上 下
117 / 229

第百十八話 ババンババンバンバン【アビバビバビバ】

しおりを挟む
「朝まで付き合ってくれてありがとな」

 ソラを抱きながら、テレサとルリに向け深々と頭を下げた。

「水くさい奴だな……頭を下げるなんてしないでくれ」

「謝るのは駄目」

「私たちはこのまま仕事に行くので、ソラちゃんを無事に・・・家まで届けるんだぞ」

 そう言って、テレサは悪戯っぽく笑った。

「まだ時間はあるから、家に帰って仮眠でも取ればいいじゃないか」

「詰め所には仮眠室もあるので大丈夫だ」

「ルリはこの後、仕事が続くんだろ?」

「数日ぐらい徹夜が続いても問題ない。ただ、プリンとアイスが食べられないのは残念」

「帰ってきたら、幾らでも作ってやるさ」

 俺は笑って答えて、二人とギルドの前で別れることにした。腕の中でぐったりとしていたソラに声を掛ける。

「さあ我が家に帰るとするか」

「クキュ~~ッ」

 絞り出すような声でソラが返事を返してきた。昨夜はギルドから家まで帰るのに、あんなに遠いと感じた道のりが、嘘のように近く感じた。ソラを抱えている分重いはずが、この重さに安心感さえ覚える。

 我が家に着いたのでソラの足を拭こうとしたが、身体は泥で汚れて真っ黒になっていた。昨日の残り湯が残っていたので、そのまま火を入れて風呂に入る準備をした。リビングでソラを膝に乗せ、お風呂のお湯が沸くのをのんびりと待つ。

 いつもなら身体を洗われるのが苦手のソラが抵抗もしない。俺はソラの身体をお湯で流すと、身体から真っ黒な水が流れ出た。昨日はさぞ山の中を走り回ったんだろうなとソラを優しく見つめた。身体の汚れは取れ、いつものエメラルドグリーンの光沢ある鱗が戻ってきた。俺はソラの身体を拭いてお風呂場から出そうとした。

「キュキュキューーー」

 ソラが甘えるように鳴き出し、風呂場から一向に出ようとしない。普段は身体を洗うと、風呂場から逃げるように飛び出して、ストレスを発散するかのように部屋中を走り回っていた。俺は聞き分けのないソラを床に置いて、自分の身体を洗うことにする。ソラは床に這いつくばりながら、俺の身体が泡まみれになるのを不思議そうな顔をして眺めていた。

「ふ~~~~疲れたぁ~~~」

 浴槽に肩まで浸かると、昨日からの疲れが全部とれる。ソラは自分も風呂に入れろとばかりに湯船をカリカリと掻いた。俺は風呂の温度を心配して無視をしていたが、今度は「キューキュー」と大声で鳴き出したので尻尾からゆっくり、湯船の中にソラを沈めてみる。ソラは俺の柔肌にギュッと爪を立てしがみついてきた。

「イタタタタッ」

 俺はソラを身体から離し、もう一度ソラを浮かべるように支えた。暫くするとお湯に慣れたのか、尻尾を左右に振りながら泳ぎだした。泳ぐといっても身体数個分の浴室の間を、プカプカと浮いている感じなだけなのだが……。どうやら熱さには耐性があるらしく、風呂から出ようとはしない。ただ、のぼせてしまうと一大事なので、まだ俺の身体は完全に温もっては居ないが、風呂から上がることにした。

 ソラの身体を拭くときには、もう死体のように全身の力が抜けて眠っていた。俺も身体を拭いてベッドに直行した。

  俺はソラと布団に入るやいなや泥のように眠りについた――

                     *      *      *

 寝るのにも体力がいる。二十四時間眠り続けていると思ったら、まだ夕方にもなっていなかった。それでも熟睡したので、疲労は殆ど抜けていた。ベッドから抜け出ると、お腹がググーッと鳴る。昨日の昼から丸一日、水以外を口にしていないことに気が付き苦笑する。いつもならお腹がすいて起こしてくれるソラが、まだベッドの中でピクリとも動かず眠っている。

 俺は台所に行き、野菜と肉を炒めて簡単な昼食を作り始めた。フライパンから肉の焼ける香ばしい臭いが鼻に入る。そこにソースをかけるとジューという音と香りが部屋中に広がった。するといつのまにかソラが足下で「キューキュー」鳴き声を出していた。さっきまで起きる気配さえなかったのに、臭いに釣られて起きる食いしん坊だ……。

 ソラの食器に野菜と生肉を山盛りに乗せ、野菜炒めと一緒にテーブルまで運んだ。ソラはいつもより五月蠅いぐらいに鳴きながらご飯をねだった。こいつも迷子になって何も食べていないと思うと、今更ながら震えが来た。

 遅い昼食を取った俺は、出かけることにした。

 ギルドの近くの大通をソラを連れて歩く。低級冒険者御用達の道具屋に入る

「へい、いらっしゃい!」

 寿司屋の店主のような挨拶を、道具屋の親父にされた。

「先日、こいつがリードから抜け出してしまったので、少し見てくれないか」

「えっ!? リードから抜け出るほどちゃちな作りはしていないはずだが」

 ソラに付いているリードを見ながら

「特に外れる感じはないんだが……」

「ソラ、こいつを外せるか?」

 リードをぐいっときつく引っ張った。

「キュキュー」

「このトカゲ言葉が分かるのか」

 親父は自分で言った冗談に・・・笑った。

 ソラは身体をくねりだしリードの留め具が徐々に緩んでいく。やがて前足に固定されていたリードが緩んで、ソラはリードから簡単に抜け出した。その様子を見ていた親父はかなり驚いている。

「こいつの力は思った以上に強いな! 普通なら留め具が緩むことはないが、力負けしてしまってたのは俺のミスだ」

 彼はリードを触りながら、問題のありそうな部分を入念にチェックしていた。

「俺が留め具を壊したなどと、疑わないで欲しい」

「わかっとるわい」

 金具を調整しながら、リードの強度を確かめる。

「これで抜け出ることはないはずだ」

 そう言って、ソラにリードを付け直した。

「ソラ外せるか?」

「キュピピピーー」

  ソラは身体を動かしながら、リードを外そうと身体をくねらす。暫くして外すことを諦める。

「本当に人間の言葉を理解してるのかよ!!」

「ソラは賢いからな。リードの調整費は幾らだ?」

「銀貨四枚だ」

「こういうときは俺のミスだから、ただにするんじゃねーのか!!」

「低級冒険者を相手に商売しているので、稼ぎの良い奴から少しぐらい金を貰っても罰はあたらんだろ」

 道具屋の親父は豪快に笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

福寿草真
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】 何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。 魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!? これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。 スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。

処理中です...