上 下
113 / 229

第百十四話 考察

しおりを挟む
 ソラと一緒にタリアの中心街に出かけた。当たり前のような顔をして、ソラをリードで繋いで歩いていたが、人とすれ違う度に二度見される。『コバルトブルーのトカゲが、町中で紐を付けられ歩いていた』と、人に話したら、ほら話になってしまうだろう。

 高級住宅の一角にあるデルモント伯爵邸に着くと、用意した籠の中にソラを入れる。ソラは「クーン」と一鳴きして静かになった。そこで門番にダブリンに会いに来たことを伝える。門番は籠の中を確認し、ギョッという顔を作ったが、何も言わずに屋敷に通された。何か言われるかと身構えていたので、少しだけ拍子抜けした。

「良く来てくれた、おっちゃん氏」

 ダブリンの部屋に入ると、大きな腹をぷるぷると震わせながら、笑顔で俺を迎え入れてくれた。

「突然来てしまって悪かったな」

 彼は一応デルモント伯爵の息子なので、一介の平民がなんのアポもなく会いにいくのはかなり失礼な行為にあたる。ただ彼の趣味も相まってそういう面倒なことは、すっ飛ばして面会が出来るのだ。

「おっちゃんと拙者せっしゃの間柄に遠慮など必要ないでござる。それよりその持っている籠には何がいるのでおじゃる?」

 ダブリンは俺と話すや否やそれに食いついた。俺は籠からソラを取り出しダブリンに見せた。

「なんですか!? この小動物は」

 俺はソラを拾った経緯を簡単に説明した。

「それなのよ、このトカゲの種類を調べたくなってな。それで遊びに来たのよ。詳しい動物の書籍でも持ってないか?」

「虫以外は、それほど知識はないでおじゃるが、それなりの蔵書はあるので持ってこさせよう」

 ダブリンは執事を呼んで、本を探してくるように命じてくれた。

「虫以外に興味はないでおじゃるが、このトカゲを見ると浮気したくなるの 」

 そう言ってダブリンはソラをまじまじと見つめた。

「ソラという名前だ。触っても噛まないぞ」

「キュキュー」

「この大きい鱗に、緑の光沢が引き立てて良い感じでおじゃる、それに背についた器官も厳つくて痺れますぞ」

 指先で鱗を撫で回した。

「キュキュキュキューーーッ」

 ソラはダブリンのべた褒めに喜びを表す。

「言葉まで理解出来ている感じですな!」

「ああ、犬猫以上の知性はあるな」

 俺は重くなったソラを絨毯の上に置いた。ソラは絨毯の柔らかい触感に顔を擦りつけたり、前足でガリガリ掻いていた。そして部屋に沢山積んでいる虫籠に近づいた。ソラはそれに鼻を付けクンクン臭いをかいでいる。

「それ一匹で俺の一年以上の稼ぎより高い虫だから、絶対に食べたらだめだぞ! 」

「おっちゃん氏、そんな冗談はよしてほしいでおじゃる」

 顔を青くしながらソラを見た。

 俺は万が一に備えて、もう一度ソラを抱きかかえた。

 メイドが、お茶とお菓子をテーブルまで運んでくる。いつもは俺が来ても話しもしない彼女が声を掛けてくる。

「可愛いトカゲですね」

「ソラという名だ、触っても噛まないぞ」

 彼女はソラをひょいと持ち上げ抱きかかえた。

「クーーン」

 メイドの身体から食べ物の匂いがするのか、胸の谷間に鼻先を埋める。

「こら! くすぐったいから止めなさい」

 俺は美味しい焼き菓子を食べながら、メイドとトカゲの痴態スキンシップを眺めた。

 オタクとはそんな空気を全く読まない生き物である。ダブリンは嬉しそうに、新しく迎え入れた昆虫たちを俺に紹介する。俺も彼が自慢する虫に引き込まれた。テーブルの虫たちがソラに食べられたら、大事になるのでメイドにそのままソラを任せたまま、虫談義に花を咲かせた。

 テーブルの上のお茶が冷めた頃、執事が何冊かの本を運んできた。ダブリンはそれを受け取りページをパラパラとめくる。

「どうやらこのトカゲと一致するものは無いでおじゃる。新種という可能性もありますぞ」

「そうか……まあ、種類が分からなくても問題はないが、こういうのは、はっきりさせないとむず痒くてな!」

「分かるでおじゃる」

 俺たちはフヒヒヒと笑い合った。

 メイドはそんな俺たちを、いつも以上に白い目で見ている……。

「素人の推測で申し訳ないでおじゃるが、ソラはトカゲで無い可能性も大きいですぞ」

「トカゲじゃない!?」

 ダブリンはメイドを指しながら

「焼き菓子を食べながら、上半身をもたげるなんて事は、トカゲの足の構造上あれほど綺麗に立つなんてことはないでおじゃる」

「言われてみればそうだよな……」

「あの突起物はドラゴンの翼に酷似してて、鱗の大きさ、知性などかんがみるとドラゴンの幼体とは言い過ぎかの」

「巨体であるドラゴンが、拳ぐらいの卵を生むのは想像出来ないよな」

「小さい頃にドラゴンにあこがれたのでかなり詳しいでおじゃるが、百年前は人間にも攻撃を仕掛けたりして、国を揺るがす大惨事になってたこともあったでおじゃる。もっと昔には、英雄がドラゴンを打ち倒した話しはごまんと残っておる」

「それは興味深い話しだな!」

「拙者は飛んでいるドラゴンをたびたび見たことがあるぞ。このような色ではなかったけれども鱗の光沢は似通っていると推測するでおじゃる」

「そういえば俺もかなり近接で、ドラゴンが数匹飛び回っているのを目撃したが、言われてみればソラの鱗の付き方に似ていた気もする」

「それに大きな事に気が付いていないのではっきり言うが、トカゲは鳴かないでおじゃる・・・・・・・・・・・・

 俺はその一言に、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。

「た、確かに……生まれてすぐに鳴いていたものだから、当たり前のように受け入れていたぞ……雛鳥じゃあるまいしトカゲが鳴くのはありえんな」

「ソラはトカゲではなく魔物の一種でおじゃる」

「なんとなく腑に落ちて心がすっきりした」

そう言ってダブリンに右手を差し出し、がっちりと握手を交わした。

「じゃあ、こいつの正体も分かったことだしお暇するわ」

「またいつでも遊びにくるとよいでおじゃる」

 俺は玄関先で彼に挨拶を交わす。

「で、そろそろソラを返してくれ」

 俺はメイドからソラを受け取ろうとした。

「何をおっしゃってるのか分かりません? この子はモンブラン家の一員よ 」

 しれっとメイドが爆弾宣言を発する。

「はあ!? 何を言ってるこの糞メイドが!!」

「ああ! ぼっちゃま~ソラ様が盗賊に持って行かれますわ」

「キャサリンよ、そんな無理をいってはいけないよ」

 ダブリンは優しくメイドをたしなめた。

「ぼっちゃま! 給金なんて要りませんから買い取って下さい!!!!!」

 俺たちはモンブラン伯爵邸で絶叫するメイドを後に置いて帰宅した……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

福寿草真
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】 何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。 魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!? これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。 スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...