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外伝 探偵は踊る

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「あ~、たいくつだぁ~~」

 そういって、レイラが手に持ったトランプを空中に放り投げた。面白いゲームも、数をこなせば次第に飽きてくるのは必然である。特にレイラは頭脳戦がめっぽう弱いので、負けが続くことも多かった。

「レイラは馬鹿だから、仕方がないですね」

 テレサが床に散らばったトランプを掻き集める。

「おっちゃん、他に面白いゲームは無いのかよ!」

 と、俺に無茶振りしてくる。

「そうだな……そういえばルリは友人に、トランプを作ってあげているんだろ」

「うん」

 彼女がコクリと頷く。

「まだ、何も絵を描いていない、カードの予備はあるか?」

「結構持ってる……」

 そこで俺はルリと一緒に、あるカードゲームを作ることにした。

 カードそれぞれに、【犯人】【第一発見者】【憲兵】【憲兵の犬】【市民】【愚者】【うわさ】【情報】【アリバイ】【取引】この十種類のカードを文字と絵で完成させた。

  簡単にルールを説明するぞ。ゲームは「ババ抜き」をイメージしてくれ。

【情報】カードは、全員が、手持ちのカードを左隣のプレイヤーに手渡す。
【うわさ】カードは。全員が、右隣のプレイヤーから、カードを一枚引き抜く。
【取引】カードは、誰か1人とカードを1枚交換する
【市民】カードは、場にカードを捨てるだけで、なにもおこらない。

 このカードゲームは【犯人】カードを持っている人を当てるのが目的だ。犯人を指名出来るのが、【憲兵】カードと憲兵の犬】カードの二枚だ。

【憲兵】カードは、【犯人】カードを持っている、プレイヤー言い当てる役目を負う。
【憲兵の犬】カードは、犯人と思われるプレイヤーを指名し、そのプレイヤーの持っている手持ちカードの中から一枚引いて、【犯人】カードであれば、犯人は逮捕できる。違うカードなら、そのままゲームは続行される。

【アリバイ】カードは、犯人と言い当てられたとき、このカードを持っていれば。犯人ではないですと嘘がつける。【犯人】カードをもっているなら、この 【アリバイ】カードがあれば防げる、重要な使い道のあるカードだな。

 簡単なカードの説明はしたので、とりあえずゲームを始めようか。

 俺はそう言って、全員にカードを配り始めた。

「まずカードの中に【第一発見者】がある人は、それを場に出してくれ」

「今回は自分だったので、このカードを場に出すぞ」

 自分が【第一発見者】カードを場に出した。

「このカードを出した人は、事件を決めることが出来る」

『テレサがベッドで、裸の姿で刺されて殺されていました!』

 俺が宣言すると、場に笑いがどっと起こる

「なんで私が、全裸で殺されているんだ……」

「まあ、この【第一発見者】が自由に被害者や事件を、設定するのが結構面白いのよ。ではゲームを時計回りに進めるぞ」

 俺を起点に、手持ちのカードを場に捨てる。

 テレサが【情報】カードを場に出す。手持ちの札の中から、必要のないカードを、左手の相手に手渡した。

「ひい!……」

 レイラが分かりやすい、反応をする。

 【犯人】のカードを受け取ったのがバレバレである。一巡目を過ぎるまで、【憲兵】は犯人を言い当ててはいけない。二巡目で犯人を推測し、【憲兵】カードで犯人を捕まえることが出来る。

「貴方がテレサを、殺したんですね!」

 俺が【憲兵】カードを場に出して、レイラを指名した。

「ぐぬぬ……私がテレサを殺しました」

 レイラは殺人の罪を認めて、ゲームが終わる。

「今回は、レイラがあまりにも分かりやすい反応を示したから、すぐにばれちまったな。トランプのババ抜きの要領で【犯人】カードをなすり付け合い、ゲームを進行する遊びだ」

 カードに指示(使い方)が書かれているので、数回ほどゲームを進行すると、皆がルールを簡単に覚える。

「【犯人】カードを最後の一枚で出した場合、犯人の勝利になるんですよね」

 テレサがそう言って、【犯人】カードを場に出した。

「おっちゃんが、オレを犯人だと邪推して、【憲兵】カードを無駄遣いするから負けたんだ!」

 レイラは俺の頭を、ポカポカと殴る。

「面目ない……。レイラの態度があまりにも怪しく感じちまったんで……まさか【犯人】カードが移動しているとは、思わなかったぞ」

 カードによっては、自分の意志でいらない手札が渡せるので、【犯人】カードの移動も案外早い。酒が入って遊んでいるので、『パンツを盗んだ犯人は誰だ!?』『トイレに×××を残した事件を解決するぞ!』など、下ネタ事件ばかり増えていく……。

「路上で裸姿を見せ付けた、露出狂はお前だな!!」

 レイラが【憲兵の犬】カードを場に出し、テレサの持ち札から一枚のカードを引き抜いた。レイラが手にしたカードは【犯人】だった! 彼女は引き抜かれたトランプを持ったまま、呆然とする。

「信じられん……! なぜこのカードが引き当てられるんだ……。今の流れだと、おっちゃんが【犯人】カードを持っていると考える方が自然だ」

「うーん、感だな! テレサは露出狂の臭いがするし」

 レイラはニヤニヤ顔で、テレサを見下した。

「ぐぬぬ……」

 テレサは顔を真っ赤にしながら、肩をブルブルと震わせる。

「レイラに【憲兵の犬】を持たせたら神懸かりだ。もう何回犯人を検挙したか分からなくなっちまったな。まさに犬と呼ぶに相応しい」

「にゃ、にゃんだと!?」

「それは猫」

 ルリがさらっと、レイラに突っ込んだ。

 そんな感じで、深夜まで『憲兵は踊る』というゲームが続く。

「おしゃけが、ねーじょ」

 テレサが空瓶を、俺の頭にコツッと当ててくる。

「仕方がないから、取ってきてやるか」

 俺は重い腰を上げ、台所に向かう。暗がりの中、酒を収納している棚を見上げて愕然とする。
 
 「買い溜めしていた、酒がほとんど無くなっている!!」

   俺は血相を変え、残りの酒瓶を持って居間に戻る。そうして容疑者を睨みつけ――

「「「犯人はお前だ~~~~~~~~~~~」」」

 ×××を除いた三人の指が、一斉に【犯人】を指差す。

 我が家に隠れ住んでいた盗賊は、いとも簡単に検挙される事になった……。



※ 「犯人は踊る」というボードゲームが元ネタです。異世界では【探偵】→【憲兵】カードに置き換えております。ちびっこ名探偵のセリフや、死んだじじいの名誉を恥ずかし気もなく宣言出来ます。子供から大人までが幅広く楽しめる、ボードゲームの企業案件を受けて、書いた物語でしたwww。
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