テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第三章

3-18 モンスター

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 天聖者達は皆一様に寝ている子供達を指差し、あれがゴブリンなどの小型モンスターだと言っている。
「キミ達にはアレがモンスターに見えるんだー?」
「はい……。あれは間違いなくモンスターです。クエスト目標の為攻撃の許可を頂けませんか……?」
「ダメでーす! キミ達はそこで待機ー!」
「かしこまりました……」
 呑気な声でブレイカー達が話している内容は到底理解できるようなものではなかった。天聖者達は子供達をモンスターと認識し、それをクエスト目標だとも話している。

「わかったか?」
 固まる僕に後ろからダウターが声をかけてきた。
「何が……?」
 薄々理解はしていたが、それを拒むように誤魔化す。
「こいつらが何をしに来たかの話よ。こいつらにはこの天使みたいな子供達がモンスターに見えてるらしいで? しかもこの子達を殺すためにわざわざ天聖界からお越しになられたんやってさ」
「いやいや……流石にそんな事はあり得ないでしょ? 僕が天聖軍にいた時もこんな年端も行かない子供達に何かをした事なんてなかった……」
「でもモンスターとか魔族は殺してきたんやろ?」
「それが何だって言うんだよ……。ダウター、変なことを言うのはやめてくれ」
 懇願するようにダウターを見つめる。彼がいつもの冗談を言う時のようにニヤニヤと笑っていてくれたらどれだけ幸せだっただろうか。しかし彼の表情は真剣そのものだった。
「いや、この天聖者達は操られてるんでしょ? だから変なこと言わせてるだけなんでしょ? みんなしてまた僕をからかってるんだ。ね? そうなんでしょ? また僕が自分でちゃんと真実が何か考えるためのテストとかなんでしょ?」
 ダウターに縋りつきながら尋ねる。目の前で起きていることが真実であるなんて到底信じることはできない。どうか嘘であってくれ。
「だから最初に言っといたやろ。直面しても信じられへんって。それにブレイカーの能力は人を操ったりするようなもんやない。こいつらが喋ってるんは全部そいつらがほんまに思って考えてることや」
「嘘だ……、嘘だよ……そんなの。僕は信じない。信じられない……」
 ヨロヨロと後ろに後退りながらそのばに崩れ落ちる。
「転生者がいなくなった世界の後始末って言うのは実はこう言うことや。モンスターも悪魔もそんなもん元々存在せん。全部ただの人間がそう見えてるだけの話や」
「……」
「俺らが転生者を殺した後にそのままほっとくと天聖軍が来て生きてる人間相手にめちゃくちゃしよるからや。転生者が消えてあんまり日数が経ってない時はこいつらみたいな簡単なクエストしかないけどな、時間が経てば経つほどどんどん内容がひどくなって結局最後は世界の人間皆殺しにしよる。自分も天聖学院におった時に大規模戦には参加したことあるんやろ?」
 ダウターの言葉でハカセ達の顔が思い出された。ダウターはあの時対峙していた魔族の大群が全員人間だと言いたいらしい。
「あり得ないよそんなの……」
 信じられるわけがない……。いや、そうじゃない。信じるわけにはいかないのだ。彼が言っていることが本当だとしたら、天聖者達は今まで一体どれだけの事をしてきたことになる?
「大規模戦になるとそりゃまあ酷い地獄が繰り広げられることになる。だから俺らは転生者を殺した後に、世界ごと全部破壊してるんや。その世界に生きる住人が痛みも苦しみも感じる暇さえなく一瞬で、世界ごと滅ぼしてるんや」
(荒唐無稽だ! あり得ないだろ……そんな救いのない話!)
「別におかしな話でもないやろ? 魔法とかチートがゴロゴロしてる世界で、なんで人間をモンスターに見せるような魔法がないと思う? オールだって使えるんちゃうか?」
 ……彼の言葉を受けて勝手に頭にスキルが浮かんでいくのを慌てて掻き消す。認めるわけにはいかないんだ……こんなことは。
「まあええわ。ここでなんぼ話したところで納得できるようなもんやないしな。こっからはブレイカーに任せるわ」
 今にも死にそうな気持ちになっている僕とは裏腹に、ブレイカーはブンブンと腕を振り回して笑っている。
「あんた達は狂ってるんだ……」
 言葉が勝手に口から溢れる。

 ダウターとブレイカーはそんな僕を見て、ただ悲しそうに笑っているだけだった。
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