」
ジェットンは町でぶらつくような衣服で、仕事をするつもりで居たらしい……
俺はそれを見て頭を抱え込む――
「悪いがその格好では、お前を連れて行くことは流石に出来んよ。とりあえず冒険者の最低の装備は、自分で揃えるところから始めてくれ! 子供じゃないんだから、明日までに自分を守れるぐらいの装備と武器、薬草を詰め込める袋を用意して、朝一番にここで落ち合おう」
「買い物ぐらい付き合っても罰はあたらないよな」
俺は背中越しでその言葉を聞かない振りをして、仕事場に向かうことにした……。
この辺りの飲み屋は、名前からも窺い知れるように客層はあまり良いとは言えない。ただ、店さえ間違えなければ、低価格で美味しい料理と酒が楽しめた。
「この獣肉のモツ煮、旨ッ!!」
安酒を煽りながら舌鼓を何度も打つ。異世界に来た当初、重い荷を一日中担いでも、この界隈で飲めば数日分の給金が飛んでしまうので、よほどのことがなければ足を運ばなかった。
「おばちゃん!! 果実酒を追加ね、酒濃いめでよろひく」
ほろ酔い機嫌で、お代わりの酒を注文した。店員のおばちゃんからコップに酒を注がれ
「兄さん、良い飲みっぷりだね」
と、煽てられているのが分かっていても、それが心地よく感じる。財布を気にせ飲める冒険者になって、本当に良かったと心から思えた。
「よー、おっちゃん!! 随分ご機嫌だな」
後ろから知らない男に、声を掛けられた。
「……?」
振り返って男を見たが、全く見当がつかない。
「おいおい、衣食を共にしたのに、つれないよな」
そう言われて、初めてその男が誰なのか思い出す事が出来た。
「ジェットンか……髭を伸ばしていたんで、男前すぎて分からなかったわ」
「そ、そうか」
彼はそのお世辞に対して、満更でもなさそうな顔で応じてきた。ジェットンは自分が荷運びをしていた職場に居たとき、たこ部屋で、一緒に寝泊まりした職場仲間であった。付き合いといっても冒険者になる半年前に、新しい働き手として来た男だった。
「おばちゃん、俺も同じの一つね」
そう言って、ずうずうしくも、俺の前に座って飲み出した。
一人酒を楽しんでいたので、うざいと思いつつ、暫く付き合うことにする。
「久しぶりの出会いに乾杯!!」
ジェットンが勝手に乾杯の音頭を取る。
彼とは特に嫌な思い出もなかったので、酒を酌み交わす。
「そういや、冒険者になって儲けていると聞いたんだが」
心なしか、俺を見るその目が据わっているように感じる……。
「はははは、いまだに底辺の冒険者だよ。まあ、命を賭けて働くから荷運びよりは、見入りは大きいな」
「マジかよ!! 俺も冒険者になるわ」
そう言って、ジェットンは、コップにぎりぎりまで注がれた酒を一気に煽った。
何だかんだで元居た職場の愚痴を肴にし、店の看板が下ろされるまで二人で飲み続けた。
そんな出来事も忘れていたある日、ギルドの窓口でマリーサさんに声を掛けられる。
「新人冒険者にレクチャーを受けたいと言われたんだけど、受けてくれないかしら」
「依頼を受けるのはやぶさかではないが、金額次第だな」
「おっちゃんには悪いけど、ギルドからはお金が出ないのよね」
マリーサさんは力なく首を横に振り、申し訳なさそうな声でそう言った。
「それなら面倒くさそうな依頼みたいだし、お断りさせて頂くわ」
即答する。
「それがね……その新人の冒険者は、おっちゃんの知り合いだと話すの……」
「俺に心当たりは無いのだ……」
そう言いかけたとき
「おっ!! ずいぶん探したぜ。ギルドにいれば直ぐに会えると思っていたんだけど、ようやく見付けた」
ジェットンがにやにや笑いながら俺に近づいてきた。俺は窓口にいるマリーサさんの顔を見やると、いつのまにか窓口にクロ-ズの布が下ろされており、彼女は別の冒険者と話をしていた……。(おいおい……俺に全部、丸投げかよ)と彼女を睨みつけたが、完全に無視を決め込まれる。俺の瞳には、悲しげな滴が溜まっていた……。
MMM――
「で、何のようだ?」
ぶっきらぼうに相手をする。
「おっちゃんに、冒険者の手解きを受けたいんだよ」
ヌケヌケとそんな事を言って来た。
「それなら受付で申し込めば、初心者講習は受けられるぞ」
「はは……金が掛かるし、先輩ならもっと上手く稼ぐ方法を知ってるだろう」
ただで教えを請いたいと臆面もなく要求してきた……。先日一緒に飲んだこともあり、俺は断ることを一瞬ためらってしまう。
「……」
この瞬間、俺は対応を失敗してしまったと確信してしまう。
「それじゃあよろしく頼みます。せ・ん・ぱ・い」
俺は無精髭を撫でながら
「はあ……一日だけだぞ」
と、観念したかのように肩をすくめて、彼の依頼を了解した。
「じゃあ、行こうか!!」
ジェットンは意気揚々と声を掛けて、ギルドから出て行こうとした。
「おいおい、お前はその姿で山に行く気か!?」
ジェットンは町でぶらつくような衣服で、仕事をするつもりで居たらしい……
俺はそれを見て頭を抱え込む――
「悪いがその格好では、お前を連れて行くことは流石に出来んよ。とりあえず冒険者の最低の装備は、自分で揃えるところから始めてくれ! 子供じゃないんだから、明日までに自分を守れるぐらいの装備と武器、薬草を詰め込める袋を用意して、朝一番にここで落ち合おう」
「買い物ぐらい付き合っても罰はあたらないよな」
俺は背中越しでその言葉を聞かない振りをして、仕事場に向かうことにした……。
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