驚異的時間

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メディチ

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 @メディチの庭
 そこでは、あのアンドロイドが中庭に置かれた二つの壺の周りをウロウロしていた・・・。
 私は物陰から、ニヤニヤそれを見た。

 そして私は忍び足でメディチのオレンジの庭に置かれている女性彫像の方へ行った。素描の彫像はこれだ。美しい彫像だ。が、よく分からなかった。しばらく見ていた。ふと顔を上げると建物の窓に人が。彼は私にテレパシーで話しかける。『月あかりの日、彼女に聞け』彼はテレパシーでそう言うのだ。メディチの末裔?
 月あかりの奇麗な日、わたしは独りメディチ・リカルド庭園のマドンナを訪問した。そして「命の壺の秘密を見定めに参りました」と彼女に言った。辺りがものすごい光に一瞬包まれた。気付くとマドンナの足元に奇麗な珠が在った。マドンナの声がする、「それで囚人たちを解放しなさい」と。わたしは密かに作っていた兎穴を通って、珠を持ち、アカデミア美術館ミケランジェロの囚人回廊へと急いだ。回廊で珠をかざす、その時、月あかりは珠から放たれた。そして石の中の囚人は解放された・・・。五人の囚人はダビデ像に吸い込まれた・・・。ダビデが浮かぶ、既にダビデは異次元の存在だ。ダビデ・マシーンが飛ぶ、そのマシーンは空高く舞い上がる! 
 え? ダビデ、いなくなっちゃったよ? やばいんじゃない?
 とりあえず財団のホログラムで、ダビデをアカデミア美術館内に投影して置こう。しばらくはばれないだろう。私の人生はこんな冒険に満ちている。冒険に出、世界を旅す、・・・旅は中毒性がある。プランB社製作映画『ロストシティZ・失われた黄金都市』主人公の心情が少し分かる。冒険は異常な心理を巻き起こす。(プレジデントのサウンドレコーダ・おわり)

 七月十日。ローマ。
 バチカンのすぐ傍の部屋に宿泊。通りからサンピエトロが見える。テルミニ駅から出る六十四番バスの終点。昼間まどろんでいた。目覚めてから外を歩いた。宿泊しているビルは古い。手動ドアエレベータは古典フランス映画に出そうな代物、玄関は巨大だ。物凄く頑丈な建築物。薄黄色の壁に深緑の窓枠がイタリア風だ。バス・トイレは六部屋共同。私の部屋の隣がキッチンだ。その向こうがバス・トイレとなっている。外に出ると徒歩で二十四時間スーパー迄行ける。ドライクランベリー、水、SAVEのカップ麺(ベジタブル味)、バナナチョコ、リンゴを買って来る。キッチンのコーヒーはフリーだ。SAVEヌードル、なかなか旨い、一緒にコーヒーを飲みながら、その昔バンクーバーに滞在していた頃を思い出した。大聖堂の隣のインターナショナルハウスに宿泊していた。その頃、パートで考古学を教える新米教員だった。とは言え、まだまだ研究者としては学会で認められていなかったが・・・。ファーストネーションのカルチャーをリサーチしていたのだ。あのインターナショナルハウスと、このローマの宿舎は似た雰囲気がある。リサーチ&ディスカバリーの日々。今回はNSAの仕事だ。それで私はローマに居る。資料を分析し、新たな調査を行なったところ既にローマ市民の半分が『SPACEMAN』となっていた。なるほど、NSAが動くわけだ。『SPACEMAN』の秘密基地はVRユニバースの中に存在するという。奴らにこうしたギミックを提供している組織もあるようだ。私の使命は奴らのヴァーチャルベースに乗り込み、『SPACEMAN』組織を一網打尽にすること。彼らは実は古代人類の末裔だっていう話だ。殺したくはない。ヴァーチャル上での戦いで決着だ。よかった。VR上の全データを消滅させれば奴らは力を失う! 
 プレジデントはダビデ次元飛行艇(ミケランジェロのダビデ像はタイムマシンだった)で二万年前へ向かう。彼らがまだ地球人だった頃へと。彼らが自ら開発した核によって滅びる事を伝えに行く。

 XX XX XX  XX XX XX

 イタリアはキオスク文化だ。国中にキオスクがあり、ここで民は情報とトレンドを収集する。インフォメーション・センターと言ってよい。
 NSAイタリアは、特別インフォメーションDOMEを設置して、イタリア中から天才らを呼び集め、スペースマンのVRベースにアクセス侵入する方法を探した。暑いイタリアの特設DOMEの中、彼らは持てる力の全てを出し切り、コンピュータネットワークのあらゆるラインを解析したが、アクセス不可。人間の技術ではもはやムリなのか? 地球人の現在の技術では・・・。私は、ふてくされて仮眠ベッドで寝てしまった。ふと、思い出した。 時々ふてくされて寝てみるのも、わるくない。数年前、リサーチ&ディスカバリーの中で私が手に入れた古代宇宙人のアーティファクト、そう、『ゴルドメット』があった! ゴルドメットは『善なる宇宙人』が人類に贈ったもの。ヘルメット型の超アクセスシステムで、それを被る者のアクセス能力をハイパーレベルまで最大限に引き出す。



 七月十二日
 明日はSABATOだ。イタリアでは、SABATOは休むことが殆んどである。今日はNSAと共に海上でゴルドメットの調整を行っている。ゴルドメットは、ハイパー・ジェットホイールに積載されたグレート・トレーラーでアドリア海ポート迄運ばれる。今はまだポートへの航路上に在る。私はVTOLでハイパー・ジェットホイールに降り、NSAのチームとゴルドメットの調整に入ったのだ。それはコンピュータの限界に挑戦するようなものだった。だが、なんとか私、T・ホークシャー蔵雄がエネミーらのVR城塞へと侵入することが可能になった。そしてVR世界へアクセス。そこには、『VR・ROMA』があり、其処に立ち入ると自分がヴァーチャルリアリティの仮想スペースに居るということさえ忘れてしまうほどだった。

 八十年代に書かれた『ニューロマンサー』っていうSF小説があったな、あれが今こういうかたちで現実化している。

 仮想スペースにも、サンタンジェロ・キャスルが在った。サンタンジェロの中に入ると、日本風の城があった・・・。私は南米のサムライから教えを受けた技で『宇宙人』らを一網打尽にした。これでローマは目覚める。
 フィレンツェではその頃プレジデントが、ダビデ・ディメンショナル・ムーバーに搭乗しようとしていた。

 七月十四日
 私はサンピエトロ近くの宿舎に居た。
 買い物に出た。
 サンピエトロ・バジリカのライトウイング側に宿舎があるが、バジリカの正面を横断してレフトウイング側へ行くと、インド系移民が営むミニマートが多い。ミルクと韓国UDONヌードルを購入。五ユーロだ。ふと、秋口にBUSANへ行った事を思い出した。『誰かが私にキスをした』『オリオン座からの招待状』の二本の映画を見た。両作品とも、涙が込み上げてきた。僕は意外なほどにセンチメンタルだった・・・。バジリカの近くにサンタンジェロ城がある。サンタンジェロ参道をまっすぐ市街へ行くと、手打ちパスタの店が左サイドウォーク側に在る。さらにストリートを歩いていると、トラットリアがあった。オープンテラスで女性ウェイターが歩き回りテーブルにメニューを置いていた。黒Tシャツとデニムホットパンツの、ややブロンドのウェイターだ。
 Italia luogo diVino 、洒落た店だ。イタリアの友、エドワルドーは「ローマでパスタといえばさ、カルボナーラさ」ってよく言っていた。
 カルボナーラ、グラス赤ワイン、ティラミス、・・・と定番のローマ風。私はほとんど飲まない生活だが、この日は酔って宿舎に帰った。

       + + + +

 プレジデントはダビデ次元宇宙船で亜空間に居た。亜空間を抜けると、そこは二万年前の地球。当たり前だが現在のような国境は無い。大陸の形状も二十一世紀とは全く違う。原子力発電で出た核のゴミは、無毒化不可能で地中深く埋めるしかない。十万年後に託すのだ、という。しかし、二万年で全く変わってしまう地球陸地において十万年後の知生体が、その埋めた場所を特定するのはほぼ無理だろう。原子力から人類は手を引くべきだ。

 二万年前のスンダランドに着陸。
 スンダランドは、タイ・バーンチエン風の文明様式を持っていた・・・。
 ランチョンマットを敷き、即席UDONを食しつつ、プレジデントは九州の大学院で研究していた頃を思い出した、「そういえば僕の担当だった教授は昼時に研究室を訪問するとよくカップ麺を食べていた。すてきな先生だった。研究者であるという事の基本を彼から学んだ。」 ・・・いい時代だった、長い不況から立ち直れずにいたけど、いろんな国々から留学生が来ていた、・・・中国、韓国、モンゴル、マレーシア、タイ、ブラジル・・・。
 プレジデントには使命があった。
 そうだ、この二万年前の世界は非常に発達した社会だった。しかし、公害や環境破壊、そして原子力・核、・・・そういったものが既に当時の人類を脅かしていた。自らつくりだしたものに生存を脅かされる。彼らの中の一部の人々が、この地球を捨てて別次元へ移住したらしい。だが、その移住先をも、自ら破壊して滅ぶ運命だ。そのことを伝えに来た。それが使命。
 彼は高度に発達した都市の入口を見つけ、その中に入った。そして見事、プレジデントは成功した。彼は異次元世界へ移住しようとしていた古代人類一派を説得し、その計画を止めさせた。
 プレジデント、まんまと歴史を変えることに成功しやがったよ。いい方向にね、まさにグレイト!
 あとは、僕、T・ホークシャー蔵雄さ。僕もまあ、ローマ・アンダーグラウンドでバーチャル城を建造した『エネミー』を倒した。だが、あとは僕の人生さ。もちろん、神父様は「君は神から愛されている」って言ってくれるよ。僕もそれを信じてる。
 結局のところ、男はちゃんと女に愛されないとダメになっちゃうんだ、ほんとうにそうなんだ。そして男もその女を本当に愛さないといけないんだ。僕が放蕩の末に分かった事さ。いい歳してやっと分かってきたんだ、・・・僕がどんなにバカか分かるだろう? なぜ、こんな風になっちまったのか、分からない。だが反省はしてる。世間じゃ、僕は学者なんて呼ばれてるが、本当の僕なんてこんなもんさ。生活もホントのトコロ、ぎりぎりなんだぜ。今回のミッションだって四千ドルしか無かったんだ。それにしちゃ大冒険だったな、だけど全ての事で何ていうのかな、神様に感謝してるよ。やっとミッションを達成できたんだ。やっとさ。昔、仲のいい友人がさ、「その日、雨露しのげて寝る所があって、食べるモノがちゃんとあったらさ、それは十分感謝すべきことだよ」って云ったんだ。それは、僕みたいなバカなロクデナシのゴクツブシでも、記憶の棚に入ってる言葉さ。いい友人さ。
 ちょっと時間があったからさ、『楽園の瑕』と『ダンボ』(映画)を見たんだ。『楽園の瑕』の主人公が云うんだ、・・・傷ついた心は、仮面の人格を必要とする、ってね。そうだ、僕の事だって思ったよ・・・。聖書には、よくお前の心を守れ、って書いてある。『心』が僕らの中心なんだよね。映画では云ってた、男の問題は過去をよく覚えていることにある、ってね。そうだな、そういう面はあるな。『ダンボ』はね、なんども涙がこぼれそうになった。心に触れてくる映画なんだ。ダンボがうまれてきたとき、他とは違う境遇で、それは一つの才能ではあるんだけど、どうやって世界のなかに入ったらいいか分からない、・・・その不安とか、恐れとか、・・・だからお母さんといたいって気持ち、ダンボの気持がさ、すごく分かる気がしたんだ・・・。そして、ダンボを力づけようとする少年少女がさ、気持ちがやさしくてね、涙が僕の目にどんどん溜まっちゃうんだ、びっくりした。

 私は、自分の書いた手記を読み返し、記憶の欠落を補った。
 私は混乱していた。
 私は仮面を被り世界を放浪していたようなものだ・・・。
 そして世界とホームタウンは繋がっていた・・・。そう思っていなかったが、確実に世界は繋がっていた。ホームタウンに戻ろう、或る日そう思った。そしてホームタウンへ・・・。
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