歌舞伎町ドラゴン

ユウジン

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第一章 龍と虎

接客の才能

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「んで、買い物はそれでも済ませてきたと」
「おー」

会合から帰って来た火月が最初に目にしたのは、新しい服を着て店内に飾りでおいてあるでかい鏡の前でクルクル回る虎白と、血が滲んできたため絆創膏から店においてあるガーゼをテープで止めながら、穴だらけになった挙げ句に、血までついた服を着直していた龍の姿だった。

「その格好じゃ目立つでしょう?」
「歌舞伎町じゃもっと変な格好に奴があちこちにいるからこれくらいじゃ目立たないよ」

それもそうか……と火月はうなずく。そもそも店の中に入ったのは虎白だけで、龍は店の外でボーッと待っていた。この格好じゃ流石に店内に入るのは不味すぎる。特に下着屋なんてもっての他だ。何ともなくたって入りたくない。すると、

「それにしても、虎白ちゃん思った以上に危険な状況なのかもね」
「あぁ、正直銃までだしてくるのは珍しいしな」

組織間での争いならいざ知らず、流石にこの規模で銃を抜いてくるのには少々驚いた。しかしそんな二人の心境はさておき、

「ねぇねぇカヅキ。何か出来ることない?」
「え?」

突然の虎白の申し出に、火月が困惑すると、

「お金なら少しあるけど、お金だとカヅキが困ってた。だから何か別のことで服に使ったお金を返すよ」
「……」

一応困惑してたのは気づいてたようだ。そんな虎白に火月は、

「良いのよ虎白ちゃん。これくらい対したことじゃないわ」

と断るが、虎白は首を横に降り、

「ダメ。恩には恩で返すんだよ」

意外と義理堅いのか、それを拒否した。そんな虎白に火月は少し困った顔をし、

「うーん。それじゃあ……お願いしようかしら」
「なにさせる気だ?」
「変なことはさせないわよ」





















というやり取りがあった日の夜。

「いらっしゃいませ~!」
「え?」

今日は懐が寂しい日なのか、常連客が集まってきた。そしてその客たちは皆一様にポカンとしている。

それはそうだろう。虎白は今体のラインが出る、少しエグめのスリットが入ったチャイナを身に纏い、薄く化粧までしている。

こうしてみると、年不相応なほど実った胸や、化粧していると顔立ちも幼いというよりは、ロリ顔の女の子という風情だ。年も12才だが2・3才上に見える。それでも夜の店で働くには若すぎるが……

「おいおい火月ちゃん!なんだいあのかわいい子は!」
「ちょっと臨時で雇ったのよ~。かわいいでしょ~。やっぱりチャイナ服そそるわよね~」

何やら火月は常連の一人である佐藤に、おじさん臭いことをいっている。

先程虎白からの申し出に、火月はいそいそと買い物に行き、何やら服を買ってきた。服というかコスプレ衣装で、この手の服はこの辺りで幾らでも販売されている。

因みに他にも色々あるが、虎白が選んだのはチャイナ服。この店はスナックであってコスプレBarではないはずなのだか、火月の趣味である。

火月は基本的に穏やかで、この辺りでは常識的な人間ではあるのだが、実は重度のコスプレ好き。自分が着るのではなく、誰かが着ている姿を見るのが好きと言うタイプで本人曰く、

「いつか可愛い女の子に日替わりで色んな服を着てもらいながら働いてもらいたいわぁ」

が口癖である。そして虎白が何かしたいと言ってきたことで、色々我慢していたことが解放されたらしい。因みに龍もコスプレさせられそうになったことがあったが、それを断固拒否。

しかし所詮は従業員と雇用主という関係上、雇用主である火月の言葉は絶対で、龍は仕事をするときはスーツを着せられる。これが普通につけるのではなく、敢えて少し着崩して髪も無造作ヘアにする。要はホストスタイルである。

まぁこのスタイルは、客が来る日じゃないとしなくても良く(と言うか、それがせめてもの抵抗だった)、来る日も大体決まってるので、月に5回もするかどうかの格好だ。

だが龍はこのスーツと言うのが嫌いだった。ネクタイも首に巻くのがどうも気に入らない。だがそれに反して虎白は案外ノリノリで、お客の要望に答えてその場でクルリと回って見せたり、裾を少しつまんでにっこり笑顔を見せて……

「ってなにやらせてんだ」

お前も乗るんじゃないと虎白を小突きつつ、

「山田さんも佐々木さんもやめてくださいね」

と龍が忠告すると、

「龍君がちゃんとバウンサーしてるのを見るの初めてだな」
「確かに」

そんな二人の言葉に、龍まで思わず確かに、と思ってしまったのは、まぁ余談だろう。





















「ふぅ」
「お疲れ様」

閉店時間になり、片付けを終えた龍がカウンターに座りながらネクタイを外すと、火月がグラスにウィスキーを注いで渡してくれたので、それを受けとって口を着ける。

「それにしても凄かったわねぇ。虎白ちゃん」
「だなぁ」

今日の虎白の接客は、本人曰く初めてらしいが、とてもそうには思えなかった。

何というか、人の懐に入り込むのがうまいのだ。お陰で今日来た常連客連中メロメロにし、何時もより楽しそうに帰っていった。

「自信なくしちゃうなぁ~」
「あれは天性のものだよ。気にしてもしょうがないって」

そう言って落ち込む振りをしてふざける火月に、適当に励ましの言葉を龍は送っていると、

「ねぇリュー!似合ってる?」
「あん?」

声をかけられ、振り返りながら虎白を見ると、虎白はセーラー服を着ていて、短めのスカートを履いたまま、クルリと回って来る。

これはさっきから火月が買ってきた色んな衣装を、着てきては龍に見せに来るのだ。

「あぁ。よく似合ってるよ」
「そそる?」
「どこでその言葉覚えたんだよ……せめて5・6年後に言え」

12歳のセーラー服姿に興奮するとか、ただのヤバイやつである。

「ちぇー」

と虎白はぼやきつつ、また裏に戻っていく。

「なつかれちゃったわね」
「何かしたかなぁ」
「あら、自分を守ってくれる王子様なんて素敵な存在じゃない」

王子様なんて柄じゃない。そう火月に龍が返したとき、店の扉が開かれた。

「あ、ご免なさいもう閉店……ってあら、いらっしゃい」
「こんばんわ。火月さん。閉店後にごめんなさい」

扉の向こうから入ってきたのは女性だ。龍と比べれば小柄に見えるが、女性としては背が高い。170半ば位だろう。

キリッとした目付きに低めの声。そしてロングコートを羽織った、どこか中性的な印象を受ける女性だ。

「よう水祈みき。連絡ついてよかった」

彼女は和泉いずみ 水祈みき。もう10年以上つるんでいる龍と同じ27歳で、龍がこの世で最も信頼する人間といっても過言ではない。

「別に。依頼も片付けてきたし、なにか頼みごとでもあったんでしょ?」
「あぁそれなんだが……」

と龍が説明しようとした時、

「リュー!みてみて~」

裏から虎白が現れた。今度はメイド服姿である。その光景を見た水祈は目を細め、

「龍。こんな子供にミニスカメイドをさせるのはどうかと思うわよ?」
「ち、ちがわい!これは香月さんの趣味だ!」

若干ドン引きした目をして、水祈は見てきたため、龍は首を横にブンブン振って否定していると、

「ねぇねぇ。リューってこう言うの好きかなって思って着てみたんだけど、似合う?そそる?」
「龍……あんたロリコンに目覚めたわけ?」
「ちっがぁあああああああああう!」

龍の背中に抱きつきながら、耳元で囁いてくる虎白に、そんな光景を見て更にドン引きする水祈。そして謂れのない誹謗中傷に、思わず叫び声を上げる龍。そんな光景を見た火月は笑みを浮かべ、

「いやぁ、賑やかなのって良いわねぇ」

何て事を言いながら、火月は水祈に出すお酒を準備し始めるのだった。
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