テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

文字の大きさ
上 下
74 / 107
第三章

3−20 罪の意味

しおりを挟む
 彼の言うことが本当なのだとしたら、天聖者は皆すべからく人を不幸にしているのなら、どうして僕にもそれをさせる必要があったと言うのだ? 最初から全部一から十まで説明してくれたらそれで良かったじゃないか。
「どうして僕を天聖軍に入れたんだよ? 初めからアンタッチャブルとして扱ってくれればよかったんだ。それならモンスターだの魔族だのと戦う機会もほとんどなかった。アレが本当に人間だったとしたら、何故わざわざ僕に人殺しをさせたんだ?」
 厳しくダウターを責め立てる。人を助けたいと何度も言っていたのにこれじゃ辻褄が合わないだろう。
「…………後戻りできんようにするためや」
 ダウターは真剣そのものといった顔で聞き捨てならない事を言い出した。
「さっきも言ったやろ。転生を無くす為なら俺らは何だってやる。オールの力がないと転生そのものを破壊することはできんってリーダーが言っとるんや。だから最初に拷問まがいの事までしてその全能の力を無理やり与えて天聖者にもした」
「……まがいじゃなくて拷問そのものですけどね」
「まあな。……転生者の能力はそいつの欲望に引っ張られる。全能を与えるには転生に興味のない転生者が必要やった。だからオール、お前に白羽の矢がたった」
「そこまでは一度聞いてるよ。僕が聞いてるのは何故わざわざ天聖軍に入れて、しかもアンタッチャブル達が自殺までして僕に出世させた理由だよ。天聖軍になんか行かなくてもお得意の拷問でも何でもして僕を好きに使えばよかったろ。トップに上り詰めたおかげで僕は数え切れないほどの魔族を殺すハメになったんだ」
 僕が一番最初に転生した時、天聖学院を卒業して天聖軍に入ってから僕は次々とアンタッチャブルクエストに挑戦し、彼らを殺す事によってトップまで出世したことになっている。
 しかし実際にはまともに戦ってなどいなかったのだ。アンタッチャブル達は僕の所属するパーティーだったり軍団だったりのところに突っ込んできては僕以外を皆殺しにして、僕とお遊び程度に戦った後に勝手に自殺したのだ。
「ハハハ。まあそんなこともあったなあ」
「正直言ってあの時の僕は全能の能力頼りで何も考えずに戦っていた。まともにやり合ってたら僕に勝ち目なんて一つもなかったはずだろ。それなのにダウター達は最後まるで無防備に僕の攻撃を喰らって死んでいった」
「そうそう。リーダーから戦い方を教えて最後には死ぬように言われとってな。俺らのおかげで成長できたやろ? 命は一個しかないからなあ。しょうもないミスで死なれたら終わりやから、天聖軍に入ってもメイカーとか俺らでずっと見張ってたんやで」
「ええ……」
 全部彼らの掌の上だったのか……。まあ女神様ですらアンタッチャブルの一員なのだ、それぐらいは当然のようにやってのけても何もおかしくない。
「まあとにかく俺達はオールに万が一の事が起きないようにあらゆる手を尽くしてる。わざわざ天聖軍のトップにさせたんにもめちゃめちゃ意味があるんや」

「全能はその時に最適な能力が自動で発動できる便利さの代わりにそれぞれの能力の理解や応用が浅い。意識してないと毎回毎回別の能力が発動するもんやから成長がないんや。でも天聖軍の中でいろんな天聖者が能力を活用しているのを見聞きしたら、その活用とか応用をお前ができるようになるんや。俺たちアンタッチャブルと一緒にいても周りにいる天聖者の人数がはるかに少ないし、俺達の戦い方はほとんどが自分の罪名を活用したもんやから、そもそもオールには真似できひん可能性が高い。将来的にオールが色んな奴と一人で戦うことを考えると天聖軍に入れるのが一番やった」
「……なるほど」
「あとは打算的な話もぎょおさんあるわ。軽くでも俺らの追体験をしといてもらえりゃ味方にしやすいやろうなあとか、億を超える人を殺させときゃ、開き直ってどんな酷い選択肢でも選べるようになるやろなあとか」
「それだけのためにたくさんの人の命を僕に奪わせたのか!?」
 ダウターの胸ぐらを掴んで至近距離で睨みつける。しかしダウターは僕の怒りなど気にしていないようで全く動じていない。
「そうやで。転生を無くすためになら俺らは何でもやるし、オールにも何でもやってもらう。意味があるなら億だろうが兆だろうが殺してもらう。そもそもその程度の数は今やたくさんでもないし多くもないんや。まじで転生世界は無限に広がってる。まあこの辺は実感せん限りは理解できんかもしれんけどな」
「……どうなったって理解できるもんか」
 突き飛ばすように彼の服から手を離す。ダウターは仕方がないと言った風に肩をすくめた。
「嫌でも理解するときが来る。この世界を壊したあと、オールはブレイカーと一緒に行動してもらうからな。そこでブレイカーの味わった地獄も聞いたってくれや。……もしブレイカーも俺みたいに助けることが出来たその時には、リーダーの事も含めて色んなことが理解できるようになるからな」
「……」
 
「よお! 遅くなったね!」
 重苦しい沈黙を吹き飛ばすような声が聞こえた。ついで教会の入り口のドアが開く。
「さあさあこの世界も壊すんだろ? ……ん? なんだ随分ガキどもが多いじゃないか! いいのかい? ぶち壊しちまって!」
「おお、もうお別れは済んだからな。いつもの通りにやってくれ」
 ダウターが導きの扉を召喚し、開く。
「はいはい! それじゃ出てった出てった! 巻き込まれたら死んじまうよ! さっさと出ていきな!」
 ダウターが扉に入り、その姿が見えなくなったのを確認してから僕も扉の中へと進む。到着するのは同じ場所なのだからこんな行為に意味などないのだが、何だか今は少しでも彼と距離をとっておきたかった。

 耳を塞ぎながら揺らめく銀の水面に身体を埋めていく。命と世界が壊れる音はやっぱり聞こえてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

魔拳のデイドリーマー

osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。 主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...