テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第三章

3-15 天聖者襲来

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 はるか上空にいる攻撃者達は、ここからでは目視できないが間違いなく天聖者達だった。
「どうして天聖者がここに……?」
 疑問に考えを張り巡らせている間にも空からは次々と魔法が降り注いでくる。その数はかなりのものだが威力はそれほどでもないようで今のところ全てシールドで防げているが、これほど連続して攻撃を続けられるとこちらもシールドを張る以外に中々行動ができない。
「さあ、今考えなあかんことはなんや?」
 シールドが破られるとは全く考えていないのか、ダウターが笑いながら聞いてくる。
「相手の数、距離、詳細は把握したからどうやって倒すかとか?」
「いやいや、正直これぐらいの相手なら特別なことはせんでも倒せるやろ」
 確かに相手の攻撃は自分のシールドを貫けるような強いものではないようなので、実力的にも遥かに僕たちより下だろう。しかし能力者同士の戦いとはそういう地力の問題ではない部分がかなり多い。
「じゃあ相手の能力?」
「それは大事やけどな、天聖者がやりあうときは基本的に先手必勝なんや。相手の能力を調べるんやったら戦う前が一番ええ。もし相手が一撃必殺みたいな技もってたら能力知る前に死んでまうからな」
 ダウターがルービックキューブを召喚して戦闘状態に入る。
「まあとりあえず一人捕まえるか。シールドはそのままでええで」
 彼は一つだけをまっすぐ上空に飛ばす。僕のシールドとぶつかったときに消えてしまわないか心配していたが、そのルービックキューブは色も形も変えずに僕のシールドを全て通過していった。
「今のお相手みたいにこういう直線型の魔法を連続で撃ち続けるのはな、自分のいる方向を教えてるようなもんや。それだけで相手が殺し合いの素人やってわかる」
 ダウターは屋根に寝そべり上空を見つめている。僕のシールドが相手の魔法を無効化するたびにシールドに波紋が広がり、まるで水面のようだ。
「しかしオールのこのシールド、外から見ても中から見ても真っ黒にならんのはなんでや?
「え?」
「いや色って重ねたらどんどん黒に近づいていくやろ。でもオールのシールドはどっから見ても光る色を散りばめたきれーな色してる。まるでシャボン玉みたいや。不思議でしゃあないわ」
 言われてみれば確かにそうだ。虹を見た時に七色に見えるのは、色が重なるような角度から見ていないからであって、このシールドの様に自分を中心に色の違うシールドを張って行けば中から見た時に見える色はどんどん黒くなっていくはず。
「まあ魔法やスキルになんでとか言い出してもどうしようもないんやけどな。分身してるやつになんで二人に見えるんですか? って聞いてるようなもんや」
 魔法はイメージを形にしたものとハカセがいっていたのを思い出す。試しに七つのシールドを全て重ねてみると、それは一枚の真っ黒なシールドに変わった。
「おいおい、これじゃなんも見えんぞ」
 ダウターの文句に応えるように、塗りつぶされた黒色をしているシールドの色を透明の黒に変えてみる。
「はー、器用やなあ。まあこれも全方向にグラサンかけてるみたいで周りが見にくうてかなわんわ」
 シールドを元の七枚に戻した。それと同時にドサッという音が僕たちの後ろで鳴る。
「ほいいっちょ上がり」
 ダウターが屋根から降りて後方に消える。僕も見に行きたいがシールドを外すと魔法がもろに教会に当たってしまう。中に寝ている子供たちの事を考えるとまずはここを守ることが最優先だ。
「ほれ、天聖者様のお出ましやぞ」
 彼はすぐにまた僕の隣に戻ってきた。手には一人の男性の天聖者が抱えられている。真っ白に輝く美しい天聖の鎧は天聖者の証であり誇りだ。しかしその天聖者はパクパクとまるで陸にあげられた魚の様に口を大きく動かし、身体もビクビクと痙攣している。
「状態異常魔法を山ほど入れた俺のキューブをぶち込んでるからな、このままじゃすぐ死んでまうからなんか全能のお力でこいつを縛ったり行動不能にしてくださいませや」
 わけのわからない丁寧語とも敬語ともつかないような言葉で話すダウターの頼みを受けて、頭に浮かんだ非致死性のマヒを与えるロープを召喚して天聖者を縛る。
「しっかしそんなマヒのロープなんてどんな転生者が考えた能力なんやろなあ。多分ごっついスケベの変態やと思うで」
 などと訳の分からない事を言いながらダウターは縛られて全く動けなくなった天聖者を教会の中に入れる。彼を捕まえたのは天聖者がこの世界に来た理由を知るためだろうか?
「ほら、お仲間がやられたから残りの天聖者が突っ込んでくるで」
 そうだ。そういえば僕たちは天聖者達からの攻撃を受けていたんだった。シールドの中があまりに平和で少し呆けてしまっていた。上空からの攻撃もいつの間にか止まっていた。
 探知スキル派上空の天聖者が急速にこちらに落ちてきていることを示している。数は残り七人、結構な数だがどうするのだろうか?
「他の人たちも捕まえるの? それとも殺すの?」
 いつの間にか自分の口からあまりにも軽々しく殺すなどという言葉が出てきている。名実ともにアンタッチャブルの仲間入りといった感じだ。
「天聖者なんていちいち殺してもキリがないからいつもはまともに相手なんかしてないねんけどな、今回は先生の教会と兄弟達がおる。もう二、三人捕まえてあとは殺すわ。残り何人やって?」
「七人。僕たちの真上だよ」
「OKOK。オールはシールド出したまま自分の足元にだけアンチフィールド出せるか? 最初にやりあったとき俺のフィールド消したやつ」
「了解」
 ダウターが何をしようとしているのかはわからないが、今そんなことを聞いても仕方がない。素直に自分の真下にだけアンチフィールドを展開する。
「ほないくで」
 彼は両腕を指揮者の様に大きく振り回す。あのルービックキューブを操作している時の動きとまるで同じように見えたが、今回彼が発動したのは大量のフィールド魔法だ。
 ダウターはそれを僕たちの周りにどんどんと敷き詰めていく。僕の足元にはアンチフィールドが敷かれているので何の効果もないが、あっという間に教会の屋根は様々な色に輝くたくさんのフィールド魔法で埋め尽くされていった。
「ダウター、これは?」
 彼の意図が理解できずに尋ねる。しかしダウターはそれには答えず、笑いながら上空を指さした。
 彼の指につられて空を見ると、まだ距離があるが空に七つの天聖者の姿が確認できた。しかし何か様子がおかしい。こちらに向かって飛んできているというよりは、重力に任せて落下しているといった感じだ。全員姿勢もバラバラで、まさに自由落下といって差し支えないだろう。
「あいつらこのまま落ちてきよるから、なんかネットみたいなもん教会の上に出して受け止めてくれ。シールドももういらんわ」
 僕はシールドをすべて解除し、代わりに教会の上空に大きなネットを召喚した。七人の天聖者達はダウターの言葉通り、何の抵抗をすることもなく全員そのネットに墜落する。
「オール側の何人かは生きてると思うから、そいつらはさっきの奴と同じように縛っといてくれ」
 召喚したネットを天聖者達ごとゆっくりと教会横の空いた場所に降ろす。天聖者の様子を確認すると、ダウターの言った通りネットの中央から僕よりにいた3人は生きていて、ダウター側にいた四人は死んでいるようだった。
 一体何が起きたのかはさっぱりわからないが、言われた通りに生存者をロープで縛っていく。この3人も最初の一人と同じように口を力なくパクパクと動かしては、全身をビクつかせている。
 僕は再度探知スキルを発動させ、他に隠れている天聖者などがいないかを確認し、生きている天聖者を全員教会の中へと運び込んだ。
 

 
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