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第百八十八話 王女、ラミア国を去る

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 壇上から降りても拍手が鳴り止まず、どう対応して良いのか分からなくて恥ずかしい思いをする。沢山のラミアが俺の周りに次々と集まってきたので、従者たちがナーナ女王とターニャ王女がいる席まで露払い役を務めてくれた。

「それにしても大層な人気者じゃな。恐怖の物語と匂わせて、泣かせる話に持っていくなんて、憎い演出をしたものじゃ」

 ターニャが目を腫らして、俺に軽口を叩く。

「なんとか、無事に終わってほっとしたな」

 俺はテーブルの上にあった冷め切ったお茶を、一気に飲み干した。

「ふわわわわ、素晴らしいお話でした。涙が……涙が止まりません。国に帰ったらおっちゃんに、講談の依頼を出しますから!」

 パトリシア王女はハンカチで鼻をすすりながら、恐ろしい事をのたまわった。

「師匠、お疲れ様でした。目指す目標はさらに遠ざかりましたが、いつか師匠に追いつきたいと思います」

 自称弟子が男泣きしながら、人目もはばからず熱い言葉を吐いた。

「追いつくのではない、追い越すのさ」

 彼の熱さに絆され、師匠らしい言葉を掛けてしまった。俺たちのいる席に沢山のラミアたちが集まり、対応に追われる。とりあえず、『ありがとうございます』『そうですか』『嬉しいです』など適当な相づちを打ちながら、お茶を濁す。  

「明日の二回講演も大成功、間違いなしです」

 ナーナ女王の一言で、お開きという雰囲気が流れる。ようやく俺とスカーレットはメイドに案内され、貴賓室に戻ることが出来た。

 貴賓室のベッドで横になり、今日一日を振り返る。まだ魔王に会ってさえいないのに、あまりにも濃い時間だったと気が付き、思考を捨て不貞寝する。

 翌日――

 最初の講演で、呪いを受けてオークの顔になったのラミアが、空賊たちと空中戦を繰り広げる、おっさん竜騎士の活躍する物語をした。『飛べねぇオークは、ただのオークだ』と言う言葉がラミアたちにささり、思った以上の大盛況に驚いた。

「最後のさらわれた王女様のキスで、元に戻るのは何となくよめましたが、竜が戦闘で傷つき身体が治るまで、竜騎士が一生懸命介護するあのシーンを思い出すと、涙が止まりません」

  昨日と同じように、パトリシア王女は鼻をぐずらせ、泣いている。

「竜を乗り物にする発想は、さすが屑としかいえんのう」

 泣き腫らした目で、俺をディスる……。

「んふふふ……この物語がドラゴニア王国に漏れるのは、危険かもしれませんわね」

 ナーナ王女は思わず苦笑いを浮かべる。

「それなら、竜を巨大な鳥とかに置き換えればいい話だ」

 少しむっとした顔で、言い返した。
 
「さすが師匠! 言葉の魔術師です」

 自称弟子から「さす師匠」を頂きました。

 王宮の一室で、みんなとがやがやと過ごす時間は、悪くはないと感じた――

「第二講演は、『海中の城ラミュー』をお願いしますね」

 ナーナ王女が御題を即決した。こいつら本当にこの物語が好きだな……いや、日本のテレビで何回放送しても視聴率を取っていたことを思い出し、改めて白髭親父とジブリの凄さに感服した。軽い昼食を挟んで、第二講演が始まった。

  二人は海流石を握りしめ唱えた!――

「「「「「「「「「「「「「「バルス!」」」」」」」」」」」」」

 観客席から「バルス」の掛け声が一斉に上がる。俺はそれを聞いて、一瞬転けそうになったが、体制を立て直す。

「目が目がァァ~」

 俺は目が潰れて苦しそうに藻掻くコミカルな演技をすると、場内にいた観客たちから拍手喝采を浴びた。(俺は歌舞伎役者かよ)心の中で突っ込む余裕も、この話では出来てしまう自分が悲しかった。

 講談が終わり、観客から揉みくちゃにされながら、楽屋もとい貴賓室に戻る。

「お疲れ様でした」

 メイドに冷たい飲み物を受け通り、渇いた喉をを潤してようやく人心地がついた。貴賓室には、ナーナ王女とターニャ女王が待っており、講演の終わりを告げた。

「また、講演をお願いしますわね」

 ナーナ女王が、然も当たり前のようにお願いをした。

「断固断る」

 と、俺は即答した。

「では、約束通り行きましょうか」

 彼女はいきなり、俺たちがお願いした最初の目的を切り出した。

「おお……俺は良いがパトリシアは、旅の準備は出来ているのか?」

「はい、別れのご挨拶も済ませました」

 それを聞いて、寝室に入る。俺は燕尾服をベッドに投げ捨て、いつもの服に着替えて戻ってきた。

「ターニャ、世話になったな」

 俺は右手を軽く挙げ、彼女に別れの挨拶をする。

「無事に帰れることを祈るよ」

 彼女はおちゃらけず、真面目に俺たちの旅の安全を心配してくれた。

「ターニャさん、暫く留守をしますので何かありましたらお願いしますね」

 そう言って、ナーナ女王はその場で魔法陣を描き、俺たちにその中へ入るように命じた。俺たちは言われるまま、床に描かれた魔法陣に足を踏み入れた。

 魔法陣を潜り抜けると

「おっちゃん久しぶりだね!!」

 何故か聞いた声のある声が、転移先から聞こえてきた。移動した先の景色が見えてくると、俺の前には何故か、テトラがちょこんと立っているのであった――
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