上 下
27 / 27
第二章 逃亡者と幼馴染

愛ゆえに

しおりを挟む
「ん?」

目を覚まし、体を起こした猛は、周りを見回す。

「うそ」

枕元のデジタル時計を見ると、既に一ヶ月以上経っていたことを知り、愕然とする。

目を覚ますまでの間が全く思い出せない。何か大事な事があったような気がするが、思い出せないならそこまでじゃないのかな、と思い、そのまま布団に入り直した。

そんな次の日、目を覚ましたことを医者から両親に連絡がいき、両親に泣かれたりしつつ、診断を受け、特に体に異変はないが、安全のために1週間の入院となり、更に3日。

夜の病院は静かだ。不気味なほど静かで、時折看護士の足音が聞こえる。

何もすることはなく、ボーッと時間だけが過ぎていき、天井を見上げていた。

その時思い出すのは美月の事。もう関わることはない。あの時彼女から逃げ、関わる権利を失ったのだから。

そんな時、スマホが震える。

普段ゲームの通知くらいでしかスマホが震えることはないので、何気なくそれを取る。

そこにあったのは、

「美月?」

突然の名前に、猛は息が詰まりそうになったが、呼吸を整え、画面を開く。

そこにあったのは、

【たすけて】

たったそれだけ。たったそれだけなのに、猛はベットから跳ね起き、病衣に裸足のままで飛び出した。

運良く看護士には見つからず、病院を飛び出すと走り出す。

足の裏が痛み、肺が破れそうだ。だがそれでも、猛は歯を食いしばって走り続ける。

途中で転び、膝を擦りむくが、立ち上がって走り出す。何かが言っている。止まるなと。走り続けろと。

「可笑しいですね。記憶はないはずなのに」

それを見ていたクルルーラは首を傾げつつ、後を追った。































一方その頃。

レイジに連れられ、美月は街を歩く。

夢を見ていたような感覚と共に目覚めた美月だったが、先程レイジから呼び出され、街に出てきた。

嫌だった。逃げ出したかった。だが逃げ道はない。なのに、何故か猛に一言だけメッセージを送ってしまった。理由は分からないが、送らなければいけないと思った。

でも既読だけ付き、返事はない。当たり前だ。

誰も助けになんて来ない。そう思ってた時、

「美月!」
「っ!」

人混みの中、確かに聞こえた声に振り返ると、

病衣のまま汗だらけの猛が見え、

「猛!」
「あ?」

美月はレイジを振り払い、猛の元に走り出す。

「おい!」

レイジは美月を掴もうとするが、その前に腕を掴まれ止められた。

「白馬の王子様、っていうのはちとカッコつかねぇが、邪魔すんじゃねぇよ」
「あ、あんたは」

レイジは目の前の少女に見覚えがある。

「乾藤先輩?」

乾藤 空。3年の先輩で、黒い噂が絶えない人。学校で喧嘩を売ってはいけない奴ベスト3に入る人だ。しかし、

「は、離せよ!」

腕を振って離させると、空を見る。

自分より小柄で女だ。今までどんな女も少し叩いてやれば大人しくなった。だったら、

「しねぇ!」

レイジは拳を振り上げ、空に襲いかかる。だが、

「あ、が……」

そのまま地面に崩れ落ちた。何が起きたのかわからないが、腹部に走る激痛が、殴られたというのを告げる。だが周りの通行人は、何が起きたのか分かっていない。傍目には、突然レイジが崩れ落ちたように見えたのだ。

「乾藤流古武術・攻邀こうようていってな。攻撃を迎え入れるって意味だ。因みに邀ってこう書くんだぜ」

しゃがみ込み、空はレイジに話しかける。

「中身は単純。人間は誰しも攻撃しようとする時、力を込めるために溜めを作る。その溜めの瞬間に最短最速の一撃を叩き込むだけ。溜めの瞬間ってのは意識も攻撃一辺倒だからな。そこに攻撃を入れられると目茶苦茶効くんだ」

まぁ一般人には何が起きたか分からねぇだろうがな。そう言いながら、空はレイジの顔を覗き込む。

「分かるか?アタシがその気なら、お前をぶっ殺すくらい造作もない」
「っ!」

全身を締め上げる、空の殺気に、レイジは全身から汗が噴き出す。

「二度とあの二人に近づくな。そして二度とふざけた真似をするな。もし守れなければ」

空の冷たい視線。レイジにはわかる。この女は、人を殺すのを脅しではなく、実際に行えるタイプだと。

「分かるよな?」

コクコクとレイジが頷く。そこに、

「何をしている!」

警察がやってきた。誰かが通報したのだろう。日本の警察は優秀だ。

「お前はっ!」
「どうも」

空は振り返りながら、来た警察を見ると、知り合いだったのか会釈し、

「襲われたんだけどなんか倒れちゃったんですよ」
「それ信じろと?」
「だってそうですし」

チッと警察はレイジの元に行き、

「とにかく事情を聞かせてもらうからな」
「勿論」

空は抵抗せず、レイジを連れた警察についていく。

「い、良いんですか?」

人混みから外れた路地裏から覗く来るルーラと美矢だが、

「後で顧問弁護士に連絡を入れますわ。まぁ空さんは慣れっ子でしょうし」
「何なんですかあの人」

それよりも、と美矢がクルルーラに言うと、彼女は頷き、

「大丈夫です。ちゃんと加護を掛けておきましたから」

クルルーラが掛けたのは、美月のお腹の子供を別の家族に移す物。

「聞いてみるもんですわね」
「ちゃんと子供を願う人の元に転生させましたからね。これで美月さんも気が楽になるでしょう」

そんなやり取りをしつつ、美矢とクルルーラは歩き出す。

「それにしてもオルトバニアから戻ったのに、何で覚えていたんでしょう」
「覚えていたわけではなさそうでしたわ。ただ、本能的にでしょう」

余計に何でかわからない。そうクルルーラが言うと美矢は、

「強いて言うなら……愛ですかね」
「言ってて恥ずかしくありません?」

ちょっとだけ、クルルーラのツッコミに、美矢は遠い目をしながら、そう答えるのだった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

ユウジン
2021.09.19 ユウジン

ありがとうございます!

解除

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。