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第三章
3-27 ブレイカー①
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ブレイカーの口調が聞いたことのない丁寧なものに変わった。あの病人だらけの町で怒りを爆発させたブレイカーも、いつもの喋り方とは全く違う口調になっていたが、今のこれはその時とも違う。一体どれが本当のブレイカーの姿なのだろうか。
「ダウターが言っていたと思いますが、人間は苦しむために造られました。この転生というシステムも当然そのことに焦点を当てています。今の転生世界というのは転生者にとって楽園といっても過言ではないでしょう。自分の思い通りの環境、思い通りの人間関係。そして物語の最期まで思い通りの人生が続くことになります。しかしこれは天聖者の『第二世代』ともいうべき時代の区切りの話なのです。本当は今の転生システムの前に、『第一世代』の転生がありました」
「第一世代の転生は神の欲求そのままの世界でした。『人間以上の力を手に入れた人間の痛みや絶望とはどのようなものか?』。それを体現したのが第一世代の転生者……つまり私たちです」
「私は転生する前、難病によって生まれて死ぬまでずっと病院のベッドの上でした。身体中にはたくさんの管と計器が繋がれ、自分で動かせるのは顔ぐらい。生かされる為に生きているような存在でした。」
「結局本当なら高校生になっているぐらいの年齢になって死ぬまでずっとそのままでした。両親は見舞いに来ては私に謝って泣いていました。私も両親に謝って泣いていました。ただそれだけの人生でした」
「顔すらも動かなくなり、何もかもが停止した時、私が死んだ時はようやく楽になれたと思いました。両親はもう私を見て泣かずに済むのです。しかし私の意識は死後も途切れることなく続いており、いつの間にか暗く長い道に立っている事に気が付きました」
「私は自分の四肢を動かす感覚に歓喜しました。初めて私は歩くことができたのです。両親がここにいればどれほど喜んでくれたでしょうか。しかし周りに人影はなく、長い長い道に立っていたのは私だけでした」
「いつの間にか私は道に沿って歩き続けていました。そうしてしばらくすると、目の前に眩い光を放つ扉がありました。私は迷うことなくそれに触れると、次は神々しい神殿のような場所にたどり着いていました。そこに待っていたのは一人の光を纏った男性。私は生まれて死ぬまで病院にいたので世界の事は何も知りませんでしたが、彼が神だということを私の身体が理解していました」
「彼は私に問いました。『汝いかなる力を持って困難に立ち向かうか』。私は迷わずに答えました。『癒しを』。彼はにっこりと笑うと私の頭を撫で、そして私の意識は一旦そこで途切れました」
「目を開けるとそこは草原でした。私はその時既に自分がこの不死身に近い自己治癒の力と、触れたもの全てを癒す全治の力を手に入れていました。そんな力を持った人間が世界に生まれてしまったらどうなるかはお話ししたと思います」
「私が初めに身を寄せた場所は本当に小さな田舎の村のようでしたが、すぐにたくさんの人が私の周りに集まりました。村は町になり、さらに大きな街になっていきました。貴族や王家が私の事を知って顔を出し始めました」
「王は私を王家専属の医師にしようとしましたが、私は拒絶しました。一人でも多くの人の身体を治すことが私の目的でした。そう使者に伝えた次の日に、武器を持った王直属の部隊が私の診療所にやってきました」
「しかし私にはあらゆる武器が通用しませんでした。悪戦苦闘の末に兵士たちは諦めて帰っていきました。私の診療所は歓喜で溢れました」
「翌週に私の診療所にいくつかの荷物が届けられました。それはその時仲の良かった人たちの首でした。私がいくら泣いて騒いでその首を胸に抱きしめても、それらが目を開ける事はありませんでした」
「私は兵士たちに同行して王城へ向かいました。そこにはやはり私の見知った人たちが捕えられておりましたので、私は王の言う事を聞くしかありませんでした。私が人間兵器になった瞬間でした」
「私は身体中に毒薬や爆発物を持って一人で敵の国まで歩いていきました。そのまま王城まで歩いていけばいいだけでした。私に立ちふさがる者は多くいましたが、紙一枚ほどの厚さも感じませんでした」
「私は私を襲う全ての攻撃から回復しますが、痛みを感じないわけではありませんでした。私は常に毒死しながら、体中に刃物を突き立てられながら、何度も何度も爆死しました」
「貴方はよく知っていますね。回復と拷問の役割を。私は王家に囚われてからはずっと生きたまま殺されていました。私が死にたくないと叫べば、叫んだ言葉の文字数の分だけ子供の指が飛びました。私はいつの間にか声を出さないようになっていました。表情を浮かべないようになっていました。痛みを感じないようになっていました」
「たった数人の知人や子供の死を厭う代わりに、私は幾万の命を奪い続けました。そんな身勝手な殺人鬼の私にも希望がありました。戦争が終われば、私がこの力を持って全ての国を制圧してしまえば、もう戦争は起きないのではないか。殺しも殺されもせずにすむんじゃないか」
「戦争は終わりました。しかし私の国の王は怯えていました。いつ私の血で汚れた手が王に向くかに怯えていました。王は私に石でできた棺に寝るように言いました。私は自分の身に何が起きるかはもう理解していましたが、もうどうでもよくなっていました」
「王は棺の蓋を閉め、地中の深く深くに私を埋めました。酸欠の苦しみも何年かたったところで感じなくなっていました。私は眠り続けました」
「それから何年が経ったのかはわかりませんが、私はいつの間にかあの神にであった神殿にいるのに気が付きました。神は今まで私に起きたことは全て試練だと言いました。そして更なる力を授けると言いました。私は自分の無力ゆえに試練に立ち向かえなかったと考え、破壊の力を手に入れました」
「私は天聖学院に一期生として所属しました。そこでリーダーやダウター、アンダースタンダーと会いました。彼らや他の一期生も境遇は似たような物でした。神から強大な力を与えられながらもそれを使いこなせず、心と身体に大きな傷を持っていました。私たちが絆を深めていったのは当然でした」
「始原の四聖と呼ばれた私たち四人はいつも一緒に活動していました。始めは皆それぞれが自分こそが一番であると息巻いていましたが、リーダーの圧倒的な力を目にした後は素直に彼に従いました。私たち四人だけではなく、一期生の誰もがとてつもない力を神によって与えられていました」
「私たちは神に従い、あらゆるモンスターや悪魔を退治しました。私は全知の力を地面に注ぎ込むことによって、その星から全ての病魔を滅することができました。私たちは転生世界を飛び回り、その星に救う悪を退治し、全治の力を振りまきました」
「そうしてどれくらいの月日がたったでしょうか。私たち一期生は全員が神の神殿に呼び集められました。そして私たちは全員地獄を見る事になりました。私たち四人を覗く全ての一期生は自害しました。もちろん私たちも死のうと思っていたのですが、私はどうやったら自分が死ねるのかがわかりませんでした。リーダー、ダウター、アンダースタンダーの三人は、私と一緒に地獄を生きる決断をしてくれました」
「私は神の間での出来事により、神によって与えられしこの全治の力は、いわゆる『心の病』すら治していたことがわかりました。浮気性、ギャンブル狂い、アルコール中毒。おおよそ病と呼べるようなものを全て治していることを知りました」
「短気、ナルシスト、優柔不断、怠け癖……、病気と言うほどでもないような、どちらかといえば個性というものも『治療』していたことをしりました。私は……私は……自分が『これが健康だ』と考える性格に彼らを『治療』していました。数百、数千の星々で、数万、数億の人々を、全て同じ性格のロボットのような操り人形に『治療』していました。そしてその事実に耐え切れず、私は一度ここで壊れてしまいました」
「私は自分が元々どんな人間だったかわからなくなってしまいました。おかしなメイクと言動をしていないと、他の人間より変わっていないと、私自身も私が治療した哀れな人形の一体でしかないように感じました」
「リーダーたちはそんな私に優しく、そして根気強く接してくれました。私がようやく自分を取り戻せそうになっていた矢先、私は更なる真実を知りもう一度壊れました」
「ダウターが言っていたと思いますが、人間は苦しむために造られました。この転生というシステムも当然そのことに焦点を当てています。今の転生世界というのは転生者にとって楽園といっても過言ではないでしょう。自分の思い通りの環境、思い通りの人間関係。そして物語の最期まで思い通りの人生が続くことになります。しかしこれは天聖者の『第二世代』ともいうべき時代の区切りの話なのです。本当は今の転生システムの前に、『第一世代』の転生がありました」
「第一世代の転生は神の欲求そのままの世界でした。『人間以上の力を手に入れた人間の痛みや絶望とはどのようなものか?』。それを体現したのが第一世代の転生者……つまり私たちです」
「私は転生する前、難病によって生まれて死ぬまでずっと病院のベッドの上でした。身体中にはたくさんの管と計器が繋がれ、自分で動かせるのは顔ぐらい。生かされる為に生きているような存在でした。」
「結局本当なら高校生になっているぐらいの年齢になって死ぬまでずっとそのままでした。両親は見舞いに来ては私に謝って泣いていました。私も両親に謝って泣いていました。ただそれだけの人生でした」
「顔すらも動かなくなり、何もかもが停止した時、私が死んだ時はようやく楽になれたと思いました。両親はもう私を見て泣かずに済むのです。しかし私の意識は死後も途切れることなく続いており、いつの間にか暗く長い道に立っている事に気が付きました」
「私は自分の四肢を動かす感覚に歓喜しました。初めて私は歩くことができたのです。両親がここにいればどれほど喜んでくれたでしょうか。しかし周りに人影はなく、長い長い道に立っていたのは私だけでした」
「いつの間にか私は道に沿って歩き続けていました。そうしてしばらくすると、目の前に眩い光を放つ扉がありました。私は迷うことなくそれに触れると、次は神々しい神殿のような場所にたどり着いていました。そこに待っていたのは一人の光を纏った男性。私は生まれて死ぬまで病院にいたので世界の事は何も知りませんでしたが、彼が神だということを私の身体が理解していました」
「彼は私に問いました。『汝いかなる力を持って困難に立ち向かうか』。私は迷わずに答えました。『癒しを』。彼はにっこりと笑うと私の頭を撫で、そして私の意識は一旦そこで途切れました」
「目を開けるとそこは草原でした。私はその時既に自分がこの不死身に近い自己治癒の力と、触れたもの全てを癒す全治の力を手に入れていました。そんな力を持った人間が世界に生まれてしまったらどうなるかはお話ししたと思います」
「私が初めに身を寄せた場所は本当に小さな田舎の村のようでしたが、すぐにたくさんの人が私の周りに集まりました。村は町になり、さらに大きな街になっていきました。貴族や王家が私の事を知って顔を出し始めました」
「王は私を王家専属の医師にしようとしましたが、私は拒絶しました。一人でも多くの人の身体を治すことが私の目的でした。そう使者に伝えた次の日に、武器を持った王直属の部隊が私の診療所にやってきました」
「しかし私にはあらゆる武器が通用しませんでした。悪戦苦闘の末に兵士たちは諦めて帰っていきました。私の診療所は歓喜で溢れました」
「翌週に私の診療所にいくつかの荷物が届けられました。それはその時仲の良かった人たちの首でした。私がいくら泣いて騒いでその首を胸に抱きしめても、それらが目を開ける事はありませんでした」
「私は兵士たちに同行して王城へ向かいました。そこにはやはり私の見知った人たちが捕えられておりましたので、私は王の言う事を聞くしかありませんでした。私が人間兵器になった瞬間でした」
「私は身体中に毒薬や爆発物を持って一人で敵の国まで歩いていきました。そのまま王城まで歩いていけばいいだけでした。私に立ちふさがる者は多くいましたが、紙一枚ほどの厚さも感じませんでした」
「私は私を襲う全ての攻撃から回復しますが、痛みを感じないわけではありませんでした。私は常に毒死しながら、体中に刃物を突き立てられながら、何度も何度も爆死しました」
「貴方はよく知っていますね。回復と拷問の役割を。私は王家に囚われてからはずっと生きたまま殺されていました。私が死にたくないと叫べば、叫んだ言葉の文字数の分だけ子供の指が飛びました。私はいつの間にか声を出さないようになっていました。表情を浮かべないようになっていました。痛みを感じないようになっていました」
「たった数人の知人や子供の死を厭う代わりに、私は幾万の命を奪い続けました。そんな身勝手な殺人鬼の私にも希望がありました。戦争が終われば、私がこの力を持って全ての国を制圧してしまえば、もう戦争は起きないのではないか。殺しも殺されもせずにすむんじゃないか」
「戦争は終わりました。しかし私の国の王は怯えていました。いつ私の血で汚れた手が王に向くかに怯えていました。王は私に石でできた棺に寝るように言いました。私は自分の身に何が起きるかはもう理解していましたが、もうどうでもよくなっていました」
「王は棺の蓋を閉め、地中の深く深くに私を埋めました。酸欠の苦しみも何年かたったところで感じなくなっていました。私は眠り続けました」
「それから何年が経ったのかはわかりませんが、私はいつの間にかあの神にであった神殿にいるのに気が付きました。神は今まで私に起きたことは全て試練だと言いました。そして更なる力を授けると言いました。私は自分の無力ゆえに試練に立ち向かえなかったと考え、破壊の力を手に入れました」
「私は天聖学院に一期生として所属しました。そこでリーダーやダウター、アンダースタンダーと会いました。彼らや他の一期生も境遇は似たような物でした。神から強大な力を与えられながらもそれを使いこなせず、心と身体に大きな傷を持っていました。私たちが絆を深めていったのは当然でした」
「始原の四聖と呼ばれた私たち四人はいつも一緒に活動していました。始めは皆それぞれが自分こそが一番であると息巻いていましたが、リーダーの圧倒的な力を目にした後は素直に彼に従いました。私たち四人だけではなく、一期生の誰もがとてつもない力を神によって与えられていました」
「私たちは神に従い、あらゆるモンスターや悪魔を退治しました。私は全知の力を地面に注ぎ込むことによって、その星から全ての病魔を滅することができました。私たちは転生世界を飛び回り、その星に救う悪を退治し、全治の力を振りまきました」
「そうしてどれくらいの月日がたったでしょうか。私たち一期生は全員が神の神殿に呼び集められました。そして私たちは全員地獄を見る事になりました。私たち四人を覗く全ての一期生は自害しました。もちろん私たちも死のうと思っていたのですが、私はどうやったら自分が死ねるのかがわかりませんでした。リーダー、ダウター、アンダースタンダーの三人は、私と一緒に地獄を生きる決断をしてくれました」
「私は神の間での出来事により、神によって与えられしこの全治の力は、いわゆる『心の病』すら治していたことがわかりました。浮気性、ギャンブル狂い、アルコール中毒。おおよそ病と呼べるようなものを全て治していることを知りました」
「短気、ナルシスト、優柔不断、怠け癖……、病気と言うほどでもないような、どちらかといえば個性というものも『治療』していたことをしりました。私は……私は……自分が『これが健康だ』と考える性格に彼らを『治療』していました。数百、数千の星々で、数万、数億の人々を、全て同じ性格のロボットのような操り人形に『治療』していました。そしてその事実に耐え切れず、私は一度ここで壊れてしまいました」
「私は自分が元々どんな人間だったかわからなくなってしまいました。おかしなメイクと言動をしていないと、他の人間より変わっていないと、私自身も私が治療した哀れな人形の一体でしかないように感じました」
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