225 / 229
外伝 恋の告白【前編】
しおりを挟む
異世界での食生活は、醤油を手に入れてから大幅に改善されたと言えよう。ただジャンクフードが大好きだった自分としては、それが食べられないことに郷愁を誘っていた。異世界にも、お菓子が無い訳ではない。塩辛い乾燥菓子や砂糖菓子といった化学調味料が使われていない、素朴な味わいのあるお菓子は、数多く売られていた。
日本で食べていたジャンクフードに遠くお呼びはしないが、酒のつまみや小腹が空いたときのお菓子としては、十分許せた。けれども、この異世界で決して食べることが出来ない、あるお菓子の代表があった。
チョコレートである――
日本で暮らしていたときは、チョコレートが好きかと問われれば、それほど好きだと答えはしなかったと思う。ただし、単品でチョコレートを食べるのではなく、クッキーやアイスクリーム、ナッツと組み合わされるチョコ菓子は、結構口に入れていた。
無性にチョコレートが食べたくなり、枕を濡らす。
その出来事の発端が、これだった――
「おっちゃんさあ……何かこうぱあっと、脳が喜ぶようなお菓子ってない?」
クリオネが椅子を馬に見立て、ガタガタ揺らしながらいつもの無茶振りをする。
「はあ……また王宮で自慢したい訳ね……お前は天才料理人だから、俺が答えを出すのは、ずるだと思うんだけど」
俺は溜息混じりに言った。
「はあー!! 馬鹿なことを言わないで頂戴! 発想するのは貴方かもしれませんが、完成させるのは、わ・た・し・な・ん・で・す・か・ら!!」
クリオネは口を開いて、しかめっ面で返してきた。
「そうかもしれんな……故郷でお菓子の王様と言ったら、チョコレートだったよ。こちらに越して来てから、見たことがないお菓子の一つだ」
「名前だけじゃ、どんなお菓子か想像出来ないわ」
「真っ黒い、砂糖菓子に近いか……」
「その、チョコレートの原材料って何なのかしら?」
矢継ぎ早、彼女は次々と尋ねてくる。
「カカオ豆と呼ばれる果実の種よ……(この世界で例えるなら)バルビンの果実に小さな種が詰まったものだと想像してくれ。実際は豆じゃない、ただの種なんだけどな……」
「豆じゃなければ、そんなの(多すぎて)探せる訳無いじゃない!!」
「そうなんだよ……食べることが出来ないお菓子……」
俺はそう言いかけ、はたと気が付いた。
「すまんが、クリオネが知っている豆を出来るだけそろえて、俺に送ってくれ」
「それで見付けられるって言うのね!」
彼女が俺にぐいっと迫る。
「いや……小さな可能性だ……」
俺は自分の口元が、かすかに緩んでいるのを自覚した。
二週間後、クリオネの手によって、ありとあらゆる豆が、我が家に届けられた――
* * *
「豆って、こんなに種類があったんだな!!」
レイラがテーブルの上に無造作に並べられた種を、指で弾いて遊んでいる。その弾き飛ばされた豆を摘んでは食べ、俺は首をかしげる。
「旨いのか??」
そう言って、レイラは乾燥した豆を口に入れ、『うえっ』と声を上げ吐き出した。
「ぺっ、ぺっ、くそ不味いじゃねえか!!」
目があった俺を、軽く睨みつける。
「煎ってもしないのだから、不味いに決まってるだろう……」
やれやれと、俺は首を振り、また一粒の豆を噛み砕く。
「早くこの豆を。煎ってくれよ」
床に並べられた豆の入った袋を掴み、雛鳥が食わせろと、ピーピーとせがんでくる。俺はそれを無視しながら、くそ不味い豆を食べ続けた。全ての豆を囓り終え、俺はがっくりと肩を落とした。
「お目当ての豆が、見つからなかったんですね……」
リビングで刀剣を磨いていたテレサが、御苦労様と声を掛け
「早く夕食を作って下さい」
と、せがんだ。
「おっちゃんが探しているって豆って、一体どんな物なんだ?」
レイラが口を挟む。
「故郷ではイナゴ豆って呼ばれているんだけど、俺も実際見たことも食べたことも無いのよ」
「じゃあ、見つからない」
ルリが結論じみた発言をする。
「俺が想像するに、普通の豆より甘く感じるはずなんだが」
「駄豆なら甘い」
「駄豆?? この中にあったのか」
「駄豆は動物たちの飼料……冒険者になる前よく食べてた」
そう言って、ルリは酷く悲しそうな顔を浮かべた。
「夕食は少し待っててくれ! 市場に出かけてくる」
俺は市場に駄豆を買いに、家から飛び出した――
※ 勇者の友人はひきこもり https://www.alphapolis.co.jp/novel/613099930/158643400
第15回ファンタジー小説大賞 に応募しました。お気に入り登録してくれると、やる気が二倍に増えますwww
日本で食べていたジャンクフードに遠くお呼びはしないが、酒のつまみや小腹が空いたときのお菓子としては、十分許せた。けれども、この異世界で決して食べることが出来ない、あるお菓子の代表があった。
チョコレートである――
日本で暮らしていたときは、チョコレートが好きかと問われれば、それほど好きだと答えはしなかったと思う。ただし、単品でチョコレートを食べるのではなく、クッキーやアイスクリーム、ナッツと組み合わされるチョコ菓子は、結構口に入れていた。
無性にチョコレートが食べたくなり、枕を濡らす。
その出来事の発端が、これだった――
「おっちゃんさあ……何かこうぱあっと、脳が喜ぶようなお菓子ってない?」
クリオネが椅子を馬に見立て、ガタガタ揺らしながらいつもの無茶振りをする。
「はあ……また王宮で自慢したい訳ね……お前は天才料理人だから、俺が答えを出すのは、ずるだと思うんだけど」
俺は溜息混じりに言った。
「はあー!! 馬鹿なことを言わないで頂戴! 発想するのは貴方かもしれませんが、完成させるのは、わ・た・し・な・ん・で・す・か・ら!!」
クリオネは口を開いて、しかめっ面で返してきた。
「そうかもしれんな……故郷でお菓子の王様と言ったら、チョコレートだったよ。こちらに越して来てから、見たことがないお菓子の一つだ」
「名前だけじゃ、どんなお菓子か想像出来ないわ」
「真っ黒い、砂糖菓子に近いか……」
「その、チョコレートの原材料って何なのかしら?」
矢継ぎ早、彼女は次々と尋ねてくる。
「カカオ豆と呼ばれる果実の種よ……(この世界で例えるなら)バルビンの果実に小さな種が詰まったものだと想像してくれ。実際は豆じゃない、ただの種なんだけどな……」
「豆じゃなければ、そんなの(多すぎて)探せる訳無いじゃない!!」
「そうなんだよ……食べることが出来ないお菓子……」
俺はそう言いかけ、はたと気が付いた。
「すまんが、クリオネが知っている豆を出来るだけそろえて、俺に送ってくれ」
「それで見付けられるって言うのね!」
彼女が俺にぐいっと迫る。
「いや……小さな可能性だ……」
俺は自分の口元が、かすかに緩んでいるのを自覚した。
二週間後、クリオネの手によって、ありとあらゆる豆が、我が家に届けられた――
* * *
「豆って、こんなに種類があったんだな!!」
レイラがテーブルの上に無造作に並べられた種を、指で弾いて遊んでいる。その弾き飛ばされた豆を摘んでは食べ、俺は首をかしげる。
「旨いのか??」
そう言って、レイラは乾燥した豆を口に入れ、『うえっ』と声を上げ吐き出した。
「ぺっ、ぺっ、くそ不味いじゃねえか!!」
目があった俺を、軽く睨みつける。
「煎ってもしないのだから、不味いに決まってるだろう……」
やれやれと、俺は首を振り、また一粒の豆を噛み砕く。
「早くこの豆を。煎ってくれよ」
床に並べられた豆の入った袋を掴み、雛鳥が食わせろと、ピーピーとせがんでくる。俺はそれを無視しながら、くそ不味い豆を食べ続けた。全ての豆を囓り終え、俺はがっくりと肩を落とした。
「お目当ての豆が、見つからなかったんですね……」
リビングで刀剣を磨いていたテレサが、御苦労様と声を掛け
「早く夕食を作って下さい」
と、せがんだ。
「おっちゃんが探しているって豆って、一体どんな物なんだ?」
レイラが口を挟む。
「故郷ではイナゴ豆って呼ばれているんだけど、俺も実際見たことも食べたことも無いのよ」
「じゃあ、見つからない」
ルリが結論じみた発言をする。
「俺が想像するに、普通の豆より甘く感じるはずなんだが」
「駄豆なら甘い」
「駄豆?? この中にあったのか」
「駄豆は動物たちの飼料……冒険者になる前よく食べてた」
そう言って、ルリは酷く悲しそうな顔を浮かべた。
「夕食は少し待っててくれ! 市場に出かけてくる」
俺は市場に駄豆を買いに、家から飛び出した――
※ 勇者の友人はひきこもり https://www.alphapolis.co.jp/novel/613099930/158643400
第15回ファンタジー小説大賞 に応募しました。お気に入り登録してくれると、やる気が二倍に増えますwww
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
241
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる