テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第四章

4-8 コネクター

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「殺して……治す……ですか?」
 リーダーが語る方法は、直感的にはひどく理解しがたいものだった。
「その通り。私達が再び全員そろって絶対者に対抗するにはそれしかない」
「しかしそれじゃまたそのウサギの人形が現れて新しい神を選ばされるだけでは?」
 アンダースタンダーさんを助けたとしても、彼女の中を神を殺すのだ。結果的にはまた同じことになるのではないだろうか。
「それについては考えがある。君にはまずコネクターとルイナーの願いを聞いてやって欲しい。彼女たちの力はアンダースタンダーの救出に絶対不可欠のものだ」
 その言葉を聞いて二人の方を横目で見る。ルイナーは相変わらずこういった長い話は苦手なようで、どうやらまた寝ているらしい。しかしその肩に乗るコネクターは静かに僕たちの方を見つめていた。
(相変わらず感情が読めない子だな)
 彼女は明らかに外見に不相応な精神年齢をしている。さっきリーダーから『コネクターが将来敵に回る』と言われたときも、驚いたり弁解することもなくただ静かにこちらを見ていただけだった。
「オールと出会ってから随分経ったが彼女達と深くかかわることは今までなかっただろう? この機会に色々聞いてみるといい。ルイナーもコネクターも隠し事をしたりする性格じゃないからね。きっと君の疑問に答えてくれることだろう」
 今度は視線だけではなくちゃんと身体を彼女たちの方に向ける。
「よろしくお願いします」
 そういって一礼した。相変わらずルイナーは居眠りをしたままだったが、コネクターは首だけを軽く動かし礼を返してくれた。
「よろしく、オール」



 僕とコネクター、ルイナーの三人は場所をコネクターの家に変えて改めて話をすることになった。
(相変わらずすごい家だな)
 家の中はカラフルなおもちゃやぬいぐるみで溢れている。まともな家具や設備といったものもほとんどなく、おもちゃ箱をそのままひっくり返したかのような有様だった。
 ルイナーは家に帰るなりおもちゃの山に飛び込んで寝てしまった。今コネクターはかわいらしい小さな椅子に座っており、僕はバランスボールのような大きいボールに座って彼女と相対している。
「それじゃ早速だけど私の望みを教えるわ。私を助けるためのたった一つの願い。これをあなたに叶えて欲しいの」
「は……はい。お伺いします」
 彼女の落ち着いていて大人びた口調に、見た目は僕よりはるかに若い小さな西洋人形のような子供相手に自然と敬語が出てしまう。
「とても簡単な事よ。私の願いは転生をこのままにしておくこと。未来永劫この世界から転生をなくさないでほしいの」
「……………ええええええ!?」
 彼女の突拍子もないお願いに頭が追い付かなかった。今までリーダー達がやってきたことを完全に否定する言葉だ。
「簡単なお願いでしょう? あなたは努力を続ける、でも失敗し続ければいいの。リーダーが諦めてもよし、諦めなくても失敗してくれればよし。それで私達は救われる」
「私達……?」
「そう。私とルイナーの二人。私達は家族なの。でも転生がなくなってしまうと出会うこともなくなるから」
(家族か……)
 正直血のつながりがあるとは思えない。ルイナーは明らかに人間の見た目をしていないからだ。額に生えた角と言い、地獄の炎を思わせる赤い髪と気性といい。さらにルイナーの戦闘力は正直言って規格外だ。彼女の戦いをこの目で見る機会はほとんどなかったが、彼女にはこの世界の法則や能力がまるで通用していないようだった。コネクターがどれほどの強さを隠し持っているのかは知らないが、彼女を肩に乗せたまま戦場を神出鬼没のスピードで駆け回り、傷一つなく戻ってくるルイナーの強さには薄ら寒ささえ覚える。
「ルイナーさんがコネクターさんをママと呼んでいるのもそれが……?」
「呼び捨てでいいわ。この世界に名前なんて価値のないものだもの。必要なのは能力だけ。そうでしょ?」
「ええ……まあ……」
 『聖名』持ちは個人名を失い、以後は与えられた聖名に相応しい働きをするだけの存在になる。
「でもコネクターは第一世代じゃないんですよね? どうして聖名を?」
 コネクター、『繋ぐ者』は間違いなく聖名だろう。そして他のアンタッチャブルのメンバーのように『罪名』をつけられているわけでもなさそうだ。彼女は一体どういった理由でアンタッチャブルと行動を共にし、そしてリーダーたちの目的に反する願いを僕に伝えたのだろうか。
「私はね、リーダー達に全てを奪われたの」
「え?」
 彼女が発する言葉は何もかもが予想とかけ離れていた。
(奪われた? リーダーたちに?)
「あなたもやったでしょう? 金福満、覚えてない?」
「う…………」
 あまり思い出したくない記憶だ。僕が天聖軍の時の記憶をもったまま、初めてアンタッチャブル達と行動を共にしたときの事。あの時は僕が何も考えずに力を使ったせいで、幼い兄弟をひどい死に目に合わせてしまった。
「そう暗い顔をする必要はないわ。確かにあの時の世界では彼らはひどい死に方をしてしまったけれど、彼らもまたこの宇宙全てのリセットとやり直しの度に新しい人生を過ごしているの。もちろん浮浪児だったあの兄弟が浮浪児になる運命は変わらないけれど、今は彼らは殺されずにきちんと自分たちの人生を歩んでいる」
 世界は繰り返す。リセットされているのは僕ではなくこの宇宙全てだったと語ったリーダーの言葉を思い出す。
「そう考えると何もかもが虚しいと思わない? たとえ今この場で何をしようとしたって、絶対者の気まぐれでまた全部リセットされて、同じ道を歩かされる。本当に馬鹿馬鹿しいわよね。何度生まれ変わっても自分になって、どの人生でも同じミスを犯す。憧れのあの子には何度やっても振り向いてもらえず、落伍者はなんどやっても落伍者のまま」
「だから、だから抗うんでしょう? 絶対者に、この転生に。人が自分の意志で人らしく生きられるよう、チートなんて不条理な力によって未来を破壊されたりしないように、そのために皆でずっとここまでやってきたんでしょう?」
「そうよ。その通り。でもね、それって『可哀そうな』人たちの話でしょう? 失敗して、貧しくて、落ちぶれた人たちの話。それなら逆はどうかしら? 成功して、大金持ちになって、何不自由なく暮らしている人たちはどうかしら? 彼らは未来永劫幸せな人生を送るのだとは思わない? 転生者に人生を破壊される人たちなんて、人類全体に比べてどれくらいの割合かしら? もし100人が不幸になったとしても、100万人が幸せならそれでいいんじゃない?」
「そんな……」
 すぐに言い返すことはできなかった。彼女の言っている事が屁理屈ではないと感じてしまったからだ。
「転生者が導きの扉を開く。導きの扉は転生者の為に都合のいい世界を作るわ。そこには転生者が褒め称えられるためだけに作られた『可哀そうな人たち』が生み出される。でもそれってごく少数よ。そのほんのわずかな必要経費を払うだけで、転生世界はハッピーエンドを迎えらえるじゃない。転生者が自由気ままに力を奮って、魔族と呼ばれる何者かが死んで、それで皆幸せになれるならそれでいいでしょう?」
「………っ!!」
 僕たちが使うこの『チート能力』、そして魔族の正体が何であったのかが思い出される。僕たちは……生きた人間を力として使っているのだ。死を恐れず立ち向かってくる魔族たちはその親であったり大切な間柄の、こちらも人間
だったのだ。
「それも気にする必要はないわ」
 僕の考えを呼んだようにコネクターが言葉を続ける。
「この能力の発生源がなんであれ、魔族の正体がなんであれ、それが一体どうしたというのかしら? 所詮は全て他人の物語でしょう? 私達が気に病む必要がどこにあるの?」
「馬鹿な!」
 リーダーも、ダウターもブレイカーも、自分たちを赦される事のない罪人だと常日頃から繰り返していた。今ならその意味が痛いほどわかる。全能なんて能力を持った僕もその罪人に最も足るところだから。それでも僕達はその罪を背負いながら抗うことを決めたのだ。転生という狂った世界を破壊するためにそれが必要なら、どのような裁きを受ける事になろうとも。
「そう。それがよくわからないの」
 『繋ぐ者』はもう既に僕と繋がっているようだった。彼女は僕の苦悩や葛藤を全て理解している。その上でどうしてそんな言葉が吐けるのだろうか?
「自分の人生の為に下等生物が犠牲になるのは当然でしょう?」
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