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第百二十六話 ドラゴンと竜使い

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 竿先が弧を描き、魚の重さが手に伝わってくる。道糸からビンビンと音が鳴り、魚は逃げようと大きな岩場に潜り込もうと必死に抵抗する。俺は竿を軽くいなして、魚を岩場から遠ざける。魚は顔を左右に振って針を外そうと暴れるが、竿のしなりを十分に生かして体力を奪う。やがて力尽きたかのように、魚が水面に浮き上がってくる。

 「よっしゃあ!!」

 左手で魚の口に手を入れ、水からすくい上げた。

 針を外し魚を河原に投げると、「キュキュキュー」ソラは跳ね回る魚を押さえつけ、自分と同じぐらいの魚にかぶりつく。俺はそれを眺めながら相棒が来るのを待っていた。魚が骨だけになった頃、上空から赤いドラゴンが降りてくる。

 ズシンと地面が軽く揺れ、河原に魔獣が横たわる。俺の前でまだ死んでいない魔獣がビクビクと動く。腰にさしている鉈を、そいつの首筋に刃を通し絶命させた。首筋からドクドクと流れる血が止まるまでの間、釣りを再開させた。

 今の俺は薬草狩りのおっちゃん改め、ドラゴン使いにジョブチェンジしている。魔獣を解体するだけで、大枚を得る冒険者垂涎の美味しい仕事だ。タリア川での解体は危険を伴うので普通は出来ないが、ドラゴンが隣にいれば、そこはただの屠殺場とさつばだ。ナイフを獣の身体に入れ、内臓を取り出し川で水洗いをし皮を剥ぎ取った。

「褒めるのはしゃくだけど、見事なものだな」

 クラリスは解体作業を面白そうに眺めている。  

 大きさは違えど、冒険者家業を続けていくうちに、獣の解体は魚をさばくのと同じような感覚で出来るようになっていた。

「時間もあることだし、もう一匹仕留めてくるか」

「いや、これ一頭で十分すぎる稼ぎだ、無理に狩る必要はない」

「無理ではないぞ」

 そう言って、赤い竜は飛び立っていく……。

「言葉の行間が全く読めない女だな……ソラはあんな子には育つなよ」

「キュピピピピー」

 俺の言葉は何処吹く風とばかりに、おやつを早くよこせと尻尾で催促する。

 今日一日、俺は赤いドラゴンを使役しながら、腰が痛くなるまで解体作業を続けた。その結果、ソリの上には、折り重なるように魔獣の山が出来た。俺はドラゴンを引き連れながら、意気揚々とそれを町まで持ち帰る。

 ギルドの受付で、大量に持ち込んだ魔獣の査定を待っていると、後ろから声を掛けられた。

 「ケケッ、良い金づるを見付けてきたよな!」

 オットウが下卑た言葉で、笑いながら俺をからかう。

 「お前と違って、まじめに働いているのを神様はいつでも・・・・見ているのさ」

「じゃあ、二人とも地獄行きだな」

  俺は金貨のつまった小袋を懐に入れ、ニヤリと笑い返す。

餞別せんべつだ」

  オットウは懐から果物を取り出し、ソラに放り投げてきた。「キュキュー」ソラはそれを上手に受け止めた。
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