歌舞伎町ドラゴン

ユウジン

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第一章 龍と虎

配達屋

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「あのね龍……」

カウンターに並んで座った龍と水祈だが、彼女は大きなため息を吐きながら、

「顔はない。何処に住んでたかも分からない。なんなら名前もわかってない女性の実家を探せってアンタねぇ。無茶が過ぎるんじゃない?」
「で、ですよね……」

水祈に冷たい目で見られ、龍は苦笑いを浮かべる。しかし、

「はぁ、まぁ名前と顔は今聞けばいいけど……」

と水祈は言いながら、龍の隣に座ってジュースを飲む虎白を見て、

「お母さんの名前は?」
「ミオ」
「ミオさんね。珍しくもないか……どんな顔?」
「美人」
「あぁ~。そうね。目はつり目?」
「うぅんとね」

水祈は仕事モードに入ると、虎白の母親らしいミオと言う女性について聞いていく。

「たれ目の40代の女性。身長160㎝前後」

と言いながら、軽く顔をスケッチする。

「こんな感じ?」
「うん!」

上手いもので、中々それっぽく見える。と思いつつ、龍も絵を確認。

「中々美人だな」
「そうね」

水祈は似顔絵師ではないが、そこそこ絵がうまい。

そんな彼女が描く絵は、かなり美人だ。確かにこれは虎白も美人だと自慢するだろう。

「ま、一応調べては見るけど、正直期待しないでよ?」
「分かってる」

ジュースに夢中になっている虎白に聞こえないように身を寄せて話す水祈に、龍は頷いて答える。

何せ、虎白の母親については顔は分かったものの、何処に住んでたかとかそういった情報は皆無だった。

「こんな依頼。アンタからの紹介じゃなかったら即効断ってるわよ……」
「すまん。今度なんか埋め合わせするからさ」

またひとつため息をつく水祈に、龍は頭を下げると、

「今度と言わず、明日頼むわ」
「明日?」

そうよ。と水祈は先程までの表情とは打って代わり、にっこりと笑みを浮かべて言った。

「明日の夜に、配達依頼が入ってるのよ」





















【配達屋の水祈】と言えば、配達屋の中でも、かなり有名だ。

そもそも配達屋と言うのは、一般的なものとは違い、裏社会ではその業務内容は多岐にわたる。簡単な買い出しから世間的には違法な物品の移送まで、金さえ払うなら何でもやる。世界に一個しかない、貴重な宝石が欲しい言う依頼があればそれを盗み、相手を殺してほしいと依頼されればその相手に死を配達する。それが配達屋と言われる奴等で、ようは何でも屋だ。水祈もその配達屋と言われる仕事をしていて、その実力の高さから高い信頼を置かれており、もうこの仕事を初めてから10年近く経つ、ベテラン配達屋だ。

更に彼女は、どんな依頼でも受ければ完璧にこなす、一流の配達屋である。しかし、二つだけ彼女のタブーがあった。

それは、薬と殺しの依頼である。この二つだけは、どんなに金を積まれても、受けることはない。

だが逆に言えば、それ以外であれば金さえ払えば受けるため、水祈は歌舞伎町を中心に常に引っ張りだこの配達屋だった。

そして今夜は、

「こちらが依頼の品です」

と言って、水祈はキャリーケースを開けると、そこには金塊がギッチリと詰められていた。

さて、現在水祈はある建物の一室に案内され、龍が荷物持ちをして持ってきた、キャリーケースに詰めた金塊を見せている。

「うむ。ご苦労。礼を言うよ。いい仕事だ」

水祈の目の前に座る男は、樫原かじわらと呼ばれる男で、この今いるカジノ・ユートピアのオーナーだ。

現在カジノは申請を出せば合法的に開くことができ、樫原もその中の一人だ。しかしカジノ自体は合法でも、その他も合法かと言えば微妙だ。

樫原もそうで、カジノ自体は合法だが、所謂カジノで巻き上げた膨大な利益を、きちんと申請していない。まぁようは脱税をしている。しかし彼は現金を殆ど持たず、その資産の殆どをこの金塊に変え、それを秘密の隠し部屋の金庫に隠していた。この量の金塊ともなれば、億単位は優に行くだろう。

しかしその金塊だが、普段はここから少し離れた所にある、梶原が所有する巨大ビルの一室の隠し部屋に隠しているものの、それが最近税務署に勘づかれ、先日査察が入ったらしい。

幸いまだ隠し部屋は見つかっておらず、何とか査察を乗り切ったものの、いずれまた来ると判断した梶原は、移動させるなら今のうちだと思ったたが、自分が最近見張られていることに気づいていた樫原は、自身が動けば直ぐにバレてしまうため下手に外に出ず、静かに回収する方法を選んだ結果、水祈が呼ばれた。

樫原からは何度か依頼を受けたことがあり、顔馴染みだったのもあったのかもしれない。とは言え、この量の金塊を一人で持ってくるのは無理があった。なにせこの量の金塊となれば、何十……いや、殆ど100㎏を越えるものになるだろう。その為、水祈は龍を呼び出し、二人でこっそり忍び込んだ龍と水祈は、予め聞いていた隠し扉から入った先に金庫を見つけ、そこからあるだけ金塊をキャリーケースに突っ込みここに来た。

忍び込むだけなら水祈だけの方がいいが、持ってくるなら龍がいた方がいい。そして堂々と見張られているカジノに入り、オーナールームに仕事の話もあるため、水祈だけが通された。

「うむ。確かに全部あるな」
「当然です」

と言ってうなずく梶原に、水祈はそれでは報酬の話をしましょうと持ちかけると、梶原は水祈の隣に来て、馴れ馴れしく肩を抱いてくる。

「相変わらず仕事が早くて助かる」
「今回は言われたところに行って、持って帰ってくるだけですから。ドンパチもないし簡単な仕事です」

そんな梶原に水祈は冷めた目を向けつつ、返答しながら腕を払うが、梶原は腕に力を込めて抵抗しつつ、

「水祈。うちの専属になってくれよ。お前ほどの腕を持つ配達屋が何時までも小金を稼ぐ事しかできないフリー何てもったいねぇ」
「私は満足してますよ?こうして自由に仕事できますしね」

顔を寄せて耳元で囁いてくる。

梶原は顔は悪くないし、金もある。だが水祈は梶原という男が苦手だった。と言うか、嫌いである。

顔は悪くないし金もあるが、趣味の悪い金色のスーツにじゃらじゃらと高そうな指輪をつけて、自分はできる男アピールがウザイ。金払いは良いので、仕事は受けるが、会う度にこうして口説いてくる。

実際高く買ってくれるのはありがたいものの、嫌いな相手にベタベタ触られるのは嫌悪感しかなかった。だが金払いは良いので、非常に扱いづらい。

「だが水祈。俺とお前なら最高のコンビになれるぜ?それにお前だってわかるだろ?この街はうまく立ち回れば巨額の金を手にいれることができる。俺みたいに一代で一生遊べる額を一晩で稼いだりな」
「弱いやつから吸い上げて、ですけどね」
「そんな皮肉言うなって。歌舞伎町じゃ当たり前だ。弱者を強者は吸い上げ、そして強者は更に強くなる。なぁ水祈。いい加減俺のものになれよ。俺の女になれ。お前は強者になれる女だ。俺に全部預けてみろ。お前が今のままでは見えない世界も見せてやる」

色々言うが結局のところ、梶原は水祈を自分の女にしたいだけだ。水祈がどれだけ嫌っていようと、梶原は水祈にぞっこんだった。だからこそ厄介でもあるのだが。

「なぁ水祈。俺は本気だぜ。お前を手にいれるためなら何だってする。金でも何でも使ってな」

梶原はそんなことを言いながら、水祈を押し倒そうと力を込めるが、

「申し訳ありませんが、体は商品にしてないので」
「……」

水祈はそれを断る。だが梶原は今夜こそ逃がさないとばかりに詰め寄ってきた。

「そう言うなって。一回くらいいくらいいじゃねぇか。俺は金だけじゃねぇ。セックスだって上手いんだぜ?お前も一回味わったら分かるからよ」
「結構。私はもう満足している相手がいるので」
「九十九 龍だろ……?」

えぇ、と水祈は頷くと、梶原の表情が憤怒に歪んだ。

(しまった。言葉を間違えた)
「俺がいくら積んでもお前は靡いてくれねぇってのに、アイツに俺の何が劣るってんだ?金も地位もあらゆる点で俺が勝ってる。何が不満だってんだ!」
(金と地位以外なにも勝ってないからかな。とは言えないしなぁ)

肩を掴んで揺さぶってくる梶原に、水祈は辟易しながら、さてどうやって逃げるか。と考えた瞬間。

「っ!」

バキィ!と何か重量のあるものが落ちて破壊した音が響き、何やら歓声が聞こえてきた。

「今のは……」
「遂に動き出したか」
「え?」

水祈は梶原の顔を見ると、梶原は笑みを浮かべた。

「今頃、九十九 龍が襲われてる頃さ」
「なっ!?」
「おっと、俺の指示じゃないぜ?ただあるお方からアイツを捕まえろって話がされたんでな。九十九 龍が俺の店にくるって伝えといただけさ。うぐっ!」

梶原の言葉を聞き、関与はしてるわけね!と水祈は相手を突き飛ばして立ち上がる。

「龍!」

と水祈は扉に駆け寄るが、扉がロックされており、ノブを捻っても開かない。

「そう逃げんなって水祈。もう九十九 龍なんて忘れちまえよ。あんな脳筋バカなんざより、俺の方か上だ」
「……」

水祈は少し歯を噛みしめつつも、冷静に梶原を見て、

「ったく。金払い良いから我慢してたけど、龍への悪意を隠さなくなったわね」 
「良いねぇ!他人行儀な敬語じゃないお前もさぁ!」

そう言いながら梶原は駆け出して水祈に掴み掛かろうとするが、水祈は咄嗟に壁を蹴って飛び上がると、梶原の頭上を越えて背後を取ると、そのまま背中に蹴りを入れ、

「ごべ!」

走る勢いと水祈の蹴りによって、勢いそのままに壁に激突した梶原は変な声を漏らし、

「はぁ!」
「ぷぎぃ!」

追い討ちとばかりに、そこに膝蹴りを頭の後ろから叩き込み、壁と水祈の膝で梶原の頭をサンドイッチにすると、鼻血出しながら梶原はズルズルと床に倒れた。

「序でに何もかも勝ってるって言う話だけど、この程度で倒れるようじゃまだまだね」

梶原に水祈は冷めた視線を向けつつ言い、梶原の服を漁ると案の定リモコンがあり、それを弄るとドアがカチャっと音がして、鍵が空いた音がする。

「それじゃ。またのご依頼お待ちしてますね。梶原さん」

水祈はそれだけを言い残し、廊下に出ると、

「まぁ、楽には行かせて貰えないか」

と言うように、黒服の男たちが道を塞いでいた。服装で分かるが、全員ここの従業員だ。

「取り敢えず、こっちは急いでるの。邪魔するって言うなら、全員蹴り倒して行くわよ!」

水祈は素早く構え、叫びながら黒服達に飛びかかる。

「だぁ!」

まず一人の顔面に蹴りを叩き込み、怯ませた所にその相手を台にして駆け上がり、後ろにいた黒服にも蹴りを入れ、後ろから来た黒服を、後ろ蹴りで腹を蹴ると苦しみで頭を下げたため、そのまま踵を振り上げて落とす踵落としで沈め、後ろから羽交い締めにしてきた黒服の股間を思いっきり鷲掴み、

「うぎっ!」
「ごめんなさいね」

悲鳴をあげて腕の力を弱めたところに、水祈はコートから腕を引き抜き、そのままコートを脱ぐようにして脱出。そのまま相手の足を払い、転ばせたところに、全体重を乗せて顔面を踏みつけ、そこに捕まえに掛かってきた相手の腕を屈んで避けながら横を駆け抜け、壁を蹴って反転すると、振り替えってきた相手の顔面に膝蹴りを叩き込んだ。

「ふぅ……」

ひっくり返った相手を見下ろしながら、水祈は更に歓声が大きくなった方向をみる。

「龍の事だし大丈夫だとは思うけど、急いだ方が良さそうね」

と呟き、走り出すのだった。
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