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第二十六話 大蛇狩り

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「こういってはなんだが、俺は強くないぞ。今回はたまたまお前が飲み込まれていたので、奇襲に成功しただけだ」

 そう言って、自分の弱さをアピールした。

「大丈夫だぞい、蛇狩りなど子供でも出来る仕事じゃ。ブハハハハ」

 豪快に笑っていますけど、さっきまでお前さん、蛇に食われかけていたじゃないですか。俺はノエルを助けたことを後悔し始めた。それを察した彼は、鞄の中から何かを取りだして俺に見せてきた。

「蛇の巣にこれを放り込み、ただ待つだけの仕事ぞ」

「じゃあ、食われかけたお前は……」

「油断してもうたのじゃ、この煙玉を投げる前に巣穴を覗いた途端、パックリと食われてもうてあの様じゃ」

 とりあえず大蛇のいそうなところまで行くことになった。道すがら薬草が茂っていたので、これを狩る方が安全にお金になると思いつつ、ドワーフを乗せたソリを引っ張った。

 数十分、歩を進めると少し広い沢に出た。水の流れで削られている土手に大きな穴が沢山開いている。

「あれが蛇の巣じゃ」

「しかし、どの穴に蛇がいるか分からねえな」

「巣穴の下に小石が溜まってない新しそうな穴をみつけ、その中から一番大きなやつを選ぶんじゃ」

 そういって一つの巣穴を指さした。

 大蛇を狩る方法は至って簡単。蛇の作ったと思われる穴の中に煙玉を入れて、煙で燻された蛇が、巣穴から出てきたところを刀で首を落とす。しかし、十メートルもの大蛇の首を落とすのは、そうそうできることではないと思うのだが……。

「本当に首が落ちるのか?」

「まあ、落ちんかもしれんが、ダメージは十分に与えられるぞ。反撃などしてこんよ!」

 また、豪快に笑う。

 けれど俺は足を二本出して、彼が咥えられている光景がぬぐい去れないんですが……ってもうこのおっさん煙玉入れやがった! 俺は慌てて巣穴の端で刀を構える。

 数分後、真っ黒いボウアの頭が巣穴から飛び出してきた。俺は息を止めて薙刀を上から振り下ろした。音もなく蛇の首に刃が沈む。ごろんと首が沢に転がり落ちる。頭のなくなった身体が何事もなかったように這い出てきた。それは、しばらく地面をクネクネとのたうち回りやがて静かになる。

「思ったより簡単だったじゃろ」

「ああ……」

 拍子抜けした俺は気の抜けた返辞をした。これを繰り返していたら俺もノエルのように食われる可能性があるなと思ってしまった。さあ次じゃと彼に即され大きな穴を捜す。さっきと同じように煙り玉を巣穴に放りこむと、巣穴から蛇が飛び出してきた。俺は油断無く蛇の首を刈り取った。

「ホホホホ、いまのところハズレなしじゃの」

「簡単すぎて怖いぐらいだ」

「あと、数匹頼む」

「まかされた」

 そういって俺たちは暗くなるまで作業を続けた。沢には皮を剥かれた丸太が何本も並べられている。

「これだけ皮を剥いだ蛇を並べると壮観だな」

「お前さんに助けられ、大量に狩ることが出来助かったぞ」

 深々と頭を下げられた。

「しかし、この肉は食べられるのか?」

「ああ、結構うまいぞ、ただ、持ち帰える苦労の割に高くは売れんので、大概は現地で食べて残った肉は捨てるんじゃが」

 食べられる量などしれているので、ほとんど捨てるということか……俺は心の中で蛇に向かい手を合わせた。

 日が落ちると、先ほどまで何でもなかった山に襲われそうな錯覚に陥る。ただ、漆黒の闇の中で彼と一緒にいることは心強い。パチパチと焚き火をたきながら肉を焼く。焼いた肉から意外と油が滴り落ちてきて、香ばしい匂いが食欲をそそる。日本の知識で蛇肉はササミのような味と聞いていたが、ボウアの肉はササミというよりモモ肉に近かった。

「もの凄く旨いじゃないか」

「この部位はな」

 なるほど、牛や豚と同じで部位によって味が違うことに納得した。十メートルの身体で旨い部位もある訳だ。皮をはいだボウアをそのまま川に流さず、幾つかに切って流したが。美味しい部位を集めるためでもあったのか……。俺は鞄から酒を取り出す。

「ドワーフは酒好きというのは本当か?」

「なんとこんなところで人間の酒が飲めるとは!」

 手渡した酒を喉を鳴らして豪快に飲む。

「良い酒じゃの、これで足の傷も癒えるぞ」

 声高らかに笑った。俺の分も残しとけよという定型文を吐くつもりだったが、あまりにも美味しそうに飲むのを見て無粋だと思い言うのを止めた。赤く炭が燃えているのを見つめながら、異世界生活も悪くないものだと少しだけ思った。

  空が白み始めた頃、俺たちはドワーフの国を目指し出立した。沢を抜けるとき、昨日見つけたボウアの巣穴を倍にした大きさの穴があった。

「行き掛けの駄賃で煙玉を放り込むか」

「フハハハハ、バカを言え絞め殺されてしまうわ」

 こんな危険なところで俺たちは寝ていたのか……前言撤回、やっぱり異世界生活は糞だった。
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