上 下
2 / 27
プロローグ 勇者にさせられました

登校

しおりを挟む
「すっかり桜も満開だな」
「そうね」

と言いながら高校までの道のりを二人で歩くのは勇誠と魔実だ。

こうやって高校まで歩くと言うのも、今年で最後。そう思うと感慨深いものである。 

とは言え、二人で歩くのは途中までで、 

「オッス勇誠、魔実!」
「おはようございます。勇誠さん。魔実さん」
「おはよう空、刹樹」

背後から声を掛けてきたのは二人。一人は乾藤けんとう そら。勇誠や空と同じ東桜高校に通う3年生で、彼女とは中学生の頃からの付き合いの悪友だった。実家が空手道場を営んでおり、自身も空手有段者(ただ本来彼女の一族は古武術を受け継いできた一族で、空も本来は空手よりそっちの方が得意らしい)で、並の男では歯が立たない(と言うか、こいつ勝てるやつが人類にいるのかが謎)ほど。少なくとも勇誠は勝てないので、絶対に例え何があったとしても、この女に喧嘩を売ることだけはするまいと心に誓っている相手である。

そしてもう一人は暗夜あんや 刹樹さつき。こちらは体操部に所属する東桜高校2年。勇誠とは元々、運動部関係の集まりで知り合い、それから話すようになったのだが、容姿は言わずもがなだが1年の時点で期待のエース扱いをされるほど高い実力とその実力に見合うだけの、根性を持っている。ただ若干表情と言うか、感情の起伏に乏しい所はあるが、最近は微妙なその変化を見抜けるようになったので、特に苦労はしてない。今は2年になり副部長として、今年も全国大会優勝を目指すらしい。

そしてどちらも現在魔実と同じく彼女でもある。魔実と良い空も刹樹も容姿(勿論中身もだが)が優れている。どちらかと言えば容姿は中の下位の顔であると思っている勇誠にとっては、未だに信じられない。だが現実なのだ。こんなかわいい女の子達に囲まれていると言うのは。まぁ周りの視線が痛いのはこの際仕方ないと思う。

何せ付き合ってはいない事には一応しているが、女の子に囲まれ、和気あいあいと話す姿は、見ただけでも中々にアレな光景なのは、勇誠も自覚があった。

とは言え、まぁコレに関しては仕方無いかと諦めつつ歩いていると、

「あ、今日は勇誠さんの好きなの入れておきましたからね」
「ん?あぁ、ありがとう」

そう刹樹は言いながら弁当箱を渡してきた。基本的に勇誠は両親が忙しいので、学校がある日は昼食を学食で済ませてたのだが、今は毎日日替わりで彼女の誰かが作ってくれる。誰かと言っても、現在は高校を卒業して大学に通う人もいるので、その彼女以外と言うことにはなり、この三人が日替わりで作ってくれるのだが。

因みに三人とも料理は旨い。と言うか、刹樹と空に限れば上達したというべきだろう。

空なんて最初の頃は肉を食ってれば元気だとかいって、味付けもなにもしていない肉を手に、油を鍋になみなみと入れて、肉をその中に放り込み大惨事を引き起こしかけたほどだ。その頃と比べれば、今の料理は同じ人間が作ったとは思えないほどである。

刹樹は単純に慣れてないだけだったので、味付けが妙に濃いとか、焦げた食材が入ってた程度だったが。

そんなわけで弁当箱を受け取り、遅刻しない程度にのんびり歩く四人。

こういう時勇誠は、いつまでこう言うことが出来るのかと思う。なにせ計五人の彼女がいると言うのは、普通じゃない。いつまでも皆と一緒がいい。それが勇誠の出した答えの根底にあるもので、それを皆が受け入れてくれたからこそ今があるのだが、たまに不安に襲われる。

「どうしたんだよ勇誠」
「いっで!」

バシーン!と空の馬鹿力で背中を叩かれ(空の身体能力は人間のソレを、ほぼ間違いなく凌駕している)悲鳴をあげる、

「ゲホッ!ゲホッ!」
「おいおい勇誠。そんな大袈裟に咳き込むなよ」
「ばか!お前のバカ力で背中ぶっ叩かれたら、誰でもこうなるわ!」

と被害に文句を言うものの、空はちゃんと力を押さえたつもりらしい。力を押さえてこれでは、じゃあ本気やったら背骨が粉砕されてそうだ。勘弁してほしい限りである。

「空先輩の力は人類の水準を大きく上回ってますし、仕方ないですね」
「おい刹樹。お前サラッと失礼じゃないか?うん?」

刹樹の一言を、空は聞き逃すことはしない。空は耳もいいのだ。目も良い(確か検査してないので細かくはわからないが、2.0は確実に越えてるらしい)が。

しかしそんな空は勇誠を改めてみて、

「んで?なに暗い顔してんだ?」
「いや、今日の数学の小テストを思い出してさ」

なんて言う空に勇誠はそう返し、数学の小テストの件をすっかり忘れていた空は絶望と共にムンクの叫びをあげるのだった。

因みに空はどの科目も赤点ギリギリか、赤点常習犯である。





さてそんなわけで平穏な一日を終え、夕食を終えた勇誠は、妹に寝ることを伝えると布団に入る。

今日も変わらぬ一日だった。今日はさっさと寝て明日に備えよう……と思ったその時、

「何寝てるんですぁ!」
「ほげっ!」

ウトウトと眠りの世界に入り始めた瞬間の怒鳴り声に、勇誠は変な声を出しながら起きると、

「く、クルルーラさん?」
「はい。クルルーラです。と言うわけで勇誠さん?何普通に寝ようとしてるんですか?世界救いにいってくださいよ!」

だって明日学校あるし……そう勇誠が言うと、

「そこは抜かりありません。あくまでも魂だけを向こうに飛ばすので、転移すればその間こちらの肉体は休息します。寧ろ普通に寝るよりしっかり休めますよ?因みに向こうで怪我したりしてもこちらの肉体には影響ありません。一回戻ってきて向こうに戻れば綺麗さっぱり治りますよ」
「何でそう言う所だけ根回し完璧なんですかね」

勇誠はブツブツ良いながら、一度身体を起こす。

「でもクルルーラさん。オルトバニアにいくのは良いですけど、服装はどうにかならないんですか?昨日行ったらパジャマのままで出ちゃって」
「服ですか?服は転移する際のイメージで決まりますからねぇ。適当に普段の私服のイメージをしながらいけば良いんじゃないですか?オルトバニアって結構多国籍と言うか、初期の頃に勇者に選ばれた人達がその辺の文化を自由に発展させてたりするので結構服装とか幅広いですし」

そのせいで魔王討伐より街作りに精を出したり、辺境でスローライフ送りだしたりして、結構こっちとしても苦労してるんですよねぇ。と言うクルルーラを尻目に、勇誠は普段の私服をイメージする。基本的にジーパンにTシャツとジャケットの組み合わせなので、それをイメージしながら、

(転移!)

そう心で念じ、バタンとそのまま後ろにひっくり返る。それをクルルーラは見送って、

「眠ってるみたいだろ?死んでるんだぜ。なーんつって!」

アッハッハッハ!と高らか笑う。そこに、

「お兄ちゃんうるさい!」
「え?」

バン!と扉が開き、入ってきたのは可愛らしい女の子。

名前は鶴城つるぎ 勇実ゆみ。まぁ分かると思うが、勇誠の妹である。別に血の繋がっていない義理の妹とか、そういう設定は取り合えずない。まぁ顔は可愛らしくて、結構重度のブラコンな上に、勇誠とは余り似てないので、良く一緒に歩いてると、恋人に間違われることがあるが、まぁそれは余談。

『……』

さて勇実から見た状況だが、部屋には兄が寝ており、そこには見知らぬ変な服装をした女が一人大騒ぎしている。明らかに異常事態であった。

「ど……」
「ど?」

泥棒!と叫びながら、勇実は勇誠が何時もドアの横に立ててある竹刀を掴み、クルルーラに兄直伝の剣道で襲いかかる。

「ひぇえええ!ちょっと待ってください!誤解です!誤解なんですぅううううう!」
「兄の部屋に知らない間に入ってる奴をなんて言うか知ってる!?不審者って言うんだよ!変な格好までして!」
「こ、これはうまれつきですぅううううううう!」

とドッタンバッタン大騒ぎして、家中ところ狭しと暴れながら、二人は夜明けまで追いかけっこをした挙げ句、勇実によりクルルーラは竹刀でしこたま殴られた上にビニールヒモで何重にも縛り上げられて床に転がされる羽目になるのだが、それは勇誠のその後に大きな影響を与えることになる、出会いの物語を語ってから、語ることにしよう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...