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第三章
3-37 ブレイカー11
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「ここまでか……」
ちょうど百個目の世界での作業を終え、次の世界へ向かおうとしていたところに導きの扉が現れた。
「残念だけどタイムアップだ」
中から現れたリーダーが告げる。
「随分と進んだみたいだね。もう百個目までいけるようになるとは、すごいじゃないか」
リーダーは手放しに僕を褒めて来るが、時間までに全ての世界を直さないといけないのだ、一個目だろうが百個目だろうが関係ない。
「時間が惜しいので、さっさと殺してもらえますか」
淡々と告げる。今この瞬間にブレイカーは家族を失い、自我を失って暴走してしまったのだ。それを考えると呑気に会話をしている余裕はない。
「リーダー、今オールがブレイカーの為に必死にやってくれてるのは道中で聞きました。でもこれは流石に……、気軽にやりすぎやないですか? この『やり直し』で助けてもらって俺が言えることやないのはわかってます、それにブレイカーを助けるためにこれが必要なんもわかっとります。でも……でも、リーダー。俺たちはあんたにどれだけの罪を被せ続けるんですか……。この恩は……どうやって返せばええんですか……」
リーダーがタイムアップを告げに来るたびに、ダウターはリーダーに許しを乞うような目で語りかける。そしてリーダーはそんなダウターに、毎回決まってこう返すのだ。
「気に病むことなどない。私は仲間全ての罪をこの身に背負うのだ」
そしてダウターは黙って俯く。僕にはこのやり取りの意味も真意もわからないが、リーダーはブレイカーを助けた後に全てを話すと言っていた。
「さあ、リーダー」
僕は全身の力を抜き、全ての能力を解除する。
「頼んだよ」
そして今回もリーダーの手刀が僕の胸を貫いた。
目を開くとまた裁判所でリーダーと向き合っていた。僕たちは無言で頷き、リーダーが開けた導きの扉にそのまま飛び込む。
ダウターの待ちくたびれたという不平不満を聞き流しながら、もう何度目になるかわからないこの1番目の世界をあるべき姿に直し、ダウターに次の世界への扉を開くよう求める。
前回は百番目の世界まで直すことができたので、そこまではすぐに到達できる。百一番目からはまた未知の世界になるので、アカシックレコードで医学の書を作るのにも時間がかかってしまう。あとはブレイカーのリミットまでに、どこまで進めるかなのだ。
ダウターが扉を開き、二人で飛び込む。アカシックレコードを発動しながら新しい世界に着地し、瞬時に医学の部分だけコピーを作る。ダウターが扉を閉じ、再度すぐにひらく。解毒の呪符とともに医学書を世界中に撒き散らせながら、また二人で扉に飛び込んだ。
とにかくクリア済みの世界に関してはタイムアタックだ。一切の動きの無駄をなくし、最適な動きを探しては取り続ける。ダウターは一番目の世界で一喝する事で、状況の重大さを理解してくれる。今回は百番目の世界までノンストップだ。
あっという間に百番目の世界まで辿り着き、ここからは僕の知らない世界に突入する。アカシックレコードが世界の過去を記すまでに大きな時間を費やすようになり、その間に僕たちができることは何も無い。一ページずつ刻まれていく歴史をヤキモキした気持ちで睨みつけるしかないのだ。
「ダウター達は一体どれぐらいの世界を壊してきたの?」
この無駄とも言える待ち時間を使って、未だに状況をきちんと把握していないダウターに今ブレイカーがどういう状態で、僕が何をしているかの説明をしている。ダウターは毎回驚いたような表情を一瞬だけするものの、すぐに全てを理解する。
「どれぐらいやろなあ。千とか、もしかしたら万とかかもしれん。この転生世界で時間なんてもんは意味を失ってるし、あの時は俺たちのやってることに何の疑問も持ってなかった。俺たちが転生世界を飛び回れば飛び回るほど、たくさんの人が幸せになると本気で信じてたんや。ほんまにアホな話やで……」
ダウターはとても辛そうな顔をしながら話す。僕だって人のことは言えない。僕の無知と傲慢が原因で死んでしまった兄弟や転生者の事を思い出すたびに自分の愚かさに死んでしまいたくなる。僕はアンタッチャブル達のおかげでそれを理解することができたが、神の忠実なシモベとして誰にも真実を教えられることなく、人を救うつもりで殺し続けてきた彼らの苦しみはどれ程なのだろうか?
百一番目の世界での作業を終え、次の世界に向かうために扉に入る。終わりの見えない作業だが僕の心に疲れはない。必ずやり遂げてみせる。
二百三十八番目でタイムアップ。もっと早く。できることはたくさんあるはず。
五百七十四番目でタイムアップ。まだまだだ。まだ無駄が多い。
千二百四十五番目でタイムアップ。千を越えたがダウターは半分も来ていないと言っていた
三千二番目でタイムアップ。クリア済みの世界での流れ作業でたまに自分が何をしているのかわからなくなる。しっかりしろ
五千四百八十七番目でタイムアップ。途中で一度転けてしまった
一万二千六百九十九番目でタイムアップ。まずい……このままだと……
一万四千四百四十一番目でタイムアップ。やはりだ、時短できているクリア済みの世界を通るだけで時間のほとんどを使うようになった
一万五千九百八十七番目でタイムアップ。限界が来てしまう。なんとかしないと
一万六千六百六十八番目でタイムアップ。なんとかしないと
一万七千三番目でタイムアップ。なんとかしないと
一万七千百一番目でタイムアップ。なんとかしないと
一万七千百三十番目でタイムアップ。……………
一万七千百三十五番目でタイムアップ。……
一万七千百三十八番目でタイムアップ。ごめん
一万七千百三十九番目でタイムアップ。ごめん
一万七千百三十九番目でタイムアップ。ごめん
一万七千百三十九番目でタイムアップ。やっぱり僕は無能だった
一万七千百三十九番目でタイムアップ。何度やってもダメだ
一万七千百三十九番目でタイムアップ。ブレイカー……
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百四十番目でタイムアップ。 諦めるものか
ちょうど百個目の世界での作業を終え、次の世界へ向かおうとしていたところに導きの扉が現れた。
「残念だけどタイムアップだ」
中から現れたリーダーが告げる。
「随分と進んだみたいだね。もう百個目までいけるようになるとは、すごいじゃないか」
リーダーは手放しに僕を褒めて来るが、時間までに全ての世界を直さないといけないのだ、一個目だろうが百個目だろうが関係ない。
「時間が惜しいので、さっさと殺してもらえますか」
淡々と告げる。今この瞬間にブレイカーは家族を失い、自我を失って暴走してしまったのだ。それを考えると呑気に会話をしている余裕はない。
「リーダー、今オールがブレイカーの為に必死にやってくれてるのは道中で聞きました。でもこれは流石に……、気軽にやりすぎやないですか? この『やり直し』で助けてもらって俺が言えることやないのはわかってます、それにブレイカーを助けるためにこれが必要なんもわかっとります。でも……でも、リーダー。俺たちはあんたにどれだけの罪を被せ続けるんですか……。この恩は……どうやって返せばええんですか……」
リーダーがタイムアップを告げに来るたびに、ダウターはリーダーに許しを乞うような目で語りかける。そしてリーダーはそんなダウターに、毎回決まってこう返すのだ。
「気に病むことなどない。私は仲間全ての罪をこの身に背負うのだ」
そしてダウターは黙って俯く。僕にはこのやり取りの意味も真意もわからないが、リーダーはブレイカーを助けた後に全てを話すと言っていた。
「さあ、リーダー」
僕は全身の力を抜き、全ての能力を解除する。
「頼んだよ」
そして今回もリーダーの手刀が僕の胸を貫いた。
目を開くとまた裁判所でリーダーと向き合っていた。僕たちは無言で頷き、リーダーが開けた導きの扉にそのまま飛び込む。
ダウターの待ちくたびれたという不平不満を聞き流しながら、もう何度目になるかわからないこの1番目の世界をあるべき姿に直し、ダウターに次の世界への扉を開くよう求める。
前回は百番目の世界まで直すことができたので、そこまではすぐに到達できる。百一番目からはまた未知の世界になるので、アカシックレコードで医学の書を作るのにも時間がかかってしまう。あとはブレイカーのリミットまでに、どこまで進めるかなのだ。
ダウターが扉を開き、二人で飛び込む。アカシックレコードを発動しながら新しい世界に着地し、瞬時に医学の部分だけコピーを作る。ダウターが扉を閉じ、再度すぐにひらく。解毒の呪符とともに医学書を世界中に撒き散らせながら、また二人で扉に飛び込んだ。
とにかくクリア済みの世界に関してはタイムアタックだ。一切の動きの無駄をなくし、最適な動きを探しては取り続ける。ダウターは一番目の世界で一喝する事で、状況の重大さを理解してくれる。今回は百番目の世界までノンストップだ。
あっという間に百番目の世界まで辿り着き、ここからは僕の知らない世界に突入する。アカシックレコードが世界の過去を記すまでに大きな時間を費やすようになり、その間に僕たちができることは何も無い。一ページずつ刻まれていく歴史をヤキモキした気持ちで睨みつけるしかないのだ。
「ダウター達は一体どれぐらいの世界を壊してきたの?」
この無駄とも言える待ち時間を使って、未だに状況をきちんと把握していないダウターに今ブレイカーがどういう状態で、僕が何をしているかの説明をしている。ダウターは毎回驚いたような表情を一瞬だけするものの、すぐに全てを理解する。
「どれぐらいやろなあ。千とか、もしかしたら万とかかもしれん。この転生世界で時間なんてもんは意味を失ってるし、あの時は俺たちのやってることに何の疑問も持ってなかった。俺たちが転生世界を飛び回れば飛び回るほど、たくさんの人が幸せになると本気で信じてたんや。ほんまにアホな話やで……」
ダウターはとても辛そうな顔をしながら話す。僕だって人のことは言えない。僕の無知と傲慢が原因で死んでしまった兄弟や転生者の事を思い出すたびに自分の愚かさに死んでしまいたくなる。僕はアンタッチャブル達のおかげでそれを理解することができたが、神の忠実なシモベとして誰にも真実を教えられることなく、人を救うつもりで殺し続けてきた彼らの苦しみはどれ程なのだろうか?
百一番目の世界での作業を終え、次の世界に向かうために扉に入る。終わりの見えない作業だが僕の心に疲れはない。必ずやり遂げてみせる。
二百三十八番目でタイムアップ。もっと早く。できることはたくさんあるはず。
五百七十四番目でタイムアップ。まだまだだ。まだ無駄が多い。
千二百四十五番目でタイムアップ。千を越えたがダウターは半分も来ていないと言っていた
三千二番目でタイムアップ。クリア済みの世界での流れ作業でたまに自分が何をしているのかわからなくなる。しっかりしろ
五千四百八十七番目でタイムアップ。途中で一度転けてしまった
一万二千六百九十九番目でタイムアップ。まずい……このままだと……
一万四千四百四十一番目でタイムアップ。やはりだ、時短できているクリア済みの世界を通るだけで時間のほとんどを使うようになった
一万五千九百八十七番目でタイムアップ。限界が来てしまう。なんとかしないと
一万六千六百六十八番目でタイムアップ。なんとかしないと
一万七千三番目でタイムアップ。なんとかしないと
一万七千百一番目でタイムアップ。なんとかしないと
一万七千百三十番目でタイムアップ。……………
一万七千百三十五番目でタイムアップ。……
一万七千百三十八番目でタイムアップ。ごめん
一万七千百三十九番目でタイムアップ。ごめん
一万七千百三十九番目でタイムアップ。ごめん
一万七千百三十九番目でタイムアップ。やっぱり僕は無能だった
一万七千百三十九番目でタイムアップ。何度やってもダメだ
一万七千百三十九番目でタイムアップ。ブレイカー……
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百三十九番目でタイムアップ。
一万七千百四十番目でタイムアップ。 諦めるものか
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