上 下
126 / 229

第百二十七話 親子の時間

しおりを挟む
 「ググーー」っと、大きな腹の虫が鳴る。レイラは自分の腹・・・・を見ながら、そっと贅肉をつかむ。思いのほか大きな褐色のお餅が一つ出来た。

「ちょっとヤバイかも……」

 レイラは小さく呟いた。

 おっちゃんの料理が出来るまでのんびりと、ベッドの上で筋トレを始めることにした。両足をまっすぐ上にあげ、お腹に付加をかける。背中をつけ足を円を描くように足を回す。そうして、あげた足をゆっくり下ろしながら呼吸を整えた。暫くの間トレーニングを続けていると、扉を叩く音がする。いや、ひっかく音がした。ゆっくりと扉を開くと隙間から、ソラが飛び込んでくる。「キューーン」オレに抱いてくれと甘えるように鳴いた。

 こういう行動をソラがするときは、たいてい台所でおっちゃんに、追い払われたときが多い。忙しく食事を作っている最中、ギャースと鳴きながら、おっちゃんの足にまとわりつくソラの姿が想像出来た。オレはそんな甘えん坊のソラをベッドの上に置いた。

 オレンジ色の瞳を大きく広げ、こちらをじっと見つめてくる。ソラのあざとい仕草に、鼻先を指で軽く弾いてやった。

「フシューー」

 ソラは不満をレイラに漏らす。

「そういうのは、好きな男にやるもんだぜ」

 そう言うと、ソラは見透かされたのが恥ずかったのか、オレのお腹に頭をギューッと押しつけてきた。

「仕方がない奴だ……」

 赤ん坊を抱くように、ソラを抱え上げ背中を優しく撫でてやった。

「キュピーーン」

 ソラは目を閉じ、オレに身体を預ける。

「初めはこんなちっちゃかったくせに、今では抱えるのも大変と思えるぐらいに大きくなったよな」

 卵から生まれたばかりのソラを思い出す。

「キュピピピ」

「小さいくせに結構重かったんだぜ」

 ソラは尻尾でレイラを軽く叩き否定した……。

「キュピピピピピーー」

「そんなに怒るなよ」

 ソラを抱えたまま、左右にあやすよう揺らす。

「キュピピピピーー」

 もっと激しく動かせとソラは催促してくる。

「ソラとは会うことも少なくなるかもしれないが、お前はどちらを選ぶんだろうな……」

 レイラは悲しみの表情を浮かべた――

「キュピキュピ……」

「まだ、赤ちゃんだから分からないか」

 彼女はソラを見ながら少し寂しげに笑う。

「ほーら、高い! 高ーーーーい」

 ソラを抱え上げ遊んでやる。

「キュピキュピピーーー」

「もっと、高い高ーーーーーーい」

「キュピピピピーーーーーーー」

「楽しいか! ソラ」

 ソラの目がすーと細くなり、レイラに冷たい視線を向けた。

「コンドハオトサナイデネ」

 レイラの顔が真っ青になった――そしてあの日のことを、ソラに見られていたかと思うと、今度は耳の付け根まで真っ赤に染まっていく――





※ W複線回収だ(笑)。第47話・第102話参照
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:271

Arousal of NPC‘s

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:5

ラブ・ホリック

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,688pt お気に入り:1,587

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:166

Cattleya gaskelliana

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,298pt お気に入り:2,135

異世界に飛ばされたおっさんは何処へ行く?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,521pt お気に入り:17,948

処理中です...