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第十九話 馬鹿と味噌は使いよう
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異世界生活でマンガやゲームが楽しめないのは結構辛いことである。それでも数年間もここで過ごせば、それらが無いなりに生きてはいけた。しかし、食生活だけは少し違った……心に染みついた日本の味を忘れることが出来ない自分がいた。転移した当初は夢の中で牛丼や天ぷらが現れ、それを食べようとした瞬間、消えてしまうという悪夢を何度も見た。
ケチャップや酢、ソースを少し濃くした調味料はあった。そして、豆を発酵させた味噌に近い発酵食品が、この世界の料理に使われていた。しかし、外国人が日本に来たときある匂いがするという――醤油。日本人には絶対欠かせない醤油という調味料が、ここには存在しなかった。
冒険者になって少しだけお金の余裕が出来たので味噌屋を探した。何故なら、味噌を作る過程でたまり醤油というものが取れる。そのたまり醤油というのが、醤油の代用品に使えるからだ。味噌を売っている小さな商店で製造場所を尋ねたが、味噌蔵の場所は分からなかった。残念なことに味噌を直接購入していなかったからだ。そこで仲介業者が商店に来る日を待った。そこでも所在地が判明しなかった……そのまた業者も直接味噌を取引していないという答えが返ってきた。
仕方がないので思い切って、大きな商店で情報を集めることにした。商いが多ければ味噌も直接取引している可能性は高い。それが駄目でも、味噌を扱う卸業者から話が聞けると――自分の考えは甘かった……非常に甘すぎた。なんとか卸業者に会うことまでは出来た。
「味噌を作っているところを教えて欲しい」
商人は不審者を見るような目で
「そんなところになんのようがあるんだ?」
「……………………」
正直に説明したところで、俺が味噌屋に行ったとしたら邪魔者でしかない。味噌という文化を知りたくて見学したいも、無理な言い訳に聞こえてしまうので返辞に詰まった。
「直で取引されたら、わしらおまんまの食い上げだ」
「すいませんでした」
そういって肩を落としながらスゴスゴと帰るしかなかった。日本なら【味噌屋】、【場所】とスマホに打つだけで、数万もの情報が集まるのに、数日かけて情報が一つも集まらないことに俺は落胆した。
家に帰る途中、ギルドの掲示板に何か美味しい仕事がないか立ち寄る。
「なんだか元気がありませんね」
マリーサさんが優しい声をかけてくれた。
「ちょいとばかし探している味噌屋が見つからなくて……」
「味噌屋ですか……でしたら掲示板に依頼でも出したらどうですか?」
「はぁ? 掲示板に依頼を出す!?」
「それぐらいの依頼でしたら銀貨五枚ですぐ見つかると思いますよ、銀貨十枚なら数時間じゃないでしょうかね」
目から鱗であった――仕事を探すために掲示板を見ていたが、自分が依頼主になる事など毛頭無かった。
数日後、銀貨五枚で味噌屋は見つかった。しかも味噌蔵の場所は自宅から三十分ほどの場所にあり、早速出かけることにした。
なんとなく日本建築を思わせる倉庫に、大きな木樽が幾つも並べられている。味噌蔵の様子を覗いていると、従業員らしき人が四人働いていた。一目で親方は分かる。そこで下っ端と思える従業員にこっそり声をかけた。
「味噌を作るときできる液汁を、少し分けて欲しいのだが」
「何いってんですか?」
もちろんその従業員は俺を不審者の目で見る。ここまでは想定済み。懐から銀貨を取り出し
「これで譲ってもらえないだろうか」
従業員の目の色が目の色が変わる。
「親方にばれたら怒られるっすよ!」
「前金で銀貨五枚、液汁と交換でさらに銀貨五枚付ける」
返答するか迷っているので
「しかたない……この話は他の味噌蔵に持って行くか!」
この決めゼリフで商談は成立した。彼との付き合いは長くなるかもしれない。
ケチャップや酢、ソースを少し濃くした調味料はあった。そして、豆を発酵させた味噌に近い発酵食品が、この世界の料理に使われていた。しかし、外国人が日本に来たときある匂いがするという――醤油。日本人には絶対欠かせない醤油という調味料が、ここには存在しなかった。
冒険者になって少しだけお金の余裕が出来たので味噌屋を探した。何故なら、味噌を作る過程でたまり醤油というものが取れる。そのたまり醤油というのが、醤油の代用品に使えるからだ。味噌を売っている小さな商店で製造場所を尋ねたが、味噌蔵の場所は分からなかった。残念なことに味噌を直接購入していなかったからだ。そこで仲介業者が商店に来る日を待った。そこでも所在地が判明しなかった……そのまた業者も直接味噌を取引していないという答えが返ってきた。
仕方がないので思い切って、大きな商店で情報を集めることにした。商いが多ければ味噌も直接取引している可能性は高い。それが駄目でも、味噌を扱う卸業者から話が聞けると――自分の考えは甘かった……非常に甘すぎた。なんとか卸業者に会うことまでは出来た。
「味噌を作っているところを教えて欲しい」
商人は不審者を見るような目で
「そんなところになんのようがあるんだ?」
「……………………」
正直に説明したところで、俺が味噌屋に行ったとしたら邪魔者でしかない。味噌という文化を知りたくて見学したいも、無理な言い訳に聞こえてしまうので返辞に詰まった。
「直で取引されたら、わしらおまんまの食い上げだ」
「すいませんでした」
そういって肩を落としながらスゴスゴと帰るしかなかった。日本なら【味噌屋】、【場所】とスマホに打つだけで、数万もの情報が集まるのに、数日かけて情報が一つも集まらないことに俺は落胆した。
家に帰る途中、ギルドの掲示板に何か美味しい仕事がないか立ち寄る。
「なんだか元気がありませんね」
マリーサさんが優しい声をかけてくれた。
「ちょいとばかし探している味噌屋が見つからなくて……」
「味噌屋ですか……でしたら掲示板に依頼でも出したらどうですか?」
「はぁ? 掲示板に依頼を出す!?」
「それぐらいの依頼でしたら銀貨五枚ですぐ見つかると思いますよ、銀貨十枚なら数時間じゃないでしょうかね」
目から鱗であった――仕事を探すために掲示板を見ていたが、自分が依頼主になる事など毛頭無かった。
数日後、銀貨五枚で味噌屋は見つかった。しかも味噌蔵の場所は自宅から三十分ほどの場所にあり、早速出かけることにした。
なんとなく日本建築を思わせる倉庫に、大きな木樽が幾つも並べられている。味噌蔵の様子を覗いていると、従業員らしき人が四人働いていた。一目で親方は分かる。そこで下っ端と思える従業員にこっそり声をかけた。
「味噌を作るときできる液汁を、少し分けて欲しいのだが」
「何いってんですか?」
もちろんその従業員は俺を不審者の目で見る。ここまでは想定済み。懐から銀貨を取り出し
「これで譲ってもらえないだろうか」
従業員の目の色が目の色が変わる。
「親方にばれたら怒られるっすよ!」
「前金で銀貨五枚、液汁と交換でさらに銀貨五枚付ける」
返答するか迷っているので
「しかたない……この話は他の味噌蔵に持って行くか!」
この決めゼリフで商談は成立した。彼との付き合いは長くなるかもしれない。
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