上 下
222 / 229

外伝 先輩風

しおりを挟む
 ギルドで噂になっていた黒髪のルーキーを初めて見たが、想像以上に異様な雰囲気を持ち合わせた人物だった。ギルド仲間の話では、ルーキーはおっさんだと聞いていたけど、彫りが浅いのっぺりとした顔立ちが、年齢不詳に見せていた。

 酒場にたむろっている冒険者たちは、新人冒険者を見つけると、からかうようにくだを巻く。しかし黒髪のルーキーに対しては、未だに遠巻きで眺めるだけである。長い柄に刃を付けた武器を持ち歩いているので、ソロで獲物を狩ってくるかと思っていたが、日帰りでギルドに戻り、袋に詰めた薬草を毎日換金してくる優等生ルーキーだった。

 ギルドや山道で会えば向こうから挨拶をしてくるし、自分の中での彼の不気味さは、日増しに薄れていく。いつのまにか彼のことを、おっちゃんと呼ぶようになっていた。ソロで薬草摘みを続けている冒険者は意外と少ない。仕事に慣れれば、実入りの良い狩りを中心に、冒険者活動をするルーキーが大半なのだが、おっちゃんは薬草狩りに重きを置いているように思えた。

「もっと美味しい、依頼は幾つもあるだろう」

 そう言って、俺はソロでも出来そうな依頼書を掲示板から引き千切り、おっちゃんに手渡した。

「命が大事だし……」

 いつもの薄笑いを俺に向け、おっちゃんは依頼書に目をやり、そう一言残してギルドを去っていく。

「余計なことをしたようだ」

 彼の背中を見ながら呟いた。

 数日後、驚いたことに俺が押しつけた依頼を、おっちゃんは片づけてきた。

「無理にやらせたみたいで、悪かったな!」

 そう言って、換金所で並んでいたおっちゃんに声を掛ける。

「俺のランクに合わせて見繕ってきてくれた仕事なんだろう、謝る必要はないぞ。後ろめたいなら、もっと美味しい仕事を振ってくれ」

 そう言い終わると、おっちゃんが大きな声を出して笑う。

「今度はとびきり金になる仕事を斡旋してやる」

「楽しみにしているぜ、せ・ん・ぱ・い」

 俺は自分の名を告げ、先輩と呼ぶなと怒るそぶりを見せた。彼は悪びれもせず、ギルドから出て行く。ルーキーに生意気な態度を取られたが、悪い気はしなかった……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:271

Arousal of NPC‘s

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:5

ラブ・ホリック

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,553pt お気に入り:1,589

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:166

Cattleya gaskelliana

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,043pt お気に入り:2,136

異世界に飛ばされたおっさんは何処へ行く?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,514pt お気に入り:17,952

処理中です...