テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第三章

3-28 ブレイカー②

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 ブレイカーはあまりに凄惨でとてつもない過去を淡々と話していた。第一世代と呼ばれる天聖者、彼らはアンタッチャブルと同じぐらいの力を神に与えられながらも、真実を見てしまった時に始原の四聖以外はみな自殺したという。彼らがどれくらいの人数だったのかはわからないが、全員が全員死を選んでしまうような真実とは一体どれほど恐ろしいものなのだろうか?
(彼らが話す天聖者が人を殺しているという真実以外にも、まだ何か隠されていることがあるのかもしれない)
 未だに語られていないその部分。リーダーたちは口を揃えてまだ早いと言っていた。一体何をどうすればその時期が来るのだろうか?
(しかし……)
 そんなことよりブレイカーの事だ。目の前の僕と同じぐらいの年齢の女の子、とはいっても過ごしてきた時間はまるで違うのだから、見た目の年齢など全く意味をなしていないのかもしれないが、それでも彼女はこの身体にどれだけの痛みを受けてきたのだろうか?
 身体に残る傷は何一つないけれど、痛みを感じなくなるまで痛みを感じ続けるなんて体験は想像すらできない。しかもそれは神が人を苦しめるための手段の一つでしかなかったのだ。他の始原の四聖たちは、そして第一世代と呼ばれた彼らは、人に不釣り合いな力を与えられてどれほどの苦しみを味わってきたのだろうか。
 
「私たちは自分たちが暴虐の限りを尽くしてきた星々を回ろうと考えました。その頃にはもう導きの扉が与えられていましたから、目的地にたどり着くことは簡単でした」

「最初の星に降り立った時、私たちは異常な空気に顔をしかめました。今私たちが立っているこの世界と同じように、そこも毒と病気に満ち溢れ、木々は枯れ腐っていました。その頃はまだ天聖クエストを使った人間の掃討などは始まっていなかったので、私が力を使い、星そのものから病気を根絶したその世界がそこまで荒れ果てている理由がわかりませんでした」

「私たちはまだ形の残る街の残骸に降り立ち、文献を漁りました。この世界に何が起きたのか、それを知った時に私という存在は完全に壊れてしまったのです」

「見つけた文献にはこの星で起きた地獄と、苦しむ人々の叫びが赤裸々につづられていました。私が全治の力を使い、星から病気という病気をなくした後、長い間人間は幸せに暮らしていました。しかしいくら病気が世界からなくなっていても、怪我をすることは避けられません。星に注ぎ込んだ私の力でその怪我も一瞬で治療されるのですが、私の力で傷を治した人間は、先ほども話した通り精神まで治療された人形のようになりました」

「とはいえそれは覚悟していた事でした。私の全治の受けた者が変わり果ててしまうこと、その罪をリーダー達と共に受け入れて生きていくことは決めていたのです。問題はどうしてその世界が毒と病気に満ちたものになってしまったかです」

「……それは当然の事だったのかもしれません。私があらゆる病魔を根絶した結果、人間の身体からは抵抗力というものが消えていきました。病気がないのですから、抗体ができることもありません。その世界の医者も存在しない『病気』などというものを研究することや、薬を作ることは意味がないと皆やめてしまいました」

「私の全治の力が生きている間はそれでもよかったのです。とはいえ怪我をしてしまえば自我が完全に作り変えられる世界には、幸せなどは存在しなかったでしょう。しかし現実はそれよりもひどいものだった」

「私たち第一世代の天聖者が神の神殿で真実を見せつけられた時、私があらゆる世界にばらまいた全治の力も効果を失っていたのです。抗体や薬といった抵抗手段を失った人間、そして動物や植物たちがどうなったかは想像に難くないでしょう」

「私が通った星々には、ただの風邪にすら血反吐を吐き散らしながら死んでいった人間が転がっていました。私が何度も何度も死んで手に入れた力は、癒しの力などではありませんでした。人の精神も、星の環境も、何もかもを破壊する呪いの力でした」

「その時はまだルイナーと出会っていなかったので、その世界を破壊することはできませんでした。病魔に苦しむ生き残りの人間達を手当たり次第に殺しながら、私の中で何かが音を立てて壊れたのがわかりました」

「私はそれからしばらくの間、何もすることができませんでした。自分の無力さと愚かさ、そして犯してしまった罪に押しつぶされていたのです。しかしリーダーは違いました。彼はこの転生を壊す方法を考え、そのために自分たちも転生者を生み出していくことを決めていたのです」

「ある日、リーダーの元に二人の人間が転生してきました。それが彼ら、ケータとヨーコです。そして彼らを見た時に、一目で自分の両親だということがわかりました」

「私は物陰に隠れてリーダーと両親の話を聞いていました。両親は自分の娘が生まれてから死ぬまで病院で過ごすことになったことに強い負い目を感じていました。そしてもし叶うならば、癒しの力を与えて欲しいとリーダーに伝えました」

「このままでは両親まで私と同じ道を進んでしまう。私は彼らの前に飛び出し、それがどれだけ愚かな考えかを説きました。その時はすでにこの化粧と服装をしていたので、彼らに私の正体がばれることはありませんでした」

「私は彼らに、『お前の娘私と知り合いだったが、彼女は治癒の力を求めてたくさんの世界を地獄に変えてしまった、人々は身体から抗体を失い、ただの風邪にも耐えられない身体になっている』と、まるで他人のことのように話しました」

「両親が転生などをやめてくれるだけでよかったのです。リーダーと共に生きる事は、数えきれない罪を背負う事だから、私は両親にはそんな道を進んでほしくなかった」

「彼らはしばらくの間私の話に驚いていましたが、いつの間にか二人は自然に向き合い、微笑んで軽く頷いた後に私の目を見つめ、『それならば私たちがあらゆる病気にかかって抗体を作ります。娘の罪は私たちが洗い流しましょう。私たちは娘に何もしてやれなかったから』と言ったのです」

「涙をこらえるのに苦労しながら彼らを何度も止めましたが、その決意を覆すことはできませんでした。その日からずっと、ヨーコは世界のあらゆる病気をその身体に一つずつ詰め込んで、ケータは病状や対処方法にその効果などをただひたすらに書き記すだけの存在になりました」

 ブレイカーは大きく息を吐いた。

「さあ! これでボクの話は終わりだよー! オールー? どうやってボクを助けてくれるのかな!? 僕のパパとママを助けてくれるのかな!? できるもんならやってみないよ! …………やってみてよ! 助けてよ! 助けろ! 私の父さんと母さんを! 壊れちゃった世界を! 壊しちゃった人たちを! 助けろ! できるんだろ! そのただの全能なんてゴミみたいな能力でよお! やれるもんならやってみろよ! ボクはどうでもいいから! 苦しむためだけに生きてる私の両親を!」


「どうか助けてください……」

 

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