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第一章 龍と虎
脱出
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水祈が報酬について梶原と話し合いに言った直後のこと、龍はカジノの二階に設置されているカウンターでお酒を貰って飲んで待っていた。
ここからは下の階のカジノを見下ろして覗くことができる設計で、喜びと嘆きが入り乱れる光景を肴に飲む事ができる。
因みに龍は賭け事には興味がない。というか、基本的に運がないので、良いカモにされるだけだ。なので大人しくお酒だけで我慢する。因みに本来だったら滅茶苦茶高い酒で普段だったら飲みたくても飲める代物じゃないのだが、客はそれをタダで貰えるので、今のうちに飲み貯めておく。本来だったら入場料だけでも相当な額を要求されるのだが、水祈の仕事の付き添いのため、タダで入れた。
実質タダでこの良い酒を飲み放題なのだから、中々龍的には中々割りの良い仕事だったなと思っていると、そこにスーツに詳しくない龍でも、高いスーツなのだと分かる程度には身なりの整った男が、龍の座っていた席の向かいに勝手に座ってくる。他にも席はたくさん空いてるのにだ。
龍の経験上、この手の奴はロクなやつじゃない。と警戒していると、
「初めましテ、私は陳ダ。九十九 龍さン」
「……」
少し変わったイントネーション。日本人ではなさそうだ。
ただ見たところ、アジア系だろう。
「あ~、陳さん……だっけ?悪いんだけど今普段飲めないようなお酒を飲んでて気分が良いんだ。面倒ごとなら明日以降にしてくれ」
「面倒ではなイ。寧ろ貴方にとっては幸運ダ」
なに?と思って陳の方を見ると、笑顔を張り付けた表情を浮かべ、陳は膨らんだ封筒を乗せると、
「100万あル。これを彼女と交換しようじゃないカ」
「彼女?」
一瞬水祈が頭に浮かんだ。仕事上怨みを買いやすい。そう思ったが、それでは交換と言う意味がわからない。
自分も含めて水祈を襲うならわかるが、態々金を払う必要性がない。そこで思い至ったのは、
「虎白か」
「あァ、彼女を此方に引き渡して欲しイ。足りないと言うなラ、もっと増額するガ?」
そう言って陳は更にもう一つ膨らんだ封筒を置く。膨らみから考えるに、中身は同じだろう。
「ふむ」
龍は封筒の中身を確認。確かに100万程は入ってる。札束に帯が巻いてあるから間違いないだろう。札束の帯はお札が100万に1枚でも足りないと落ちるらしいが、少し引っ張ってみても簡単には取れないので、多分100万あるのだろう。まぁ偽札があったら分からんが……
「それに部下が君に迷惑を掛けタ。どうかこれで許してくれないだろうカ?」
「そもそも、虎白って何者なんだ?」
ポンっとテーブルの上に封筒を投げながら聞くと、陳は笑みを浮かべ、
「知らない方がいイ。まァ、あんなオンボロスナックのバウンサー程度ではどうにもできない事ダ」
暗に良いからこの金を受け取って虎白を渡せといってきている。
しかしこっちの名前や職場まで調べてあるとは……中々厄介な相手だ。
しかし、
「悪いが、アイツの母親の家族を探してやらなければならないんでね、それが終わってから返してやるよ」
とだけ言って、席を立った。そこに、
「まぁ待てよ」
「ん?」
肩を捕まれ、凄い力で席に戻されそうになるが、それを踏ん張って耐えながら、相手の顔を見る。
「まだ陳さんの話は終わってねぇぜ」
「終わっただろ。俺は虎白を渡さない。それでこの話は終わりだ」
そう言いながら、龍は相手の顔を見る。
「あれ?」
すると龍は相手を見ると、随分ガタイの良いことに気づき、更に何処かで見たような顔だ。しかし、知り合いではない。そう、テレビで見た顔だった。
「お前……雲勇山か?」
「へぇ、俺を知ってるのかい?」
雲勇山と龍が呼んだ男は、少し嬉しそうに笑みを浮かべる。
「知ってるさ。モンゴル出身の元力士。大関まで行って、腕っぷしは横綱級。だけど性格は序ノ口以下。そのせいで戦績なら充分横綱昇進もあり得たのに、大関止まり。挙げ句の果て酔って店に来ていた客と大喧嘩した挙げ句、相手を叩きのめして報復に来た仲間達も纏めて返り討ちにし、相手が武器を持っていたのが幸いして実刑は喰らわなかったけど、相撲業界から永久追放を喰らった。って一時期テレビでめっちゃ取り上げられたぜ?」
ニュースを余り見ない龍でも、この程度は知っている。そして、
「んで?今やこの胡散臭い男のお仲間か?」
「なに……ただのボディガードさ。なぁ陳さん。こいつその金は受け取らねぇってよ。どうする?」
「お前の交渉に任せル」
陳がそう返すと、雲勇山はニヤリと笑い、
「お前もバカだなぁ。折角の200万。治療費に消えちまうぜぇ!」
「っ!」
雲勇山は龍の肩から手を離すと、反対側の手で張り手を放ち、龍はそれを腕でガードして受け止めるが、その衝撃は凄まじく、そのまま二階の手すりから吹っ飛んだ拍子に落ちてしまう。
一方一階のルーレット台の上を睨み付ける一人の男がいた。
賭けても賭けても当たりが出ず、金だけをむしり取られていた。そして今、男は全財産をこの最後の戦いに注ぎ込んだ。まぁ用は典型的なギャンブル狂いである。
しかもこの男。結婚していて子供までいるのだが、仕事の取引先の人とここに来て以来、完全にハマってしまい、家の金にまで手をつけ始めていた。
取った分はギャンブルを当てて返せば良い。と言う死亡フラグまで建てていた。
しかし現実は甘くない。ルーレットは球を投げ、その球がどこに落ちるかを当てるゲームなのだが、この店クラスのディーラーともなれば、狙った場所に落とせるため、客が狙ってなかったり、狙ってて少額にしかならないところを上手く狙って投げていた。勿論こんなヤケクソに全額を賭けたところには落とさないように投げている。だが折角だし夢は見させてやろうと、賭けられている所の隣に球を落としてたろうと投げたその時、上から龍が降ってテーブルの上に落下。
テーブルを破壊しながらも、龍は何事もなく立ち上がり、
「悪い邪魔した」
と言って何事もなかったかのように首を回すと、上から雲勇山が飛び降りてきたため、後ろに飛んで避けると、龍は拳を握る。それに合わせ、飛び降りた体勢から相撲の構えに移行し、ぶちかましを放つ。
現役時代のような体格ではないが、その分筋肉を増やしている。
体重は現役時代ほどじゃないが、その分速い。体重が落ちた分速さでぶちかましの威力を補うようだ。
「くぅ!」
そして龍はそれを正面から受け止める。少し後ろに押されるものの、しっかり受け止めるとそのまま肘を脳天に落とした。
「がっ!」
脳天に龍の肘を喰らい、膝を折って手を離した雲勇山だが、そのまま飛び上がるように張り手を龍の顎にアッパーの要領で放つ。
「っ!」
ガッ!と派手な音を立てながら、龍は後ろに倒れそうになるが、踏ん張って耐えると、拳を握って雲勇山の顔面に叩き込む。
「あぐっ!」
だが雲勇山もそれ踏ん張って耐えると、逆に張り手を打ってくる。
「だらぁ!」
しかし龍も張り手に耐え、拳を叩き込む。
『オォオオオオオオオオオ!』
互いに攻撃を叩き込み合い、周りに凄まじい音を巻き取らすが、気にせず殴り合い続けた。
龍にとって久し振りだ。殆どの相手は拳一発で沈められる。だが雲勇山は何発入れても倒れない。
それは雲勇山も同じで、張り手は彼にとって自慢の武器だった。打たれ強い力士達も雲勇山の張り手は驚異で、この張り手でどんな相手でも潰してきた。
どちらも似たようなタイプの戦い方だ。打たれ強さに任せて渾身の一撃を叩き込む。だがそれをお互いがやるため、泥仕合様相を呈してきた。
しかしそれが受けたのか、周りから何かのイベントか何かかと勘違いされて、歓声が上がる。
そこに、
「ハァアアアア!」
『っ!』
横から黒服がナイフを手に突っ込んでくるが、
「ラァ!」
「水祈!?」
その黒服を上の階から飛び降りて来た水祈が、飛び蹴りを放って倒す。
「ちっ……」
すると雲勇山は張り手をやめ、龍に背を向けた。
「おイ!何をしていル!」
「これ以上は邪魔が入る」
雲勇山が上にいる陳に答えると同時に、店のあちこちから黒服達が乱入してきた。
「店で暴れたからか……?」
「違う。今回はアンタを狙ってたみたいよ」
俺をじゃなくて、虎白っぽいけどな。と喉元まで出かかったが、今はそんな場合じゃない。
「とにかく脱出だな」
「みたいね」
一応チラリと雲勇山を見るが、雲勇山は折角盛り上がってたのによ、と呟いて上に上がっていってしまった。
「でも大丈夫?随分派手に殴りあってたけど」
「ちょっと口の中血の味がするけど、まぁ元気一杯だ」
首をコキリと鳴らしつつ、龍がペッと血の塊を吐いて捨てると、
「死ねや九十九 龍ぅううううう!」
『っ!』
一人がナイフを振り上げて襲い掛かってくる黒服に、水祈がまず回し蹴りでナイフを蹴り落とし、
「邪魔だぁ!」
スレ違い様に龍のラリアットで沈める。そしてその勢いのまま二人は走りだして飛び出して走ると廊下に出て、そのまま走ると、先には廊下には銃を構えた黒服達が待機していた。
「九十九 龍だけを狙え!」
「嘘だろおい!」
「こっちよ!」
サブマシンガンを構えていた黒服達が引き金を引くと、ババババと銃弾が連続発射。凄まじい量の弾薬による弾幕が張られるが、二人は咄嗟に近くの窓を突き破って飛び出す。
外から見ると三階の高さで、普通であれば怪我をするのだが、
「ふん!」
「ヨッと」
ドン!と普通に着地したが平気な龍と、ちゃんと5点着地で無傷で脱出。大通りだったので、周りに見られるが今は仕方ない。
そして流石に外に向けて発砲すると、言い訳が出来なくなるのか外には撃ってこないらしい。
「まさかマシンガンまで用意してるとはな。梶原の奴余計なことしやがって」
「全くね……ん?」
水祈が龍に同意していると、車が此方にやって来た。だが、
「やっぱりここに出てくるよなぁ!」
『梶原!?』
龍と水祈が驚く中、梶原は高そうな外車のエンジンを吹かし、此方に突っ込んで来る。
「死ね!九十九 龍!」
「正気かよ!」
水祈の方ではなく、明らかに龍を狙ってくる梶原に、龍は横に転がって避ける。周りにいた人達は、慌てて逃げ出していた。
「ちょこまかすんじゃねぇええええ!」
ドリフトしながら方向を転換した梶原は、再度龍に突っ込む。すると龍は既に腰を落としており、
「はっけよい残ったぁ!」
ドン!と車を正面から受け止め、ガリガリと後ろに押されていくが、10m程押されたところで止まる。
「はぁ!?」
梶原はアクセルを全開にするが、龍は腕の筋肉を隆起させ、
「ドオオオオオリャアアアアアアアアア!」
そのままちゃぶ台返しの要領で車をひっくり返した。
「なんかこういう相撲の技なかったっけ?」
「あったかもしれないけど車にやるものじゃないわよ」
と水祈は車の中で目を回している梶原を見てから、
「とにかくほら、さっさと逃げるわよ」
「あいあいさ」
そう言って龍の背中を軽く叩きつつ水祈が走り出すと、龍もそれに続いて走り出した。
◆
「ここまで来れば良いか?」
「そうね」
カジノ・ユートピアを脱出した龍と水祈は、しばらく走っていたものの、裏路地に飛び込んで息を整える。
「全く。毎度の事ながらしんどいわね」
「だなぁ」
どうも依頼を受けたり成功させるものの、その道中や後に何かしらでひどい目に遭うのは、今回が初めてではない。
「最悪よ。金塊の回収は大変だったし報酬は受け取り損ねるし、挙げ句の果てに大乱闘。なにより梶原に体ベタベタ触られるし、ホント最悪!」
「そりゃご苦労さん」
龍は苦笑いを浮かべて、タバコを取り出すと火を着ける。水祈も同様にタバコを出して火を着け、
「龍もさ、いっそどっかでかい店のバウンサーやってみない?」
「ん~?」
突然の話題だったが、龍は特に気にせずいると、
「あんたくらいの腕なら一晩で100万は稼げる店が幾らでもある。それにそのくらいの店なら面倒ごとなんて殆ど起きないわ。来る客もランクが高いかね。そうなれば黙ってても100万稼げる仕事よ?火月さんの事は私だって好きだし、別に毎晩じゃなくても良い。でも週に一回でもやれば少なくともこんな毎度毎度危険な目に逢わずとも済むわ」
「んで、お前は仲介手数料を受けとると」
「半々だから良心的でしょ?」
半々は大きくねぇか?と龍は問うものの、水祈は肩を竦めて、
「私の人脈で成り立たせるんだからね。その人脈を作るまでの手数料も込みだから」
「あこぎなやつ」
と言い合って二人で笑う。
「でも真面目な話、少し考えて欲しいの。配達屋も何時までできるか分からないしね」
「そうなのか?」
「えぇ、最近裏が騒がしいのよ。何か大きな事件の前触れみたくね。今のうちに路線を変更するのもありかなって思ってる」
でっかく稼いだら暫く二人でのんびりするのも良いしね。そう言われた龍は、確かにそうだなと同意した。しかし、
「まぁ虎白の件を片付けてから考えるよ」
「虎白の?」
あぁと龍は頷き、
「どうもさっき戦った雲勇山の雇い主がな、虎白を狙ってたっぽいんだ」
「ふぅん?成程」
水祈はタバコを口から外して紫煙を吐き出すと、
「陳って言うやつだったかな」
「陳か……」
知ってるのか?と龍が聞き、水祈は答えた。
「最近歌舞伎町で聞くようになった名前ね。まぁ珍しい名前じゃないから偶然同じって可能性もあるけど」
「まぁとにかくアイツらは虎白狙いらしい。しかも俺の事も調べてた」
「そうなると店に戻った方が良さそうね」
タバコを吸いながら水祈は軽く肩を回すと、店の方角を向くと、龍もタバコを吸いつつ、
「まぁ、多分大丈夫だと思うけどな」
「でしょうね」
と言いながら、二人は苦笑いを浮かべるのだった。
ここからは下の階のカジノを見下ろして覗くことができる設計で、喜びと嘆きが入り乱れる光景を肴に飲む事ができる。
因みに龍は賭け事には興味がない。というか、基本的に運がないので、良いカモにされるだけだ。なので大人しくお酒だけで我慢する。因みに本来だったら滅茶苦茶高い酒で普段だったら飲みたくても飲める代物じゃないのだが、客はそれをタダで貰えるので、今のうちに飲み貯めておく。本来だったら入場料だけでも相当な額を要求されるのだが、水祈の仕事の付き添いのため、タダで入れた。
実質タダでこの良い酒を飲み放題なのだから、中々龍的には中々割りの良い仕事だったなと思っていると、そこにスーツに詳しくない龍でも、高いスーツなのだと分かる程度には身なりの整った男が、龍の座っていた席の向かいに勝手に座ってくる。他にも席はたくさん空いてるのにだ。
龍の経験上、この手の奴はロクなやつじゃない。と警戒していると、
「初めましテ、私は陳ダ。九十九 龍さン」
「……」
少し変わったイントネーション。日本人ではなさそうだ。
ただ見たところ、アジア系だろう。
「あ~、陳さん……だっけ?悪いんだけど今普段飲めないようなお酒を飲んでて気分が良いんだ。面倒ごとなら明日以降にしてくれ」
「面倒ではなイ。寧ろ貴方にとっては幸運ダ」
なに?と思って陳の方を見ると、笑顔を張り付けた表情を浮かべ、陳は膨らんだ封筒を乗せると、
「100万あル。これを彼女と交換しようじゃないカ」
「彼女?」
一瞬水祈が頭に浮かんだ。仕事上怨みを買いやすい。そう思ったが、それでは交換と言う意味がわからない。
自分も含めて水祈を襲うならわかるが、態々金を払う必要性がない。そこで思い至ったのは、
「虎白か」
「あァ、彼女を此方に引き渡して欲しイ。足りないと言うなラ、もっと増額するガ?」
そう言って陳は更にもう一つ膨らんだ封筒を置く。膨らみから考えるに、中身は同じだろう。
「ふむ」
龍は封筒の中身を確認。確かに100万程は入ってる。札束に帯が巻いてあるから間違いないだろう。札束の帯はお札が100万に1枚でも足りないと落ちるらしいが、少し引っ張ってみても簡単には取れないので、多分100万あるのだろう。まぁ偽札があったら分からんが……
「それに部下が君に迷惑を掛けタ。どうかこれで許してくれないだろうカ?」
「そもそも、虎白って何者なんだ?」
ポンっとテーブルの上に封筒を投げながら聞くと、陳は笑みを浮かべ、
「知らない方がいイ。まァ、あんなオンボロスナックのバウンサー程度ではどうにもできない事ダ」
暗に良いからこの金を受け取って虎白を渡せといってきている。
しかしこっちの名前や職場まで調べてあるとは……中々厄介な相手だ。
しかし、
「悪いが、アイツの母親の家族を探してやらなければならないんでね、それが終わってから返してやるよ」
とだけ言って、席を立った。そこに、
「まぁ待てよ」
「ん?」
肩を捕まれ、凄い力で席に戻されそうになるが、それを踏ん張って耐えながら、相手の顔を見る。
「まだ陳さんの話は終わってねぇぜ」
「終わっただろ。俺は虎白を渡さない。それでこの話は終わりだ」
そう言いながら、龍は相手の顔を見る。
「あれ?」
すると龍は相手を見ると、随分ガタイの良いことに気づき、更に何処かで見たような顔だ。しかし、知り合いではない。そう、テレビで見た顔だった。
「お前……雲勇山か?」
「へぇ、俺を知ってるのかい?」
雲勇山と龍が呼んだ男は、少し嬉しそうに笑みを浮かべる。
「知ってるさ。モンゴル出身の元力士。大関まで行って、腕っぷしは横綱級。だけど性格は序ノ口以下。そのせいで戦績なら充分横綱昇進もあり得たのに、大関止まり。挙げ句の果て酔って店に来ていた客と大喧嘩した挙げ句、相手を叩きのめして報復に来た仲間達も纏めて返り討ちにし、相手が武器を持っていたのが幸いして実刑は喰らわなかったけど、相撲業界から永久追放を喰らった。って一時期テレビでめっちゃ取り上げられたぜ?」
ニュースを余り見ない龍でも、この程度は知っている。そして、
「んで?今やこの胡散臭い男のお仲間か?」
「なに……ただのボディガードさ。なぁ陳さん。こいつその金は受け取らねぇってよ。どうする?」
「お前の交渉に任せル」
陳がそう返すと、雲勇山はニヤリと笑い、
「お前もバカだなぁ。折角の200万。治療費に消えちまうぜぇ!」
「っ!」
雲勇山は龍の肩から手を離すと、反対側の手で張り手を放ち、龍はそれを腕でガードして受け止めるが、その衝撃は凄まじく、そのまま二階の手すりから吹っ飛んだ拍子に落ちてしまう。
一方一階のルーレット台の上を睨み付ける一人の男がいた。
賭けても賭けても当たりが出ず、金だけをむしり取られていた。そして今、男は全財産をこの最後の戦いに注ぎ込んだ。まぁ用は典型的なギャンブル狂いである。
しかもこの男。結婚していて子供までいるのだが、仕事の取引先の人とここに来て以来、完全にハマってしまい、家の金にまで手をつけ始めていた。
取った分はギャンブルを当てて返せば良い。と言う死亡フラグまで建てていた。
しかし現実は甘くない。ルーレットは球を投げ、その球がどこに落ちるかを当てるゲームなのだが、この店クラスのディーラーともなれば、狙った場所に落とせるため、客が狙ってなかったり、狙ってて少額にしかならないところを上手く狙って投げていた。勿論こんなヤケクソに全額を賭けたところには落とさないように投げている。だが折角だし夢は見させてやろうと、賭けられている所の隣に球を落としてたろうと投げたその時、上から龍が降ってテーブルの上に落下。
テーブルを破壊しながらも、龍は何事もなく立ち上がり、
「悪い邪魔した」
と言って何事もなかったかのように首を回すと、上から雲勇山が飛び降りてきたため、後ろに飛んで避けると、龍は拳を握る。それに合わせ、飛び降りた体勢から相撲の構えに移行し、ぶちかましを放つ。
現役時代のような体格ではないが、その分筋肉を増やしている。
体重は現役時代ほどじゃないが、その分速い。体重が落ちた分速さでぶちかましの威力を補うようだ。
「くぅ!」
そして龍はそれを正面から受け止める。少し後ろに押されるものの、しっかり受け止めるとそのまま肘を脳天に落とした。
「がっ!」
脳天に龍の肘を喰らい、膝を折って手を離した雲勇山だが、そのまま飛び上がるように張り手を龍の顎にアッパーの要領で放つ。
「っ!」
ガッ!と派手な音を立てながら、龍は後ろに倒れそうになるが、踏ん張って耐えると、拳を握って雲勇山の顔面に叩き込む。
「あぐっ!」
だが雲勇山もそれ踏ん張って耐えると、逆に張り手を打ってくる。
「だらぁ!」
しかし龍も張り手に耐え、拳を叩き込む。
『オォオオオオオオオオオ!』
互いに攻撃を叩き込み合い、周りに凄まじい音を巻き取らすが、気にせず殴り合い続けた。
龍にとって久し振りだ。殆どの相手は拳一発で沈められる。だが雲勇山は何発入れても倒れない。
それは雲勇山も同じで、張り手は彼にとって自慢の武器だった。打たれ強い力士達も雲勇山の張り手は驚異で、この張り手でどんな相手でも潰してきた。
どちらも似たようなタイプの戦い方だ。打たれ強さに任せて渾身の一撃を叩き込む。だがそれをお互いがやるため、泥仕合様相を呈してきた。
しかしそれが受けたのか、周りから何かのイベントか何かかと勘違いされて、歓声が上がる。
そこに、
「ハァアアアア!」
『っ!』
横から黒服がナイフを手に突っ込んでくるが、
「ラァ!」
「水祈!?」
その黒服を上の階から飛び降りて来た水祈が、飛び蹴りを放って倒す。
「ちっ……」
すると雲勇山は張り手をやめ、龍に背を向けた。
「おイ!何をしていル!」
「これ以上は邪魔が入る」
雲勇山が上にいる陳に答えると同時に、店のあちこちから黒服達が乱入してきた。
「店で暴れたからか……?」
「違う。今回はアンタを狙ってたみたいよ」
俺をじゃなくて、虎白っぽいけどな。と喉元まで出かかったが、今はそんな場合じゃない。
「とにかく脱出だな」
「みたいね」
一応チラリと雲勇山を見るが、雲勇山は折角盛り上がってたのによ、と呟いて上に上がっていってしまった。
「でも大丈夫?随分派手に殴りあってたけど」
「ちょっと口の中血の味がするけど、まぁ元気一杯だ」
首をコキリと鳴らしつつ、龍がペッと血の塊を吐いて捨てると、
「死ねや九十九 龍ぅううううう!」
『っ!』
一人がナイフを振り上げて襲い掛かってくる黒服に、水祈がまず回し蹴りでナイフを蹴り落とし、
「邪魔だぁ!」
スレ違い様に龍のラリアットで沈める。そしてその勢いのまま二人は走りだして飛び出して走ると廊下に出て、そのまま走ると、先には廊下には銃を構えた黒服達が待機していた。
「九十九 龍だけを狙え!」
「嘘だろおい!」
「こっちよ!」
サブマシンガンを構えていた黒服達が引き金を引くと、ババババと銃弾が連続発射。凄まじい量の弾薬による弾幕が張られるが、二人は咄嗟に近くの窓を突き破って飛び出す。
外から見ると三階の高さで、普通であれば怪我をするのだが、
「ふん!」
「ヨッと」
ドン!と普通に着地したが平気な龍と、ちゃんと5点着地で無傷で脱出。大通りだったので、周りに見られるが今は仕方ない。
そして流石に外に向けて発砲すると、言い訳が出来なくなるのか外には撃ってこないらしい。
「まさかマシンガンまで用意してるとはな。梶原の奴余計なことしやがって」
「全くね……ん?」
水祈が龍に同意していると、車が此方にやって来た。だが、
「やっぱりここに出てくるよなぁ!」
『梶原!?』
龍と水祈が驚く中、梶原は高そうな外車のエンジンを吹かし、此方に突っ込んで来る。
「死ね!九十九 龍!」
「正気かよ!」
水祈の方ではなく、明らかに龍を狙ってくる梶原に、龍は横に転がって避ける。周りにいた人達は、慌てて逃げ出していた。
「ちょこまかすんじゃねぇええええ!」
ドリフトしながら方向を転換した梶原は、再度龍に突っ込む。すると龍は既に腰を落としており、
「はっけよい残ったぁ!」
ドン!と車を正面から受け止め、ガリガリと後ろに押されていくが、10m程押されたところで止まる。
「はぁ!?」
梶原はアクセルを全開にするが、龍は腕の筋肉を隆起させ、
「ドオオオオオリャアアアアアアアアア!」
そのままちゃぶ台返しの要領で車をひっくり返した。
「なんかこういう相撲の技なかったっけ?」
「あったかもしれないけど車にやるものじゃないわよ」
と水祈は車の中で目を回している梶原を見てから、
「とにかくほら、さっさと逃げるわよ」
「あいあいさ」
そう言って龍の背中を軽く叩きつつ水祈が走り出すと、龍もそれに続いて走り出した。
◆
「ここまで来れば良いか?」
「そうね」
カジノ・ユートピアを脱出した龍と水祈は、しばらく走っていたものの、裏路地に飛び込んで息を整える。
「全く。毎度の事ながらしんどいわね」
「だなぁ」
どうも依頼を受けたり成功させるものの、その道中や後に何かしらでひどい目に遭うのは、今回が初めてではない。
「最悪よ。金塊の回収は大変だったし報酬は受け取り損ねるし、挙げ句の果てに大乱闘。なにより梶原に体ベタベタ触られるし、ホント最悪!」
「そりゃご苦労さん」
龍は苦笑いを浮かべて、タバコを取り出すと火を着ける。水祈も同様にタバコを出して火を着け、
「龍もさ、いっそどっかでかい店のバウンサーやってみない?」
「ん~?」
突然の話題だったが、龍は特に気にせずいると、
「あんたくらいの腕なら一晩で100万は稼げる店が幾らでもある。それにそのくらいの店なら面倒ごとなんて殆ど起きないわ。来る客もランクが高いかね。そうなれば黙ってても100万稼げる仕事よ?火月さんの事は私だって好きだし、別に毎晩じゃなくても良い。でも週に一回でもやれば少なくともこんな毎度毎度危険な目に逢わずとも済むわ」
「んで、お前は仲介手数料を受けとると」
「半々だから良心的でしょ?」
半々は大きくねぇか?と龍は問うものの、水祈は肩を竦めて、
「私の人脈で成り立たせるんだからね。その人脈を作るまでの手数料も込みだから」
「あこぎなやつ」
と言い合って二人で笑う。
「でも真面目な話、少し考えて欲しいの。配達屋も何時までできるか分からないしね」
「そうなのか?」
「えぇ、最近裏が騒がしいのよ。何か大きな事件の前触れみたくね。今のうちに路線を変更するのもありかなって思ってる」
でっかく稼いだら暫く二人でのんびりするのも良いしね。そう言われた龍は、確かにそうだなと同意した。しかし、
「まぁ虎白の件を片付けてから考えるよ」
「虎白の?」
あぁと龍は頷き、
「どうもさっき戦った雲勇山の雇い主がな、虎白を狙ってたっぽいんだ」
「ふぅん?成程」
水祈はタバコを口から外して紫煙を吐き出すと、
「陳って言うやつだったかな」
「陳か……」
知ってるのか?と龍が聞き、水祈は答えた。
「最近歌舞伎町で聞くようになった名前ね。まぁ珍しい名前じゃないから偶然同じって可能性もあるけど」
「まぁとにかくアイツらは虎白狙いらしい。しかも俺の事も調べてた」
「そうなると店に戻った方が良さそうね」
タバコを吸いながら水祈は軽く肩を回すと、店の方角を向くと、龍もタバコを吸いつつ、
「まぁ、多分大丈夫だと思うけどな」
「でしょうね」
と言いながら、二人は苦笑いを浮かべるのだった。
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デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
屋上でポテチ
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中学校の屋上で、カップル下校をカウントしている帰宅部の三人、誕生日に次々に告白されて疲れて果てたままバス停で雨宿りする野球部員、失恋するたびに家に帰るとトイレから出て来る父親にウンザリしている女子――
――中学生の何気ない日常を切り取った連作短編。
ひとつひとつは独立していて短いので読みやすいと思います。
順番に読むと、より面白いと思います。
よろしくお願いします。
ChatGPTに陰謀論を作ってもらうことにしました
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ChatGPTとコミュニケーションを取りながら、陰謀論を作ってもらいます。倫理観の高いChatGPTに陰謀論を語らせましょう。
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