上 下
22 / 24
第二章 逃亡者と幼馴染

誘い

しおりを挟む
「……タケル」

美月は静かに呟くと、入院している病院のベットの上で眠るタケルの手を握る。

先日突然眠ったまま目覚めなくなってしまった幼馴染。

どんなに呼び掛けても反応はなく、だが生命活動は維持している。とタケルの母が医者の先生から聞いたらしい。

同時にレイジも目覚めなくなった。タケルとレイジが同時期に目覚めなくなった。これは無関係なのだろうか?いや、無関係とは思えない。しかしどういう因果関係なのかの説明も出来ない。

無関係ではない気がする……位しか思えなかった。

「ねぇタケル。私どうすれば良いかな」

タケルの手を握りながら、美月は口から言葉を紡ぐ。

「子供出来ちゃった。誰が父親だか分からない。でも卸すにも色々手続きがいるし、でもこの子供を産みたくない。だって愛せないもん。尊い命だよ?でも私にとってはレイプされた時にできた子供だもん。愛せないよ……どうすればよかったのかな。最初からタケルに話してたら違ったかな?どうしたら良かったかな……」

ポロポロと涙を流し、美月は言葉を口にしていると、

「ここにいたんだね」
「え?」

そこに病室の扉が開かれ、そこに立っていたのは魔実だ。

「杖島先輩?」

何でここに。と言うニュアンスで美月が聞くと、

「いや、ちょっと知り合いが教えてくれてさ。タケル君の病室の場所。もしかしたら居るかなって思って来たんだ」

少し話したい。そう魔実が言うと、美月は何となくタケルについてだと感じ、大人しく着いていく。

連れて来られたのは病院の屋上だった。そして病院の屋上でくるりと魔実は振り替えると、

「一つ聞かせて。タケル君のこと怒ってる?ホントは憎かったりしない?」

突然の問いかけだ。しかし美月は首を横に振り、

「そんなまさか。嫌えたらもっと楽ですよ」

そうだよね。と魔実は笑みを浮かべ、美月を見る。

「嫌いになんかなれないよね。幼馴染って奴はさ」
「はい」

少し何かを思い出したように喋る魔実に、美月は首をかしげつついると、

「よし、ねぇ和賀さん。一つお願いがあるの」
「お願い?」

一体なんだろう?そう思った美月に、魔実は提案する。

「タケル君と会って欲しい」























「よし、準備は良いか?」

ある日の夜。レイジを筆頭に仲間達は集まっていた。

先日から勇誠達が働いている屋敷を見ながら話している。

「おいタケル!間違いなくあるんだろうなぁ!」
「う、うん」

レイジに怒鳴られ、タケルはビクつきながら答えると、

「そんじゃあ。散会だ!」

レイジはそう言うと、仲間達はそれぞれのポジションに移動。

「おらいくぞタケル!」
「わ、わかったよ」

夜は不気味だ。そんなことを思いながら、タケルはレイジに着いていく。

この屋敷はかなり大きい。だがそれに反して巡回している警護が少ない。

逆に中は相当いる。まぁ何人いようが関係ない。全員殺せば良い。そうレイジが思っていると、

「よう。お前ら」
「なに?」

暗闇から声をかけられ、その方をレイジとタケルは見ると、そこに立っていたのは勇誠と魔実。そして、

「美月?」
「タケル」

タケルにとって、よく知った人物。和賀 美月だった。

「なんで美月がここに……?」
「俺の力さ」

タケルの問い掛けに答えたのは勇誠で、

「ま、色々裏技があってさ」
「だが何でここにお前がいたんだ?」

今度はレイジが聞いてくると、勇誠は笑みを浮かべ、

「態々お前らがここに来てた理由がわからなかったんだが、何かこの屋敷にあるのは直ぐに分かった。ここの主は何か隠してるのは明らかだったしな。だから毎日働かせてもらう序でに屋敷を調べさせてもらった。警備が厳重で大変だったぜ」

まぁ、全部美矢の指示だったのだが……と勇誠は内心思いつつも、

「そしたら後は忍び込むルートを割り出し、そこで待ち伏せるだけだ」

これも美矢の指示である。巡回ルートからどこに来るかを割り出すのは、彼女にとってそんなに難しいことじゃない。

「ふん。分かったからってなんだ。テメェらをぶち殺せば一緒だろうがぁ!」

レイジはそう叫びながら、こちらに突っ込んでくると、勇誠は腰から木刀を抜いてレイジを止める。

「おらタケル!ボーッとしてねぇでさっさと盗ってこい!」
「っ!」 

タケルはレイジの声を聞くと、弾かれたように走り出した。

「魔実!和賀さんを連れて行け!」
「うん!」

魔実も美月の手を引き、タケルを追って走り出す。

「へっ!てめぇ程度で俺を止められると思ってんのか!舐めんなよ!」
「やってみないことには分からないだろ!」

一方その頃。

「へぇー。こっちの動き読んでたんだ。やるじゃん?」
「この程度どうってことありませんわ」

美矢は弓矢を持ち、レイジの仲間の一人であるマクアと対峙し、

「良いねぇ。どっちもタイプは違うけどソソるねぇ!」
「ひぃ!」
「……」

先日空と戦ったジュノアは、癒羅と刹樹の二人と。

「アタシは大当たりかな」
「ふ……」

空もレイジの仲間の男と視線を交わす。

「ジュノアだっけ?アイツと戦ってるときも気づいたぜ。レイジの仲間の中じゃあんたが一番強いってな」
「そうか」

短く男は答えると、腰から剣を抜いて切っ先を空に向けながら構える。

「悪いが殺すぞ」
「良いね。分かりやすい」

対照的に空は構えない。一見すれば棒立ちにも見える。しかし空に隙がないのは、対峙している男が一番よく理解していた。

「ガワラーダだ」
「乾藤流古武術継承者・乾藤 空だ」

二人は短く名乗り、互いに向かって走り出すのだった。
しおりを挟む

処理中です...