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第百九十七話 魔王城【其の二】

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 なんとか魔王が釣れたことに俺は安堵した……

「これから、音茶と大切な会談をするので、お茶の用意をせよ。それと、われが呼ぶまでお前たちは外で待っておれ。パトリシア王女には別室でゆっくり寛げるように準備して、案内してやれ」

 魔王は威厳のある声で、メイドたちに指示を次々と出す。

「魔王様と話を付けるから、寝ながら待っていてくれるか」

「ああ……おっちゃんに全て、お願いする」

 感情のこもらない、乾いた声でパトリシアが答えた。俺はそんなしょげ返った彼女の肩を叩いて、見送るしかなかった。

 ――メイドによってテーブルの上に、美味しそうなお茶菓子と、お茶が並べられる。俺はその中の焼き菓子を一つ摘んで、むしゃむしゃと食べる。そうしてお茶を一口啜り、ようやく気持ちが落ち着いた。

「どうしてわれが漫画なんぞに興味があると分かったのか、まずは教えて欲しい」

「こんなくそったれた異世界へ、漫画やアニメに興味のある日本人以外、誰がトラックに跳ねられて来るって言うんだ」

 俺は魔王を見て、にやりと笑う。

「音茶よ、われの愚問であったな。では、お茶を飲みながら本題の話でもしようではないか」

 魔王は早く語れと目で即した。

「バーサーカー物語の四十一巻で、ゲッツが堕天使の住む国に辿り着き、なんとか姫の魂を解放することに成功した」

「なんと! 話が全然進んでおらんではないか」

 怒りをぶつけるように、テーブルをバンバンと叩く。

「悲しいがそれが現実だ。休載も多くて新刊が二年以上、出版されないこともあった。しかも作者はここまで描いて亡くなってしまった……」

「ひいい! その訃報は聞きとうなかった……続きは絶望か」

 魔王が悲壮感に満ちた口調で呟いた。

「最後に、アシスタントを使って漫画を描いていたから、物語は別物だが、作画だけは彼の意志を受け継ぐ可能性はある」

「ふはー。ではもう一人、あのアシスタント使わなくなったBUSTER×BUSTERの続きを早く語ってくれ」

「昆虫人間との戦いまでは、読んでいたか?」

「ああ、あの最後は涙無くしては読めなかった。ただ、一年ごとに単行本一冊のペースで追いかけるのは、きつかったがな」

「そのチャンプで連載十周ペースが崩れて、三年周期になってしまった……」

「ひいい!! そんなに面白いゲームが出続けたのか」

 俺はイキりピエロの覚醒の章と、主人公復活の章を魔王に語った。

「口だけピエロめ……やるではないか! 地獄七人衆にブチ切れて、裏切る展開に持って行くとは、さすがB×Bだな」

 魔王様はご機嫌な様子で、俺の話に聞き入る。 

「そこからタイタニック号で、新世界にむけ主人公以外が乗り込む展開で話はストップさ。主人公復活で終わっていれば綺麗な最終回だったが、今のところ登場人物があまりにも多く出てきて、ぐだぐだな展開だ……」

「彼の年齢から鑑みて、終わらないんじゃないのか」

「大丈夫だ、乗っている船の名はタイタニック号。しかもヒロイン枠に笛吹き女がいる。彼お得意のブチ切りエンドの可能性十分だ」

「ふはっ!? 船が沈んで……新世界に行けずとな!?」

 魔王は魂の抜けた顔になった。

「大丈夫だと最初に言ったが……新世界に数人だけ行き着き、登場人物を間引く可能性もあるけどな」

 そう言って、俺は魔王に向かってテヘペロした……。

「それだと、まだ終わらないと……」

 魔王は白目になって、お茶を一気に飲み干した。

「その点、山賊王Vは、少々休みが入るが、毎週描き続けてくれている」

 俺は山賊王Vの話を蕩々と語る。

「最後は、予想通り月での大決戦で終わったのか!!」

「作者が言ってた一巻での秘密。あれはタイトルのロゴ、主人公Vをひっくり返してみると、宇宙船に見えるという仕掛けだったのよ」

「なんと、単行本で作者の写真が宇宙人というだけが、遊びの伏線では無かったのか。それでも綺麗に終わって良かったぞ」

「それが……作者はそこで終わるといっていたんだが、宇宙冒険編が始まってしまった。しかも話はもう眼も当てられないほど酷くて……」

「ほげーーーー」

 魔王は椅子からずり落ちる――

「魔王様よ、これで対価としては十分だろう」

 暫く沈黙か続く……

「それは駄目だな」

 魔王は苦い顔で首を横に振る。

「おい! それはちょっと頂けないな」

 魔王につかみかかる勢いで、俺は声を荒げた。

「確かに音茶がした話は面白かったし、対価に値すると考えた。しかしどの作品も

「確かに読者なら、このまま死んでも死にきれないとは思う」 

 俺は全身の力が抜けて、ぐぐぐーと腹の音を鳴らした――

「もう昼をとっくに回ってしまったな……せっかくここまで来たのだから。夕食ぐらいは食わせてやる」

 このままでは会談が終わってしまう……何も考えないまま、口から言葉が飛び出した。

「魔王様よ!! 料理勝負といこうではないか」

「突拍子もない話を打ち出したな……」

 魔王が、何を言っているのか分からないという表情を俺に向ける。

「さっきの戦いは、俺の負けでは納得いかない。もし審判がいれば、引き分けにはなっていると思わないか」

 俺は魔王に目を合わせて、問いかける。

「確かに……われは納得はしなかったが、楽しんだことは認めてやる」 

「これから夕飯を俺が作るので、もし魔王様がそれを認めれば俺の勝ちだ」

「わははは、そのつまらぬ提案に乗ってやるわ。アナベルよ部屋に入ってきて良いぞ」

 楽しそうに笑ってメイドを呼ぶ魔王を見て、俺の方が不満そうな顔をしているのに気が付いた。

「魔王様、お呼びですかにゃ」

「此奴と一緒に食材を買って参れ。金に糸目は付けないで、われに出す料理と思って、音茶の買い物に付き合え」

「はい、了解しましたにゃ」――

 ――――俺はアナベルに連れられて、城から街へと繰り出した。
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