テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第四章

4-5 世界の仕組み⑤

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「オールに出会えるまで、本当に長かった。君が私たちの裁判所に現れる前の世界でも、私たちはずっと挑戦していた。アンダースタンダーを女神の役目から解き放ち、絶対者を倒してこの転生を終わらせようと。しかしそのどれもは失敗し、そのたびに仲間たちは皆死んでいった」

「宇宙が終わるその日までを一人で待ち続けるのにも慣れ、宇宙の始まりから自分の誕生までを神の視点で眺め、自分の誕生から神を殺すまでは何一つ変わらぬ同じ人生を過ごし、ただただこの裁判所で君のような人間に出会える事をずっと祈っていた。長かった……何もかもを投げ捨てたいと思った事は一度や二度ではない。しかしそれでも、ようやく君に出会えた」

「君には随分と辛い役目を負わせているのは理解している。私達の悲願の為に、君に望みもしなかった大きな呪われた力を与え、何も知らぬ君に数え切れぬほどの罪を負わせた。身勝手なことだということも分かっている。しかしそれでも私たちはやらねばならないのだ」

「オール。君の力の源と、この世界の真実を理解した上でもう一度頼みたい」

「私たちと一緒に転生者をみんなみんな殺してくれないかい?」


 彼の懇願に僕は少し口をつぐみ、彼の言葉を今一度自分の中で反芻した。この宇宙は絶対者により何度も何度も繰り返されていて、その中で人類は毎回同じ人生を歩んでいる。その中でリーダーは宇宙の始まりからその終わりまでの気の遠くなるような年月を、死ぬことも忘れる事も出来ずに生きているのだ。
 それは僕がリーダーと出会ったその後も変わらないのだろう。僕が失敗して立ち止まるたびに、仲間の誰かが壊れてしまうたびに、彼らアンタッチャブルは次の宇宙に生まれる次の自分たちが少しでも前に進むことを信じて、自分の一生を捧げ続けてきたのだ。
 わざわざ僕を殺し続けてきたのは何のためだったのだろうか。たとえ可能性は低くとも、僕もその繰り返しの中に組み込んでくれればよかったのに。叶わぬことを知りながら絶対者に立ち向かい、散っていく仲間達のその一人に、僕を入れてくれてもよかったのに。
 でもきっとそれも僕の為だったのかもしれない。何度も何度も絶対者に立ち向かい抗いながら、それでも敵わず死んでいく結果に僕は耐えられなかったかもしれない。
 僕を殺して『やり直し』をするとき、ダウターがとても真剣な目をしていた理由もようやくわかった。次の宇宙に次の自分が再び生まれ、今までの記憶をコネクターの力でリーダーから共有されるとしても、次のダウターと今のダウターは完全に別人なのだ。思考も行動も過去も完全に同じだったとしても、やはりその二人は別人なのだ。今のダウターは次のダウターに全てを託して僕を見送っていたのだ。
 言葉や文章にしようとするととてもややこしいが、とにかく僕はずっと受け取っていたのだ。僕の『やり直し』と同じ数だけの、彼らの命や覚悟や期待を、ずっとずっと受け取っていたのだ。
 ……このチート能力や魔法の力については未だに全てを受け入れる事はできない。他のアンタッチャブルと同じように、表情すら変えずにこの力を使い続けるには、僕の想像もできない程の長く深い葛藤と苦しみが必要なのだろう。リーダーと記憶を共有することによって、過去の何人もの自分を受け継いできた彼らだからこそできる芸当なのかもしれない。
 彼らがリーダーを敬う理由もよくわかった。宇宙の始まりから終わり、創世記とでも表現するしかないような長い時間を繰り返し生き続けている彼が、今ここで正気を保てていることそのものが奇跡だ。そして彼はその中で、血の涙を流しながら仲間の不遇を見過ごし、呪われた力で世界を破壊し、たくさんの命を奪ってきたのだ。自分が何をやっているかを理解しながら、おびただしい罪を犯しては背負い続けてきた。そんなことが一体他の誰に可能だというのだろう。
 僕は意を決し、ゆっくりと顔をあげる。頭の隅にはさっきみた地獄の映像が残っているが、それでも仕方ない。僕がこの力を使うことをやめたとしても、他の天聖者が何も知らずに使うだろう。本当にひどい世界だ。神はどれほど人間の事が嫌いなのだろうか。
「……わかりました。殺しましょう、壊しましょう。天聖者を、転生を、この世界を。全部全部ミナゴロシにしてやりましょう」
「ありがとう……。オール。ありがとう……」
 リーダーはその細く枯れ木のような手を僕の前にスッと差し出す。
(彼がこんな姿をしている理由も、いつか聞かないといけないな……)
 僕はその手を強く握った。

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