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第百九話 公園デビュー

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 レイラがソラを膝に乗せ、あやしながら餌を与えている。犬みたいにお尻を下げお座りしているのを見ると、トカゲとは思えない。

「しかし、良く食うし、帰ってくる度に身体が大きくなっているよな」

 この数週間で、ソラの大きさが倍ぐらいに成長している。

「口の前に出せば、何でも食い付いてくるからな。こいつの食費さえ考えなければ、以前の生活とは天と地ほど違うぞ」

「虫を集めていたときは、死相が現れていたし」

 レイラは冗談交じりに言葉を投げかけた。

「ソラが雑食と分かり、ずいぶん楽になったよ」

 睡眠時間を削ってまで、食料の確保に奔走する事がなくなったので身体の負担が減った。しかもソラの食欲が落ち着き、夜中に起こされることが少なくなる。日中にある程度、食事を与えると朝まで寝てることが多くなっていた。ただ食事の量は日に日に増えている。

  ソラは俺が歩くと、後ろからちょこちょこと歩いてついてくる。意地悪をして部屋の隅に隠れると「キューキュー」鳴いて俺を捜す。レイラがそれを見て、やたらソラを甘えさせ同じようにからかっていた。ただ、やりすぎたせいか、隠れる前に俺たちを見付けて、胸に飛んでくるようになってしまった。

「ソラは甘えん坊だな」

 頭を軽くなでると、背中の突起物がピコピコと動く。嬉しいときに左右に動かすラミア族の尻尾みたいだと、一人で吹き出した。頭に触れた指をソラが口を使ってじゃれついてくる。

 困ったことに甘噛みを覚えたソラは、やたらと噛んでくるのだ。手や指ならまだ可愛いで済むが、レイラがほっぽり出した武具や道具に歯形を残すので、躾をどうすればよいか悩む。レイラ曰く、悪いことをすればお尻を叩けばいいと、ペシペシと叩いている。犬の躾は叩かない方が良いと聞いたことが合ったような……。とりあえず噛まないように、ソラの玩具を探そうと決めた。

              *      *     *

 ある品物を受け取りに行くため防具屋に出向いた。ギルドが立っている大通りの道を進むと、武器や防具を扱う店が建ち並ぶ、その中の一角にお目当ての店があった。その店は高級な武具はあまり扱わず、低級冒険者がよく利用する道具屋であった。

「こんちわー」

 勢いよく扉を開いて店内に入った。

「おお、待ってたぞ」

 レジ前からはみ出しそうな腹を抱えて、店主が出てきた。

「ほー、イメージ通りに仕上がってるわ」

 俺は店主から、オーダーメイドの品を受け取って鞄にしまう。

「この犬のリードは良く考えとるの。前足にリードを通すので、すっぽ抜けることがないのが良いの」

「親父さんが上手く仕上げてくれたのが大きいよ」

「褒めてもまからんぞ」

 そう言って、防具屋の親父は笑った。

「これを売り出しても良いのか」

「需要があれば勝手に作ってくれ、もし大儲けでもしたら次のリードは只で良いぞ」

「ちゃっかりしとるの」

 武器屋の親父は俺の胸を軽く小突いた。その後、次の客が来るまで世間話をして、店を後にした。

 我が家に帰るとケージに入れられたソラが「キューン」と鳴いている。ケージに近づくと後ろ足を踏ん張り、チンチンスタイルでソラはここから早く出せとせがんだ。 

 リードを持ち帰った俺は、早速ソラの前足にリードをくぐらせ、背の部分の留め具でしっかり固定した。これで首輪にリードを付けて引っ張るより抜けにくくなった。ソラは何をされているか分からず、リードを噛んで遊んでいる。

 俺はソラを抱えて、玄関のドアを開け外に出た――

 ソラをゆっくり地面に置いた。初めての外の世界をソラは知る。太陽の下で地面に生えている草を鼻先で突っつき、臭いをかいでいる。落ち葉が風に揺れ、びっくりしたソラが後ずさりした。門扉の近くまでリードを軽く引っ張りながら誘導する。

 門扉をくぐろうとしたとき、リードが突っ張り動かなくなった。ソラがお尻を下げ力をいれ、外に出るのを嫌がった。俺のイメージでは、喜んで駆け回り、リードが引っ張られるそんな初めての散歩を想像していた。

 ソラは思いのほか臆病だった……。

 俺が両手を差し出すと「キューン」と鳴きながら、胸に飛び込んでくる。俺は怖がるソラを抱き抱えながら道ばたまで歩いていく。
 
 地面におろされたソラは、不安げな様子で頭を左右に動かし歩き出した。最初は辺りを警戒していたが、やがて目に触れるもの全てに興味を持つようになった。最後は、俺の持つリードを引っ張り、もっと速く走れと催促する始末。結局、家の周りを何度も走らされることになった。 

 家に入ってソラは、水入れの水を飲み尽くし、コトリと横になった。ご飯を食べないで、こんなに簡単に眠りについたのは、初めての事かもしれない。
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