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第七十六話 旅立ち

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 テトラを連れてエルフ皇国を目指す予定日が一週間ずれた。その理由はレイラ、ルリ、テレサの三人が一同にそろわなかったからである。

 テトラは自分のためにわざわざ休暇を取ってまで、見送らなくていいと断っていた。そんな彼女に『バカヤロー』という熱い鉄拳が飛んだとか飛んでないとか……テトラが感動のあまり大泣きした出来事は一応あった。

「「「「「カンパーイ」」」」」

 テーブルには俺が作れる範囲で精一杯のご馳走を並べた。冷蔵庫の中にはプリンと生クリーム、アイスがギッチリと冷やしてある。

「ルリ! 初めからプリンを先に食べるな」

「これはプリン違う、プリンアラモード様だ」

 魔法少女で登場しそうな名前で呼ぶな……。

「んん~~おいひいよ~」

「ほら! もうテトラが真似をして、プリンを食べ出したじゃないか!」

「う~ぃ。この酒おいしいれす」

 酒は弱いのに最近飲むことを覚えたテレサ。

「あ~ピッチ早すぎ!!」

「おっちゃん、お酒が何故かもう無くなった 」

 それはお前が……もう突っ込むのもバカらしくなり台所に酒を取りに行く。

「ほら! おっちゃんも飲め!」

「言われなくても飲むわ」

「今日のカツレツ、いつもより柔らかくて美味しい気がする」

「それはオレが、高級肉を奮発したからだ」

 レイラの鼻が伸びた。

「「「「ごちになります!!」」」」

 宴も半ば過ぎて、あれだけあったご馳走が粗方消えていた。酒が回り会話も少し途切れがちになった頃、レイラが懐から何かを取り出した。

「オレからはこれだ」

 見るからに高そうな守り刀をテトラに手渡した。

 彼女は目をぱちくりしながらそれを受け取った。

「別れの選別だ」

 優しく微笑む。

「ありがとうございます! 凄く軽くて扱いやすそうです、しかも光の反射で白くきらめく刃文が美しいです。」
 
「特殊な材質が使われているからな! 魔法剣らしいがその効果は分からないそうだ」

 今度はルリがテーブルの下から、大きな袋を取り出しテトラに手渡す。

「はい! プレゼント」

 それを受け取った彼女はガサガサと袋を開け、中にあった物を取り出した。

「可愛い人形だ!」

 愛くるしい表情で人形を掲げた。

「むふ-私の手作り」

 ルリは、とても満足そうに口もとをほころばせた。

「マジかよ! 売り物より良く出来ているんじゃないか」

 彼女は人形をよく見ようと、テトラの抱えた人形の手を引っ張って怒られた。がさつな女である……。

「私はこういうのは得意じゃないので……つまらない物だが」

 テレサは照れ臭そうに頭を掻きながら、綺麗な刺繍が施されたハンカチの詰め合わせをプレゼントした。

「最後におっちゃんな」

 レイラが余計なことを言った。

「もう俺のスネは溶けきってライフゼロよ」

「「「うわ~ひくぅ、完全に引きます、最低」」」

 三者三様のありがたいお言葉を頂いた。 

「ううん……おっちゃんには十分して貰ったよ。命はもちろん、お金では買えない沢山の思い出まで貰った」

 (我が娘はいい子や~、駄姉たちを見て反面教師に良く育ってくれた……。)

「レイラ姉、ルリ姉、テレサ姉……私を助けてくれてありがとうございました」

 深々と頭を下げた。下ろした頭が中々元に戻らない、肩がブルブル震えて嗚咽している。

「この前、散々泣いただろ」

 三人の姉は彼女の身体を優しく包み込む。

 宴が終わった――

                                  *     *     *

 自分の行動が正しかったのか、今更ながら自問自答を繰り返す……。

「明日早いのにまだ起きてたのか」

 部屋の扉が開き、薄暗い部屋にレイラの顔が浮かぶ。

「オレを連れて行けよ……」

 レイラが俺に身体を預けた。

「失敗したときにお願いするさ」

「おっちゃんはお人好しすぎるぜ!」

 彼女はすごく露骨な仏頂面をする。
 
「(自分でも甘いとはわかっている……)そうじゃない……俺は冷たい人間だよ」

 沸き出る感情を押さえ、酷薄な笑みを浮かべる。

「悩むぐらいなら、一回抱けば落ちたぞ……それで万事解決だ」

 のレイラはそう言って、人の悪い笑みを俺に返した。

「そんなことできれば……俺はレイラにさ……」

 彼女の甘い唇に口を防がれ、大きな身体で押しつぶされそうになる。いつもの酒臭い息が愛おしく思う……汗ばんだしっとりとした素肌が密着する。豊満な胸をわざと俺の顔に押しつける。優しく噛むと年相応の可愛い声をだし嗜虐心を刺激する。褐色の肌にわざと歯形を残した。いつもの乳繰り合いスキンシップを楽しみ、まどろみの中に落ちた。

 目覚めると彼女は横にいなかった――

 翌朝、五人そろって家を出た。昨日の夜が嘘のように、全員が押し黙りタリアの町を抜ける。森の入り口の大木めじるしのきが近づいてきた。

「じゃあ、行ってきます・・・・・・

 テトラは振り返ることなく、俺の右手を握りしめエルフ皇国に旅立った。
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