上 下
179 / 229

第百八十話 ドワーフの企み

しおりを挟む
 国技館のような形の王宮の一室で、二人のドワーフが密談を交わしていた――

「私はあなたにトカゲ姫を持ち帰るなんて、命令を出した覚えは無いはずですが……」

 王冠をかぶり白いドレスで着飾った女性のドワーフが、一人の男を糾弾している。

「命令違反は承知しているが、この国を救った英雄に掛ける言葉とは、思えませんがねえ」

 キャゼルヌ女王の前で、少し軽薄な態度をとった。

「コージー、そんな冗談を言っても笑えませんよ」

「スカーレット女王は、龍石を手にしている。しかも拳大のどでかい大きさの宝玉だ!!」

「はーっ……リザードマン国の王女だから、国宝級の石の一つや二つぐらい隠し持っていたとしても、おかしくはない話です」

 玉座に肘を置いたまま、コージーに対して無愛想な態度で接した。

「確かに可能性は低いが、イグザス王があの大きさの龍石を、娘に託していたと思われてもしかたのない話しか……しかし事実は全く違う。彼女に石を託したのは、貴方が命じた姫の宿泊先の人間から受け取った物だ。俺はその現場をこの目でちゃんと目撃している。嘘だと思うなら、他のメンバーに尋ねて貰ってもかまわねーよ」

 「なっ……おっちゃんから龍石を受け取ったとでも!?」

 キャゼルヌ王女は玉座から立ち上がり、声を上げる。

「その石は、ドラゴニア王国の竜王から譲り受けた物だと、おっちゃんは、そう言ってたぜ」

「それは本当の話しなのですか!?」

「まだ、俺は旅先から帰ったばかりなので、完全な裏は取れていないが、ほぼ事実に間違いはない。奴は腹芸など出来る人間ではない。スカーレット王女は、巨万の富と同時に、竜王という強力な後ろ盾を、確実に得る事になった」

「まさか、おっちゃんにそのような力があったとは、貴方の話を聞いているのに信じられません。私はあの人間を、完全に見誤っていたようですね……」

 彼女は自分の落ち度を簡単に認める。

「俺の口からはなんとも……ただ、彼女がこの国で暗殺されれば、いかなる理由があろうと、ドラゴニア王国からそしりを受けることは間違いないだろう。いや……竜王とおっちゃんの繫がりは、龍石を与えるほど強いので、そしりだけですめば御の字だ。下手をすれば竜族に、この国は滅ぼされる可能性だってあるぞ」

「とんだお土産を持ち込んできたものですね」

「流石に責任を押しつけられても、俺はお使いに行っただけですよ」

 コージーが馴れ馴れしくそう口にする。

「そうでしたわね……。今後トカゲ姫を守るのは当然だとして、彼女をどう扱うか……傀儡くぐつ政権をたて、隣国と戦うのが正しい道筋に思えてしまいました」

 彼女はそう言って、大きな溜息をついた。

「隣国も戦争で疲弊しているので、追い返すなら今しかないと思うが……一介の運び屋風情が、国家の問題に口出す話ではないですな」

「そんな連れないことを申すでない。私たちは×××なんだから」

 そう言って、女王は小さく笑った。

「それと一月前に、人間国でドワーフとリザードマンの襲撃を受けたと、おっちゃんは怒り心頭でしたな」

「私はその様な命令は出してはおりません」

 コージーの目を真っ直ぐ見つめて、きっぱりと否定する。

「ああ、分かっている。情報が筒抜けすぎるので言ったまでだ。それで女王に追加料金をよこせと伝言を頼まれた」

「貴方には十分な、宝石を与えていたのをお忘れですか」

「いやはや、やぶ蛇になっちまった」

 二人は顔を見合わせ、くくくと笑った。

「コージーよ悪いが、トカゲ姫の警護を増やすから、もう少しの間だけ付き合ってください。これからも、何かあればよろしく頼みますよ」

「女王様の仰せのままに」

 コージーは、静かに王宮を後にした。

 キャゼルヌはテーブルの上に乗せられた、手付かずのワイングラスに口をつけ、一気に酒を流し込んだ。年代物のワインだったが、なんら変わりのない安酒に思えた。

「はーー、まさかあの人間に、私が振り回されるなんて想像もしませんでしたわね」

 彼女はもう一度大きな溜息をついて、不安を紛らわせるように安酒・・を煽った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...