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第百十七話 迷子の迷子のトカゲちゃん

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「凄ーーい」

 茂みを少し駆け回るだけで、沢山のバッタが四方八方に飛び散った。右に飛んだバッタにゆっくりと近づき、狙いを定めて飛びかかった。ボクの手の中でバッタは羽根をぱたぱた動かして藻掻いている。そうして手に力を入れるとバッタは動かなくなる。次は左にいる数匹のバッタを尻尾で叩いた。「パシッ」と音がなり得バッタがはじけ飛んだ。あっというまに三匹も狩れてしまった。ボクはこれを沢山集めて遊ぶことにした。

 左右に逃げ惑うバッタを追いながら、着々と虫の山を大きくしていく。この茂みは大当たりだ! ボクは茂みの中のバッタを粗方狩り尽くし、山盛りなった獲物を食べようとした。そのとき今まで見たことのない大物バッタが、ボクの数メートル先に飛んできた。

 ボクは力を溜めて飛ぼうとしたが、リードが邪魔で届かない……。小さかった頃、リードを外そうとしていたら『そんなことをしたら二度と外には出さない!』と強く叱られたことを思い出した。でも、あの獲物は狩りたい。ボクは手と身体をくねらしてリードを緩めていく。やがて身体にしっかり張り付いていた、手のリードが、ぬるりと抜け自由になった。

 前を見るとボクの獲物はまだ逃げていなかった。ボクは全身に力を溜めそいつに飛びかかった。「バサバサ」と羽根を広げたバッタは、狩られるすんでの所で飛び去ってしまう。けれどそんなことで逃げ切ったと思わないで欲しい。ボクは目が良いのだ! もう一度狙いをすませ、気づかれないように足を運ぶ。今度は大丈夫、そう確信したボクは獲物に再度攻撃を仕掛けた。バサッ!羽根を広げたバッタはボクをあざ笑うかのように、数十メートル先まで飛んで逃げた。

 まだ捕まえられる距離にバッタはいる。今度こそ狩ってやる! そろりと足を動かすと「パタパタ」今度は獲物と半分の距離も近づくことも出来ずに逃がしてしまう。

「悔しいーーー」

 まだ獲物を見失っては居ないので、地面の音を鳴らさず身を屈めながらゆっくり進む。バッタはボクの接近を全く気づきもせず草を食べている。二十メートル……十五メートルとその距離は確実に縮まっていく。十メートル、五メートルまだ気づかれていない。三メートル、二メートル遂に十分に狙える距離まで縮まった。

 獲った!! 両手に獲物の重さが十分に伝わってきた。「バサッ」大きく開いた羽根の力で軽く吹き飛ばされた。「グヌヌヌ~」油断してしまった。虫だと侮って押さえれば狩れると思い込んでいた。バッタはボクの視界から消えてしまう。

 疲れた……戻ろうと辺りを見回して、そこからどう戻って帰れるのか分からなくなってしまった。見かけたような木に向かって走り、耳を澄ましても何の音もしない。

「おーい、ここだよーー」

 声を上げても、ボクを迎えに来てくれない。

どこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこ

 ボクは森の中を走り続けた。すると茂みを見付けた!! 嬉しくなって茂みの下に潜って、長いトンネルを抜けた。ようやくボクは帰ることが出来た――

  そこは大木がびっしり生えた全く知らない場所だった。

「見付けて! 見付けて! 見付けて!」

 大声で叫んでもボクを迎えに来てくれない。

助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて

 日が傾きあっという間に辺りは闇に覆われた。いつもはどれだけ暗くなろうが、守ってくれる人がいた。だから夜が怖いと思ったことなど一度もなかった。暗闇で動けなくなったボクは何度も彼の名を呼んだ。そして思い出す。『暗闇で声を出すと、野獣に狙われるから鳴かないの』ボクはその場で丸くうずくまった。

 お腹がググーーと鳴った。茂みに積んだバッタを思い出すと余計にお腹がすいてきた。

 暗闇の中「キーキー」となにかが叫ぶ声がする。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 身体がガタガタと震える。ボクは大きな木の横で身体を縮めながら、何時間もの間ずっと暗闇を見続けた……。

 辺りがうっすらと明るくなって、鳥たちがピピピピと森の中でさえずりり出した。ボクは地面に生えていた草を口に入れた。少しだけ元気が戻ってきたので、頑張って声を出してみた。

「助けてーーーー、助けてーーー」
 
――――「……………ラ」

 何か声が聞こえたような気がした。

「……………ソラ……」――――

 間違いない、誰かがボクの名前を呼んでいた。その声の方向に向かって走っていく。そこに見知らぬおじさんが立っていた。

「ソラか!?」

 僕の名前を呼んだ、

「そうだよ、おじさんは誰?」

「そう警戒するな……今からおっちゃんの所に連れて帰ってやる」

 ボクはゆっくり近づいていく。そしてその人に抱え上げられた。見知らぬおじさんにボクは運ばれながら山道を進む。遠くの方に人が数人集まっているのが見えてきた。

 おじさんはボクをゆっくりと地面に下ろした。

走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る

 ボクはいつもの指定席に飛び込んだ――――
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