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第四話 リストラの行き先

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 おじさんになってからギルドデビューをする者はかなり少ない。ほとんどの新人は二十代以下の若者だ。薙刀を片手に持ち、薬草をソリで引きずってくる新人冒険者は酒のつまみになっていた。俺としては足をかけられニヤニヤされるより、美味しい位置についたと思う。この仕事はうまくいけば一日に銀貨が数枚稼げるわけで、命をかけるには十分見合っている。

 薬草を狩るより魔物を狩る方が実入りは大きい。ただ魔物を倒す実力がなければ命を落とすだけなのだが。ラノベやゲームで狩る獲物は、死ぬまで戦ってくれる。しかし、現実の戦闘は弱ればスタコラと逃げ去るので、ソロの狩りは相当な実力がなければ成り立たない。普通は五、六名ほどのパーティーで森を探索する。しかし、新人の俺に声をかける同期は誰もいない……ギルドの掲示板に貼られたメンバー募集は年齢制限にひっかかる。どこの職安だよと苦笑しかでない。それでも他の冒険者より多くの薬草を狩ってくる俺に声をかけてくれた若人パーティーがいた。

 剣を操るリーダーのレン、女弓使いナターシャ、壁のドン、法力師のルリ、新人になったばかりの弱小パーティーに誘われた。弱小ながら法力師のいるパーティーはレア。法力とは獲物を押さえる力である。力が強ければその抑える時間が長くなるのだが、数秒止められるだけでも勝敗の差は明らかだ。

 俺がこのパーティーに声をかけられた理由は、仲間の一人が抜けてしまいメンバーの募集をかけていた。それなのに誰も集まらなかったのが理由だということを、酒場でドンとサシ飲みしていたとき話してくれた。

「獲物がいなかったとき薬草狩れればいいんじゃね」
 
みたいな……。俺はもちろんその夜悪酔いした。 

 俺なりに薙刀使いとしてうまくパーティーに溶け込んでいたと思う。パーティーを組んだ当初は、彼らの下手な狩りに愕然としたものだが、この一年でようやく連携もものになってきた。必要以上に出しゃばらず、獲物のいそうな場所を地図で読みとり、不猟のときは薬草狩りで大活躍するポジションを得ていたはずだった。

 しかし、ある日リーダーとナターシャから突然、呼び出しがかかる。

「パーティーから外れてくれないか……」

 暗い顔をしたレンが俺にリストラを宣告した。理由を聞いても済まないとしか言わない。ナターシャは俺を見ていやらしく笑っていた。

 ソロよりパーティーの方が断然稼ぎやすかった。ここでの首は俺にとって死の宣告に聞こえる。ドンとルリを酒場に呼び出してこのことを告げる。

「嫉妬だと思う……」

 ドンが大きな身体に見合わない小さな声ではなす。ルリは俺のクビ宣言で言葉も出ない。もとからあまりしゃべらないのだが。
 
 リストラされた理由を要約すると、俺の行動がナターシャに耐えられなかったらしい。他のパーティーからレンより俺がリーダーに映ることが……。レンとナターシャは付き合っている。そんな彼女にしてみれば後から入ったおっちゃんが、彼氏率いるパーティーを仕切るなよみたいに感じていた。若さ故といえばそれまでだが、あまりにも身勝手すぎる理由に愕然。

 俺をのぞいた仲間は同村出身。そこに不協和音をいれて仲間を割るなんて出来ない……誰も反対しなかった。

「最後のお酒だ」

 俺が呟くとルリがポロポロ泣いていた。

「チクショー、チクショー、チクショー」

 ベットを叩きながら号泣。まさかこんな年になってから、はぶられる経験をするとは思ってもいなかった。

  俺はまたもとのソロの薬狩りに戻った。薬草を積み込んだソリをギルドに持ち込むと、ギルド併設の酒場から『なんで一人なの』と、俺がパーティーを外された事を知っていて酒の肴にする。
 
『チッキショーー』と元いた世界の一発ギャグは鉄板だった。
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