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第四十三話 裏切りの時間

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 時計の針を少しだけ巻き戻す――

 冴えないオヤジがバランスを失って、地面に突っ伏すようにして倒れた。その隙にコジコジたち他三人のメンバーは、ホワイトイーズルに背を向け、脱兎のごとく逃げ出した。

「リーダーマジパネェっすよ!」

 走りながら長身のコーグレがゲラゲラ笑う。コジコジは目を細めながら鼻をひくつかせた。

「あんな魔獣と戦ったら割に合わないだろッ」

「それにしてもあんた酷いよね、あのオヤジを後ろから蹴り倒すなんて」

 ハルナがニタリと唇を歪めた。

「法力を掛けたら完璧に笑えたっしょ」

「何いってんのさ! オヤジを動けなくさせたら、うちらが襲われるじゃない!!」

「怖い女だ……」

 大汗を掻きながら贅肉をたぷたぷさせたブルーノが呟く。

 四人の冒険者は、自分たちより背丈の高い草木をかき分けながら、全力で走る走る走る。

「ここまで逃げれば大丈夫だろう」

 コジコジはパーティに止まるように指示を出した。彼らは肩で息をしながら一息ついた。

「いつもは駆け出しの冒険者で遊んでいたが、たまにはオヤジもいいもんだよな」

「いきった駆け出しの冒険者を壁にするより笑えたっす」

「血を吐いてのたうち回る姿を見られないのは残念だったけどね」

 うっとりとした表情を浮かべ頬を紅潮させる。

「でもよ……ギルドの依頼は、あいつを守る事だったんじゃねえのか?」

 ブルーノが少し不安に顔を曇らせた。

「俺たちに依頼を出したギルドマスターは、彼が生きて帰ってこようがこまいが関係ないのさ。この依頼を遂行した事実だけが欲しかったからな」

「よくわからん……」

 ブルーノが小首をかしげる。

「あいつは依頼料をがめてるのさ。まあ俺たちにはそれ相応の金はきっちり払っちゃいるけどよ」

 車座になって話し込む四人。

「早く街に戻って美味しいお酒を飲みたいものよね……」

「魔獣を数匹狩って飲み代にしやしょう」

「もう少しここを離れたら、存分に狩りを楽しもうか」

 パーティ全員が肉食獣の笑みを浮かべた。

 コジコジたちはいつもと変わらない冒険を一つこなしたに過ぎなかった。弱者を狩って自分たちの糧を得る。彼らはそれがいつまでも続くと疑わない――それだけ実力が伴っているという事だ。ただ一つ誤算があったとすればおっちゃんと関わった……。強者が弱者を喰らう――彼らは弱者である事をまだ知らない。
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