テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第三章

3-40 ブレイカー14

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 僕はもう一度七色の盾を出し、そのサイズを大きくしたり小さくしたりして自由に動かす。このシールドの仕組みは非常に単純なもので、その名の通り七色のシールドを重ねるようにして出現させ、それぞれの色に近い属性の攻撃を止めるためのものだ。
 そう、僕は七つのシールドを同時に出して、しかもそれを自分の思う通りに操作していたのだ。この技は僕は自分自身の全能も、過去の天聖者であった時のことも完全に忘れていた時に自分で考えて使っていたものなので、転生世界にある誰かの能力を借りて発動させているわけではないはずだ。
 それを理解した上で、もう一度ダウターの様にいくつかの魔法を綺麗に組み合わせたキューブを出現させてみようとする。
(やっぱりだめか……)
 しかし召喚したそれはさっきまでと同じように、どこか欠けていたり形が不揃いの出来損ないのもののままであった。
(であればなぜ……)
 自分で思いついたものでないとダメなのだろうか? 転生世界にもパクリを禁止する謎の力が働いていたり?
(可能性がないわけじゃない)
 ダウターを救う為に何度も繰り返しをしていた時、そしてダウターを救う事に失敗した時には、毎回空にダウターが光の力を失った事をアナウンスする謎の文字が現れていた。あの時は彼を何とかして救おうと必死だったので気にも留めていなかったが、この世界にまだまだ僕の知らないルールや設定があってもおかしくはないのだ。
(しかし今はとにかくなんでも試すしかない)
 ライトからそれぞれ赤黄色青のビームを出す信号機……出せた。色とりどりの折り鶴を召喚して動かす……折り鶴はかなりのスピードで量産できたが一つずつしかでなかったし、一度に動かせる量や精度にかなりの制限があった。百発を超えるミサイルやレーザーや機関銃を一度に打ち出す巨大発射装置……出せた。
(なるほど……少しずつ分かってきたかもしれない)
 五つの乗り物を合体させてつくる巨大ロボット。乗り物は一つずつしか出なかったし、合体にも時間がかかった。
 五つの乗り物に分裂できる巨大ロボット。出せたし分裂も同時にできた。
(つまり……)
 僕が自分で考えて同時に召喚できる物というのは、『一つ』ということなのだ。どれだけ簡単で単純なものでも数を出すには一定の時間がかかるが、一つという体裁さえ保っているのなら、どれほど多機能なものでも召喚することができる。
 もう一度ダウターのようなルービックキューブを出そうとしてみる。たくさんの魔法を組み合わせるのではなく、各マス目がそれぞれ違う魔法の効果を持った一つのキューブをを召喚するのだ。
「出せた!」
 思わず大きな声が出る。自分の右手の上にはダウターの物と比べても遜色ないキューブが浮かんでいた。

「リーダー、あれだけできたらもうええんちゃいますか?」
「そうだね。中途半端な力は自分を不利にするばかりだ」
 後ろから二人の声が聞こえた。彼らは僕に近づき、僕の召喚したキューブをまじまじと見つめる。
「形だけはよおできとるなあ」
 ダウターが笑いながら言う。形だけ、と言った彼に少しだけムッとするが、確かにこれは形だけの残念魔法だ。
「中身がめちゃくちゃだね」
 そう、僕が一度に想像できたのはキューブのそれぞれのマスが別の効果を持った魔法ということだけで、それぞれがどんな魔法かまでは考えられなかった。攻撃かバフかもわからない様々な魔法の塊のどこに使い道があるというのだろうか。
「ダウターはどうやってあれほど複雑な魔法を制御してるの?」
 彼は空中に浮かぶキューブをぶつける攻撃方法の他にも、地面を細かく魔法のフィールドでマス目に区切り、そこを通る者にダメージなどを与えたりもしていた。僕もあの魔法全てが効果のわからないランダムなものだとしたら出すことができるかもしれないが、やはりそれは何の役にも立たないだろう。
「そら俺は自分の覚えてる魔法をちゃんと全部理解してるからな。もちろんこれを精密に動かしたり一瞬で展開するにはそれなりの地頭もいるんやけど、簡単なもんやったら誰でもできるんちゃう?」
(ええっ!)
 彼の言葉に少なからず衝撃を受けた。そんな誰にでもできるようなことが僕にはできないのだろうか。
「そんなに落ち込むことはないよ。ダウターは説明が足りなすぎる」
 僕の表情の変化に気づいたリーダーが助け舟を出す。
「例えばダウターを始め他の天聖者には、さっき君が試行錯誤していた時の巨大ロボットは造り出せないだろう。あんな破天荒なものを造れるのは、君がこの転生世界の全ての能力を使えるその全能を持っているからだ」
「そやで。あんな合体ロボを出す魔法なんて俺は聞いたこともないからな。そういう特殊な誰かの転生者としての能力を、あたかも一つの魔法みたいに軽く出せるやつはオールぐらいやろ」
「しかしもちろん弱点もある。想像した能力に適したものを自動で使えるその全能には、想像できないものは使えないという限界があるんだ。……例えば、君のその七色の盾を、例えば百色にできるかやってみなさい」
 リーダーの言葉通りに百枚のシールドを重ねた球状の盾を想像して発動してみる。しかし発動された魔法はほどいもので、ぐちゃぐちゃのよくわからないたくさんの膜が僕を中心に球状に現れていただけだった。
「ほいっとな」
 ダウターがそのたくさんの膜に向けて彼のキューブを動かすと、その膜はほとんど抵抗もできずに次々と破られていった。
「御覧の通り、きちんと想像できていないものを無理に召喚しようとするとろくでもないものができあがる。君はとっさに百色もの色を想像できなかったので、こんなものが出てきてしまったのだ。さっき君が出した効果のわからないランダム魔法のキューブの様に、そういったものは状況を有利にするどころか不利にすることの方が多いだろう」
「そんなもん出すぐらいなら、どっかの誰かの能力なりを借りたほうがいいやろうしな」
「しかし君が今まで嫌というほど経験してきたように、私たち第一世代の天聖者や神々に挑むというのなら、誰かの天聖者の能力を借りたぐらいでは太刀打ちできなことの方が多いだろう」
 暴走していたブレイカーの姿を思い出す。彼女を取り巻く力の渦や、細い腕から繰り出される重撃の連打に対抗賭しようとしても、僕に出来るんのはそれをただよけ続ける事だけだった。それはつまり、この転生世界のどんな能力を用いたとしても、彼女に対抗するには逃げるしかなかったことを意味するのだ。
「しかし君の全能はそんな短所をはるかに超えるメリットを持っている」
 リーダーは導きの扉を召喚するとそれを開き、中に入るように促す。望み通りその中に入ると、そこは今まで通ってきた世界と同じ、ブレイカーによって崩壊した世界だった。
「一万七千百四十一番目の世界だ。オールにはここを一瞬で直してもらう」
 彼の無茶な要求にも驚きはない。今までのことから僕が考えた通り、もし僕の全能が卑下し続けてきた制約ばかりの役立たずな能力ではなく、転生世界の全ての能力を借りたうえでさらに進化させることができるものなのだとしたら……

「メディカルキュアコピーブレイクアウトレコード」
 そう。具体的に想像できる物を使えるのだとしたら、一度発動させたことのある能力は全て既知のものであり想像可能なものだ。あとは既知の能力に、他の既知の能力をくっつけたり引いたりして『一つ』にしてやればいいのだ。
 過去の全てを記すアカシックレコードを、過去の医学の全てを記すメディカルレコードに変える。そのメディカルレコード自体に解毒の呪符の効果を持たせ、自動複製された瞬間に世界各地に飛び散るようにする。
 僕が一つずつ順番に発動していた能力を、無理や矛盾なく想像と頭の処理が追いつく範囲で一まとめにしてやればいい。僕が特別なレコードを召喚した瞬間、それは僕の期待を裏切ることなく完全に役目を果たし、一万七千百四十一番目の世界は一瞬のうちにあるべき姿へ戻っていった。
(まさに全能だ……)
 これはかなり応用が効くだろうし、なんといっても都合が良すぎる能力だ。まさに全能と称するに相応しいだろう。自分の能力に対する興味はムクムクと増大していき、様々な魔法を試してみたくてしょうがなくなる。
 この新しい無限の可能性に、もしかして僕は神に互するのではないかと醜く顔を歪ませたその時、そんな僕の自尊心と驕りを粉々に砕くための一撃がリーダーから放たれたのだった。
 
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