上 下
55 / 229

第五十六話 今夜は修学旅行のように【中編】

しおりを挟む
 いつもより夕食を食べるスピードがやたら早い。食べ終えた食器を洗っているときその答えが分かった。

「早く洗って遊ぼうぜ」

 居間からレイラの大きな声が聞こえる。それならお前も手伝えよという言葉を飲み込み、雛鳥の希望に添えるように手を早く動かし台所を後にした。居間では三人が車座に座りトランプの準備をしていた。俺はルリからトランプを受け取りカードを配り始めた。

「手札の中に7があったら出してくれ」

 場に四枚の7が並ぶ。

「ルールは簡単、この次の次に前後の同じマークの数字6か8を順番に出して並べていき、手札が無くなったプレイヤーから勝ち抜けしていくゲームだ」

   俺はハートの5を場に出してゲームを進めた。四周りほどしてルリが悲しそうな顔を浮かべた。

「並べる手札がなければパスをする。特に罰則はないが三回パスをして四回目に出す札がなければ自動的に負けになる」

 ゲームは淡々と進み一番最後まで手札が残ったルリが負けた。

「あんまり面白くないゲームだな」

 レイラが退屈そうな顔をしながらカードを集め配り始めた。ゲームは先ほどと同じ様に静かに進んだが、前回と大きく違うことにパスをする場面が多くなってきた。

「おい! まだダイヤの8が出ていないぞ」

 レイラが三人の顔をのぞいた……。

「誰かがわざとカードを止めてますね」

 テレサが静かに呟く。

「俺じゃねえぞ」

「私も違う……」

 場の空気が変わった。このゲームの本質を彼女らは理解した。札が止められたままゲームは進み、俺は勝利を確信しダイヤの8を出した。

「き、汚ねェェーーーーーーー」

「ヌフフフ、お嬢さんがた、汚いのではない年の功というものだよ」

 俺の発言が場を凍らせたがここから本当の七並べが始まった。各々が数字を止めたり牽制のパスを出す。最後までハートの9を止めていたレイラがどや顔をして札を並べた。しかし、一番最後までカードを握っていたのは彼女であった。俺は不思議な顔をしているレイラの手札を見て吹き出す。

「ハートの|K(13)を持っていて止める奴がいるか!」

 テレサとルリが手を叩いて笑い転げる。しかし、レイラだけが自分のした失敗に全く気がついていない。

「ハートの9を止めていても、ハートのKが出せなければ止めるのは失策だな」

 テレサが丁寧な説明をする。

「止めるだけしか考えられない脳筋」

 ルリはさらりとディスル

 ムカー! 頭から煙を出しながらレイラは手札を配り始めた。結局、彼女が一抜けをするまでかなりの時間を要することになる……。

 ゲームが一区切りついたので俺は席を立ち、大皿につまみを乗せて場に戻る。

「おっ! 気が利くじゃねーか」

 レイラは皿に乗ったつまみを鷲づかみにする。俺は彼女の顔を見ながら本当に残念美人だとため息をついた。酒を飲みたかったが、まだゲームが終わりそうにないので、氷を浮かべた果実水を出した。お代わりを想定して別の容器に入れた果実水も用意した自分はこの家の主夫だと自覚した……。

「いよいようすのろをするか!」

 レイラの目が爛々と輝く。

「いや、次はカードオブカード『大貧民』というゲームだ」

 三人の期待値はかなり上がるが、俺はこの鉄板ゲームがそれ以上に彼女らを楽しませる事に自信があった。

「 弱い手札から 3→ 4 → 5 → 6 → 7 → 8→ 9→ 10→ J → Q → K → A → 2→ ジョーカーが基本だ。3が一番弱く2が一番強い札で、ジョーカーはそれ以上に強いが、どのカードにも化けて使えると言うことを覚えて欲しい。配った手札から一枚だし、順番に手札より大きな数字を出していく。手持ちの札が出せなくなったらパスで次のプレイヤーに回すことが出来る。全員がパスをすると最後に一番強いカードを出した人(親)がまた一から好きなカードを場に出し、手持ちのカードが無くなると一抜け出来る。最初に出すカードは一枚ではなく同じ数字なら、二枚、三枚だすことも有りで、次に出すプレイヤも同じ枚数の札があれば出すことが可能だ。カードの2と8とジョーカーは最強なので、自分の手札が最後の一枚になったときこの3つのカードで終わってはいけない。」

「最後に、同じカードを四枚出すと革命と言って今まで弱かった3が一番強いカードで逆に2が一番弱いカードとなる――すなわちカードの強さが反転する。ただし四枚のカードの上にまた四枚カードを被せれば元に戻る。8のカードは八切りといって出した人は強制的に場を流し親になれ、一番にカードが切れるのでかなり強いカードだ」

「まあ、説明は難しそうに聞こえるがやってみると簡単なので始めるか」

 弱い札から順にカードを出し始める。場に出たカードがKになったとき、これより強いカードはあるが駆け引きでわざとパスをして手札を残したり、自分の出番が有利にするために2やジョーカーを出して全員からパスを貰い、自分が一番最初に手札を出すというのもありだ。

「なるほどな! Aを使って2を出されればAの出し損になり、Aが残れば自分の手札から一番弱い札が出せると言うことか」

 テレサが分かりやすく補足説明してくれた。カードを流しながらこのゲームのルールが飲み込めてくる。

「はい、ハートとスペードの6のカード」

 ルリが二枚の札を切る。三人がパスをしてまた彼女が親になった。

「うわーこんな低いカードでまた親かよ!」

「Aが二枚でも宜しかったんですよ♪」

 テレサはレイラにウインクを飛ばした。

「持ってね―し……」

 レイラの目が泳ぐ。分かりやすい女だ――。ゲームはテレサが一番に勝ち抜けレイラ、俺、最後にルリが手札を残して負けた。

「ここでこのゲームの一番の肝がある。負けたルリは次のゲームで一番強い手札を二枚テレサに渡し、テレサは自分の手札の中から、いらない二枚のカードをルリに渡す。俺はレイラに自分の手札の中から一番強いカードを手渡し、レイラは俺にいらないカードを一枚俺に渡す」

「上から、大富豪(テレサ)、富豪(レイラ)、貧民(おとちゃ)、大貧民(ルリ)と位が分かれる訳だ。強いカードを二枚渡すので大貧民は上のクラスには中々あがれないこのゲームの怖さがある。」

 ルリはエーーという顔をしたがこれは練習だと言うとほっとした顔をした。レイラもエッという顔をしていたが見なかったことにした。

 異世界でドロドロのカードゲームが誕生した――
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...