テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第四章

4-7 過去③

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「さあさあそれじゃ相談の時間だ! 誰が次の神になる!? 人を裏切り、人を痛めつける天聖軍の大総督! 悪の親玉として生きていくかわいそうな人身御供を誰にする!?」
 ウサギの人形が囃し立てる。挑発なのか素なのかはわからないが、この程度で精神を揺さぶられる私達ではない。文字道理くぐってきた修羅場が違うのだ。そしてその相談もすでに済んでいる。
「私が神になります」
 アンダースタンダーが一歩進み出て答えた。相談も、覚悟も、そして別れさえもさきほどの刹那で全て済ませた。全員が同じ気持ちで、同じ考えだ。
「おいおいおいおい! つまらねえな! そんなすぐに決めるもんじゃねえよ! もっと信頼できる仲間と話し合ってよお! それで罵り合ってなすりつけあえよ! これから先、永遠の時間を神になって過ごすんだぜえ!? なーんにも知らない無垢で純真で正義感溢れる転生者を騙してよお! 天聖軍なんて人殺し集団を引き連れてこの世を地獄に変えていくんだ! そんなに簡単に決めていいのかよ!?」
 ピョンピョンと飛び回りながら言葉を続ける人形を見る事もなくもう一度答える。
「私が神になります」
 その覚悟を感じ取ったのだろうか、人形はお喋りをやめてじっとアンダースタンダーの方を見た。
「つまらねえなあ……。つまらねえ! どうせ自分が神になったら全てを変えて見せる! なんて思ってんだろ!? 無理だぜえ! 無理無理! 絶対者様の作った役職は絶対だ! ひとたびその立場に立ったが最後、どれだけ精神力が強い奴でもいつかは必ず絶対者様に都合のいい操り人形さ! 抵抗すればするだけ自分の変化と世界の凋落に絶望するだけ! 全部無駄なんだよ!」
 なんとか私達の精神を揺さぶろうとしてくる人形に侮蔑の一瞥を投げかける。
「そうか。それを聞いて安心したよ。私がさっき殺した神も、最初はきっと人の為に尽くしていたんだろうなと思うことができる。邪悪な意志によって堕とされたこの転生者という身分にあっても、可能な限り人は抵抗できるのだと実感できる」
「一瞬で洗脳ビリビリーなんてもんやったらどうしょうもないもんなあ。どうせ高次元の絶対者様におかれましては抵抗する転生者の無力さに絶望がどうのこうのとかおっしゃるんでしょうけど、まあ抵抗できるんやったらさしてもらおか」
 私達の返事が随分と気に障ったのだろう、人形はそれ以上挑発することはやめ、ただただよくわからない紋様を床に書いて呪文を唱えだした。
 私達は再度彼になんらかのダメージを与えられはしないかとありとあらゆる手段をもって抵抗したが、やはり本当に一切の攻撃が通用しないらしい。人形は必死に無駄な抵抗をする私達を笑うこともせず、ただ淡々と紋様を完成させて何か呪文を唱えた。
 すると空から不思議な光がアンダースタンダーをめがけて降りてきた。それはまるで天使が降臨する宗教画のような、温かく慈愛に満ちた光だった。人間が見れば全員が全員これを聖なる祝福の光と崇めひれ伏すような光だった。しかし私達はこの光がどれだけ悪意に満ちたものであるかを理解している。
 光が降りてくるまでの間に、これからの事を考えた。それだけで『理解者』であるアンダースタンダーには全て伝わる。
 彼女は一瞬ひどく驚き、続いて悲しい顔をしたが、その名に恥じぬ力を持って私の覚悟と考えを受け入れてくれた。私はこれから長く孤独な旅を一人続ける事になる。それでも人を、そして仲間たちを救うためならばきっと耐えられるだろう。この役目は私で鳴らなくてはならない。『先導者』である私こそがこの罪を背負わなくてはならないのだ。
 ついに光がアンダースタンダーを包むように地上にまで降り立った。彼女の身体はゆっくりと宙に浮かび、この神の間唯一の装飾である神の座に移動していく。
 彼女はとても自然にその神の座に座り、彼女の背後からは『先代』と同じような光のオーラが現れた。それでも彼女の目は私達の知っているソレのままだ。どれほどの時間が残されているのかはわからないが、まだ彼女はアンダースタナーとしてここにいる。
「リーダーよ、初代の神を殺した罪により、『ホールダー』の罪名を与える。罪を抱えたまま永遠を超える時間を一人で生きるのだ」
 彼女が私を指差すと、私の身体のあちこちが萎み朽ちていった。握っていた剣は重みをまし、身体は速さを失った。
(これでいい)
「信望の光であるビリーバーには猜疑の『ダウター』、全治の力を持つヒーラーには人を腐敗させる『ブレイカー』の罪名を与える」
 アンダースタンダーから放たれる無情な呪いの理由を理解しているのは私とアンダースタンダーのみだ。しかしそれでもビリーバーとヒーラーの目は真っすぐにアンダースタンダーを見据えてる。私達を繋いでいるのは能力や名前ではないのだ。
「はいはい! 俺の仕事はこれで終わりだ! これからこいつがどんどん変わって行っちまっても、せいぜいさっきの強がり続くといいな!」
 そういって人形は何の前触れもなく目の前から完全に消滅した。後に残されたのは女神の役割を背負わされたアンダースタンダーと私達だけだった。




「これが神殺しの真実。そして私達が転生のミナゴロシを熱望している理由だ。君からすれば仮定に仮定を重ねたような私達の主張も、こういった事実に基づいての事なのだ」
 壮絶な過去を語り終えたリーダーはふうっと一息つくと言葉を切った。
「もちろん今私が話したことが事実であるかどうかを確かめる術は君にはない。信じる信じないは君に委ねるとしよう」
 確かに今の話が都合のいい作り話である可能性がないわけじゃない。しかし僕にはこれが単なるでっち上げの嘘なのだとはどうしても思えなかった。
「いくつか聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「どうしてアンダースタンダーさんだったんですか? あんなにあっさりと決まったのには理由があるんですか?」
 アンダースタンダーさんの自己犠牲だとも思えなかった。あの時のリーダー達には間違いなく理由があったのだと思う。
「私達は誰が神に変えられようとも、必ず元に戻してやろうと考えていた。しかし万が一それが不可能だった場合。つまりもう一度『神』を殺さねばならなくなった場合、アンダースタンダーが適任だったのだ」
「え……」
「私の能力は『相手を上回る』、ブレイカーは『全治』、ダウターは『信じたことを実現する』、そしてアンダースタンダーは『理解する』ことだ。この中で一番誰が殺しやすいかを考えた場合、明らかにアンダースタンダーが適任だった」
「…………」
「もちろんリーダーが勝手に一人で決めたわけやないで。あんときは全員でそういう結論に達したんや。言葉を一切話さなくても、ずっと一緒に戦ってきた俺らにはそれができたんや。気まぐれでも自己犠牲でも押し付けでもない。絶対者をシバイて転生なんてもんをなくすには、それが一番やって全員で納得して決めたんや」
「そして彼女が選ばれたのには、もう一つ理由がある」
「もう一つですか?」
「そう。それがオール、君だよ。私達の悲願、全能を持ち、ありとあらゆる能力を合成することができるようになった君がいれば、彼女を助けることができる」
「どういうことですか?」
「私が証明したことだが、神を殺す事は容易い。しかしただ単に神を殺しただけでは、また同じことが起きるだけだろう。あの人形が現れ、私達の中から新しい神を選ばせる。それでは意味がない」
 その通りだ。この転生世界で神を殺せたということは、僕も同じことができるはず。しかしそれではただの過去の際現にになってしまう。
「君は『女神様』を殺すのと同時に、『アンダースタンダー』を治すんだ」
 

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