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第三十四話 ドワーフの戦

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 ドワーフ軍に入隊したとき両親は喜んでくれた。新しい魔王様になってから長い間、他国との小競り合いはあっても大きな戦になった事はなかった。安定した職場についた僕は勝ち組のはずだった。しかし、僕たちの国にリザードマンが喧嘩を売った事から事態は急転する。軍は再編して戦の体制を整えていく。新参兵の僕は新しく創設された部署に回された。噂によると寄せ集めでつくられた部隊だと聞き、僕は運の無さを呪った……。

 今日も僕たちはスコップ片手に土を掘っている。土木の仕事をしている訳ではない、僕らはれっきとした兵隊だ。剣を振る代わりにスコップを振り回す。こんな溝を掘ってどう戦うのか疑問しかわかない。毎日意味のない土を掘り起こし入隊した事を後悔した。ある日、有刺鉄線という武器が練習場に持ち込まれてきた。僕たちが掘った溝の前に有刺鉄線の壁が出来た。隊の半分が敵役としてこの壁を乗り越える訓練を始めた。

 最初は惨憺たるもの、有刺鉄線で出来た壁が簡単に崩された。しかし、杭の打ち方、鉄線の張り方を工夫していくうちに、この有刺鉄線の恐ろしさが嫌というほど理解できた。敵はこの鉄線を簡単に破る事は出来ない。有刺鉄線で止まっている間隙に弓と槍のコンボでかなり蹴散らす事が可能になる。無理矢理、身体を押し込んできても鉄線についている針が食い込む。余りにも簡単な仕掛けだが蜥蜴たちがこれを破る絵が見えない。弓を扱えなかった仲間でも、クロスボウを使うと、塹壕からの攻撃力が数倍に跳ね上がる。網に溜まった死体を引き離す道具も用意され盤石な体制が整った。

 突撃命令と共にドワーフ軍の一部はリザードマンと正面でぶつかりあった。同等の人数なら完全に押される展開だが、ドワーフ軍は彼らの倍の戦力で交戦した。実は、主力である塹壕部隊は豪の中に半分の兵士しかおらず、おとりに近い部隊になっていた。リザードマンの本隊が塹壕でと留まっているうちに、倍の戦力でリザードマンを叩く作戦。塹壕が簡単に破られれば挟撃されてしまうが、あの有刺鉄線を簡単に破る事は出来ないだろう。

 蜥蜴たちの焦る様子が手に取るように分かる。一人に対して二人相手にしているのだから当たり前の話だが、最初から舐めてかかってきたので戦力差に気がつかない。時間がたつにつれこちらが有利になっていく。

 本体が半分になって塹壕の中で戦うのは怖かった。怒濤のごとく攻め寄るリザードマン軍をダミーの矢で歓迎した。安心しきった蜥蜴が近づいてきたとき、ボーガン部隊の矢が飛ばされる。当たっても死ぬ事はないと油断している彼らに次々と矢が突き刺さる。塹壕の中で防戦し援軍との挟撃を待つ我慢する戦いであったが策が完全にハズレた。突撃してきた蜥蜴たちの小隊長を狙うように指示されており、有刺鉄線に近づいたときには冷静さを失った只の肉塊部隊しか残っていなかった。至近距離から矢と槍の攻撃が見事にはまる。小さな身体のドワーフが、長い槍を主力に使うなど想定していなかった節があり、蜥蜴たちが手に持つ武器は刀や運動性を生かしたダガーであった。僕たちは塹壕からチクチクと彼らを攻撃した。有刺鉄線にリザードマンが絡みつき危ない場面もあったが、訓練通り用意していた道具で絡んだ死体を引き離し難を逃れた。援軍がくる前に戦闘はほぼ終わっており、塹壕の前にはリザードマンの死体と怪我人しかいなかった……。

 リザードマン軍を撤退させ意気揚々と凱旋した。僕らは市民の撒く花びらの嵐に喜びを噛みしめる。死傷者は塹壕で戦った僕たちより、戦力を二倍にしてイグザス軍と戦った部隊の方が多かった。運がないと悲観していた僕だが、終わってみれば運は僕に味方してくれた。
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