上 下
129 / 229

第百三十話 ドラゴニア王国【其の一】

しおりを挟む
 我が家の前に二匹の竜が今か今かと、御子様の来るのを待ちわびている。そんなことは知らなかった俺たちは、ソラを抱えて玄関で別れの挨拶を交わす。

「行ってくるから」

 ルリとテレサに一時の別れを告げた。

「……ソラ、元気でね」

「ここがお前の家だからな……」

 涙ぐむ二人をよそに「きゅぴぴぴ」と、いつもの調子で挨拶を返すソラだった……。

「さあ、行きますか!」

 そう言って、レイラは俺の背中を気合いを入れろとばかりにバシンと叩く。

おっちゃん・・・・・を守ってくれよな」

 彼女はプッと吹き出し、大きく頷いた。

「どれだけ待たすのか! 早く御子様と一緒にガルシア様に乗ってくれ」

 赤竜の倍以上の大きさな青竜が、腰を屈めて俺たちを待っていた。

「転移魔法じゃないのかよ!?」

 俺はまさか竜に乗せられ旅立つとは考えもしなかった。数時間でドラゴニア王国に着くと聞かされたが、どれだけ揺れるのか想像するだけで酔いそうになる。早く乗らないかと急かされてしまい、俺とレイラはその竜の背にある荷台の上によじ登った。

「俺たちを落とすんじゃないぞ」

 表情を強ばらせながら、ガルシアに声を掛けた。

「魔法のシールドを張っているので、心配する必要はない」

 フラグが立ちそうなので、御子の卵はどうして落ちたんだと言うのを止めにした。

「あっ!? 家の鍵を忘れてきた」

 俺はズボンと服のポケットをまさぐって鍵を探したが出てこない。

「オレが自分の鍵を持っているから大丈夫だ」

 そう言って、荷台から降りようとした俺をレイラが止めた。

 そうこうしているうちに、目の前で大きな翼が羽ばたき宙に上がる。大空に上がった青竜は雲を切り裂くように前に進んでいく。不思議なことに風圧も揺れもなく、飛行機の中にいるような快適な乗り心地だった。

 レイラとソラは荷台の窓から、かじり付くように外の景色を見ている。

「雲の上に乗れそうだな」

 レイラが子供のような感想を言ったので

「飛び降りたら跳ねるように動けるぞ」

「下ろしてくれと頼もうかな」

 冗談のつもりで言ったが、彼女は信じてしまった……。荷台から地上は見えにくかったので、景色を見るのを飽きたレイラとソラは暫くすると、イビキを掻きながら眠ってしまった。俺も月一で会議に行くために乗っていた、飛行機を思い出しながら目を閉じた。

                        *      *      *

「おぃ、もうすぐ王国に着くから起きてくれ」

 ガルシアの声が荷台に響く。

「うにゃぁ~、もうこれ以上飲めないや……」

  俺は口から涎を垂らして、寝言を言っているレイラを揺り起こした。

 高度が徐々に低くなり、地上の景色が見えてきた。大きな建物が碁盤の目のように規則正しく広がっていた。その中心には赤銅色の、巨大な光る塔がそびえ立っている。俺たちを乗せた青竜は、その建物の近くにゆっくりと旋回し降り立った。

 荷台から降りると、あれだけ大きかった青竜の身体がみるみる小さくなり、俺たちの知っているガルシアに戻っていった。

 俺たちは彼に案内されるまま青銅の塔に着いた。塔の入り口には、衛兵は立っておらず、すんなりと扉を開いて入ることが出来た。

 塔の中は思ったよりシンプルな作りで、調度品も少なく竜王の住まいかと訝しむほど、何もない空間が広がっている。その部屋の奥から二列に並んだ集団が現れた。その中でも一団の先頭に立って、ひときわ目立つ男がいる。ブルーの生地に金糸で幾何学的な紋様が描かれた服を身につけた、端整な顔立ちの男がこの国の王だとすぐに気が付いた。

 その男の容姿は、エメラルドグリーンの髪の毛が腰まで伸びており、ガルシアとは正反対の線の細い体型をしている。かたわらには、同じ髪型をした、薄いシルクのドレスを着こなす美しい女性が寄り添っていた。

 ガルシアとクラリスは、俺たちを挟むように、その集団が近づくまで待つように合図を送る――――

「ガルシアよ、待ちかねたぞ!」

「御子様と命の恩人を連れて参りました」

 そう言って、彼は頭を垂れた。

「遠いところまで我が子を連れてきて頂き礼を言う。我が名は竜王ガルムそして隣にいるのが竜妃シグレと申す」

 二人は俺たちに頭を深々と下げてきた。

「俺の名は静岡音茶、おっちゃんで名が通っている」

 「オ…、私はレイラと申します」

「キュピピピーーー」

 ソラも自分も忘れるなとばかりに、鳴き声を上げた。

「ああ……生きてたのね……」

 竜妃が震える両手を広げソラに迫る。俺は彼らにかまそうと色々な言葉を用意していたが、彼女の姿を見て全てが吹き飛んでしまう。

「抱いてやってくれ」

 彼女にソラを渡した……。ソラは嫌がりもせず、竜妃の胸に抱かれ甘えだした。その姿を見ながら彼女は涙を流しながら笑っている。そして、竜王もまたソラに手を掛け、嗚咽の声を漏らしていた。やがて堪えきれなくなった二人のむせび泣く声が、塔の中に静かに響き渡る――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

福寿草真
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】 何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。 魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!? これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。 スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...