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第三章
3-4 張りぼての転生世界
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「さて、それではオールの能力の話だ」
僕はピースメイカーの口から放たれた『聖名』が持つ意味に圧倒されていた。アンタッチャブルがお互いに呼び合っている名前は、皆『~~する者』という意味の言葉だ、彼らが適当に付けた名前じゃないのなら、彼らも全員が聖名持ちなのだろうか。そして彼ら一人一人に一体どんな人生があったのだろうか。強く興味が沸いた。
「アンタッチャブル達はずっと探していた。転生時、己の持つ全ての欲望が解き放たれたときにも、平然と『何もほしくない』と言える人間を。俺たち聖名持ちとは真逆の、世界と自分をそのまま受け入れてきた人間を」
「一番最初にオールが導きの門を開けた時の事を思い出すな」
ダウターが呟いた。そういえばあの時は転送の為の扉は繋がらず、ただ後ろの壁がそのまま見えていただけだった。
「だからアンダーはお前に全能を与えた。能力は本人の欲望に引きずられる。何も欲しないお前だからこそ、全能をそのまま受け入れる事が出来たのだ」
…………僕は自分の目の前でぎゅっと手を握りしめる。
「ぶっちゃけ全能って無敵最強って感じちゃうやろ?」
ダウターがまたニヤニヤ笑いながら聞いてくる。
「ええ、まあ……そうですね。敵を目にして『死ね!』と思ってもそのまま敵が死んでくれるわけでもないし。蘇生ができるわけでもないし」
「それが全能、つまり『全ての能力』の限界だ。お前はこの天聖世界に存在する能力を全て自分の能力として使うことができるだけで、世界を自由に作り変えられるわけではない」
「……なるほど」
自分の持つ『全能』の意味を初めて理解できた。
「まあそれでも頭に描いた内容が実現可能なら、自動的にスキルが選ばれて発動するとかめちゃめちゃ強いけどな!」
「ただ問題は……」
「僕が馬鹿だとどうしようもないってことですね」
二人は大きく頷く。
「つまり天ぷら油がボウボウ燃えてるところに、水をぶっかけて消そうとするようなオツムではその能力もマイナスってことや」
自分で考えろ。ここまでに山ほど言われてきた言葉を思い出す。
「それでもその辺の天聖者ぐらいじゃ相手にならんやろうけどな。『攻撃を打ち消したい』って思うだけで自動的に同じもんがボーンとでて相殺してくれるんやろうし」
「物理攻撃無効に魔法攻撃無効だろ? 卑怯としか言いようがないな」
「でも天聖軍には無敵軍とか不死身軍ありましたよ」
「だいたいはその無効系スキル使って無敵とか不死身とか言ってるだけやろ。まあホンマに無敵とかきても俺はハメれると思うけど」
「それにルイナーがいる」
「そう! ルイナー! あいつとは絶対やりあうなよ。全能だろうが無敵だろうが秒で木っ端微塵にされるぞ」
「あの人ってそんなに強いんですか?」
「あいつは強いとか弱いとかじゃなくてそもそもの種が違うねん」
「額に角生えてますし……やっぱり鬼なんですか?」
「まあわかりやすく鬼ってことにしてるけど、そういうもんじゃないねんな。なんていうか……天聖者を殺すための存在……みたいなもんやねん」
「……うーん。それってアンタッチャブル達も同じでは?」
「あーなんていうかな。俺らは天聖者として過ごしていく中で、この転生ってもんに嫌気がさして壊そうとしてるんやけど、ルイナーは生まれた時から天聖者殺しなんよ」
「ダウター。オールは一体どれくらい理解できてるんだ?」
「そやなあ。納得できるかできんかは別にして、一回このへんでこの転生ってもんの説明しとこか。長くなるかもしれんけど」
ダウターは椅子に座り直し、ピースメイカーは結局お茶とお茶菓子を用意してくれた。
「転生とか始原の四聖とかは学院で話聞いたんやろ?」
「ええ、神が魔と戦う為に選ばれたのが始原の四聖で、彼らが最初の特別な四人の天聖者。その四聖が戦力増強のために選んでいったのが転生者で、転生者の中でも有能な人物を天聖者にして、さらに転生者を選ばせていった。ですよね」
「そう、で始原の四聖は何をとち狂ったか神を裏切って殺して呪われた。その一人が『ホールダー』、まあわかってると思うけどうちのリーダーやな」
「リーダーが最初の神を殺した張本人なんですね」
「そうそう。そんで始原の四聖のもう一人が俺」
「…………えええええ!」
「そんな驚くことでもないやろ。元天聖者で天聖軍裏切ってる奴らなんて俺らアンタッチャブルとその仲間ぐらいやし」
「まあ……確かに」
「残りの二人はそん時になったら自分で言い出すやろ。そこはどうでもええねん。問題は『なんで転生が嫌になったか』やろ?」
「そうですね。転生者にクズがいる、だからそいつらは殺すってのはギリギリ理解できますけど、転生自体全てなくすところまで行くのがわかりません」
「リーダーも元々はバリバリの聖名持ちの最強天聖者でな。俺らがリーダーって呼んでるのはアンタッチャブルのまとめ役だからじゃなくて、『Leader』、つまり『導く者』っていう聖名持ちやってん。今はバリバリ呪われて『Holder』、『保持する者』って罪名に変えられて、記憶も罪も全部捨てられずに背負うことになってるんやけどな。もちろんリーダーの能力は俺が説明するわけにもいかんから本人に聞いてくれ」
「ほんで俺らは色んな世界に飛びまくってたんやけど、だんだんおかしなことに気づき始めてん」
「おかしなことですか?」
「そう。どこの世界にいっても余りにも地球と似すぎてる。中にはまるで全部同じ世界もあったわ。重力、空気の構成成分、鉄や銅といった鉱物に食物連鎖のピラミッドまで、まるで一緒や。……ありえるか? 全く違う場所の世界がここまで完全に一致する事なんて。しかも一つや二つやない、千や万って数やぞ?」
「もちろんエルフやドワーフ、妖精からキノコ人間まで地球に存在しない生物や鉱物がある世界もある。でも基本的な根っこは全部地球と一緒や。太陽や月は当たり前に存在して光ってるし、水は熱を加えたら沸騰するし冷やしたら凍る。高いところへ登れば空気は薄くなり、炎に焼かれた木々は黒い炭になる。そんな当たり前のことがちゃんと全部の世界で当たり前のように起きる。これが示すことはたった一つ」
「転生世界は全部地球を元にしたコピーや」
ゴクリ、と唾を飲み込むしかできなかった。今僕がいるピースメイカーの世界も、他のたくさんの世界も、全部地球のコピーだっていうのか?
「転生者は導きの門を開く。その時にあの扉は転生者の希望する世界に道を繋ぐんやない、地球をコピーして転生者の希望通りにいじくるだけや。ダンジョンが欲しけりゃダンジョンを作り、エルフが欲しけりゃ配置する。元々ダンジョンやエルフがいる世界を探してるわけやないんや」
「考えても見ろや、転生者の数はどれぐらいいる? その全員の希望そのまんまの世界がその数だけ存在すると思うか? そんなわけないやろ」
「始原の四聖は神にそれを問い質しに行った。そしたら神はおっきな鏡を召喚してな、そこに今までの俺たちの活動を映し出した。でもそこに映ってたのは地獄という言葉が生ぬるいどころではないほどの光景やった……」
「何が映ってたかは今は言えん。それにお前も実はもう一回はその地獄を見てるんや。……とにかく俺たちは神を殺して逃げた。逃げながらずっと考えてた。この転生は一体何のためにあるのかと。人は何のために生まれてきたのかと」
「人が何かをする時、そこにはきちんとした目的がある。ロボットを作るなら人間に出来ない作業をするし、犬や猫をペットにするなら狩猟だったり癒しのためや。栓抜きは指だけじゃ開けられないビールの栓を抜くためにあるし、缶切りは缶を開けるためや」
「じゃあ転生は? 闇より這い出る魔族を倒すため? 元となる地球に魔族がおったか? 闇から魔族が這い出て人間を殺して回ってたか? 地球がベースになっているのなら、魔族もエルフやドワーフと同じで後から付け足されただけの存在ちゃうんか?」
「神様が動物や人間を造り出した理由はなんや? 神様ができないことをやってもらうため? 全知全能の神に出来ない事なんてあるか? 何故人間は七つも大罪を持たされて生まれてきた?」
「人間はな、失敗する為に生まれてきたんや」
僕はピースメイカーの口から放たれた『聖名』が持つ意味に圧倒されていた。アンタッチャブルがお互いに呼び合っている名前は、皆『~~する者』という意味の言葉だ、彼らが適当に付けた名前じゃないのなら、彼らも全員が聖名持ちなのだろうか。そして彼ら一人一人に一体どんな人生があったのだろうか。強く興味が沸いた。
「アンタッチャブル達はずっと探していた。転生時、己の持つ全ての欲望が解き放たれたときにも、平然と『何もほしくない』と言える人間を。俺たち聖名持ちとは真逆の、世界と自分をそのまま受け入れてきた人間を」
「一番最初にオールが導きの門を開けた時の事を思い出すな」
ダウターが呟いた。そういえばあの時は転送の為の扉は繋がらず、ただ後ろの壁がそのまま見えていただけだった。
「だからアンダーはお前に全能を与えた。能力は本人の欲望に引きずられる。何も欲しないお前だからこそ、全能をそのまま受け入れる事が出来たのだ」
…………僕は自分の目の前でぎゅっと手を握りしめる。
「ぶっちゃけ全能って無敵最強って感じちゃうやろ?」
ダウターがまたニヤニヤ笑いながら聞いてくる。
「ええ、まあ……そうですね。敵を目にして『死ね!』と思ってもそのまま敵が死んでくれるわけでもないし。蘇生ができるわけでもないし」
「それが全能、つまり『全ての能力』の限界だ。お前はこの天聖世界に存在する能力を全て自分の能力として使うことができるだけで、世界を自由に作り変えられるわけではない」
「……なるほど」
自分の持つ『全能』の意味を初めて理解できた。
「まあそれでも頭に描いた内容が実現可能なら、自動的にスキルが選ばれて発動するとかめちゃめちゃ強いけどな!」
「ただ問題は……」
「僕が馬鹿だとどうしようもないってことですね」
二人は大きく頷く。
「つまり天ぷら油がボウボウ燃えてるところに、水をぶっかけて消そうとするようなオツムではその能力もマイナスってことや」
自分で考えろ。ここまでに山ほど言われてきた言葉を思い出す。
「それでもその辺の天聖者ぐらいじゃ相手にならんやろうけどな。『攻撃を打ち消したい』って思うだけで自動的に同じもんがボーンとでて相殺してくれるんやろうし」
「物理攻撃無効に魔法攻撃無効だろ? 卑怯としか言いようがないな」
「でも天聖軍には無敵軍とか不死身軍ありましたよ」
「だいたいはその無効系スキル使って無敵とか不死身とか言ってるだけやろ。まあホンマに無敵とかきても俺はハメれると思うけど」
「それにルイナーがいる」
「そう! ルイナー! あいつとは絶対やりあうなよ。全能だろうが無敵だろうが秒で木っ端微塵にされるぞ」
「あの人ってそんなに強いんですか?」
「あいつは強いとか弱いとかじゃなくてそもそもの種が違うねん」
「額に角生えてますし……やっぱり鬼なんですか?」
「まあわかりやすく鬼ってことにしてるけど、そういうもんじゃないねんな。なんていうか……天聖者を殺すための存在……みたいなもんやねん」
「……うーん。それってアンタッチャブル達も同じでは?」
「あーなんていうかな。俺らは天聖者として過ごしていく中で、この転生ってもんに嫌気がさして壊そうとしてるんやけど、ルイナーは生まれた時から天聖者殺しなんよ」
「ダウター。オールは一体どれくらい理解できてるんだ?」
「そやなあ。納得できるかできんかは別にして、一回このへんでこの転生ってもんの説明しとこか。長くなるかもしれんけど」
ダウターは椅子に座り直し、ピースメイカーは結局お茶とお茶菓子を用意してくれた。
「転生とか始原の四聖とかは学院で話聞いたんやろ?」
「ええ、神が魔と戦う為に選ばれたのが始原の四聖で、彼らが最初の特別な四人の天聖者。その四聖が戦力増強のために選んでいったのが転生者で、転生者の中でも有能な人物を天聖者にして、さらに転生者を選ばせていった。ですよね」
「そう、で始原の四聖は何をとち狂ったか神を裏切って殺して呪われた。その一人が『ホールダー』、まあわかってると思うけどうちのリーダーやな」
「リーダーが最初の神を殺した張本人なんですね」
「そうそう。そんで始原の四聖のもう一人が俺」
「…………えええええ!」
「そんな驚くことでもないやろ。元天聖者で天聖軍裏切ってる奴らなんて俺らアンタッチャブルとその仲間ぐらいやし」
「まあ……確かに」
「残りの二人はそん時になったら自分で言い出すやろ。そこはどうでもええねん。問題は『なんで転生が嫌になったか』やろ?」
「そうですね。転生者にクズがいる、だからそいつらは殺すってのはギリギリ理解できますけど、転生自体全てなくすところまで行くのがわかりません」
「リーダーも元々はバリバリの聖名持ちの最強天聖者でな。俺らがリーダーって呼んでるのはアンタッチャブルのまとめ役だからじゃなくて、『Leader』、つまり『導く者』っていう聖名持ちやってん。今はバリバリ呪われて『Holder』、『保持する者』って罪名に変えられて、記憶も罪も全部捨てられずに背負うことになってるんやけどな。もちろんリーダーの能力は俺が説明するわけにもいかんから本人に聞いてくれ」
「ほんで俺らは色んな世界に飛びまくってたんやけど、だんだんおかしなことに気づき始めてん」
「おかしなことですか?」
「そう。どこの世界にいっても余りにも地球と似すぎてる。中にはまるで全部同じ世界もあったわ。重力、空気の構成成分、鉄や銅といった鉱物に食物連鎖のピラミッドまで、まるで一緒や。……ありえるか? 全く違う場所の世界がここまで完全に一致する事なんて。しかも一つや二つやない、千や万って数やぞ?」
「もちろんエルフやドワーフ、妖精からキノコ人間まで地球に存在しない生物や鉱物がある世界もある。でも基本的な根っこは全部地球と一緒や。太陽や月は当たり前に存在して光ってるし、水は熱を加えたら沸騰するし冷やしたら凍る。高いところへ登れば空気は薄くなり、炎に焼かれた木々は黒い炭になる。そんな当たり前のことがちゃんと全部の世界で当たり前のように起きる。これが示すことはたった一つ」
「転生世界は全部地球を元にしたコピーや」
ゴクリ、と唾を飲み込むしかできなかった。今僕がいるピースメイカーの世界も、他のたくさんの世界も、全部地球のコピーだっていうのか?
「転生者は導きの門を開く。その時にあの扉は転生者の希望する世界に道を繋ぐんやない、地球をコピーして転生者の希望通りにいじくるだけや。ダンジョンが欲しけりゃダンジョンを作り、エルフが欲しけりゃ配置する。元々ダンジョンやエルフがいる世界を探してるわけやないんや」
「考えても見ろや、転生者の数はどれぐらいいる? その全員の希望そのまんまの世界がその数だけ存在すると思うか? そんなわけないやろ」
「始原の四聖は神にそれを問い質しに行った。そしたら神はおっきな鏡を召喚してな、そこに今までの俺たちの活動を映し出した。でもそこに映ってたのは地獄という言葉が生ぬるいどころではないほどの光景やった……」
「何が映ってたかは今は言えん。それにお前も実はもう一回はその地獄を見てるんや。……とにかく俺たちは神を殺して逃げた。逃げながらずっと考えてた。この転生は一体何のためにあるのかと。人は何のために生まれてきたのかと」
「人が何かをする時、そこにはきちんとした目的がある。ロボットを作るなら人間に出来ない作業をするし、犬や猫をペットにするなら狩猟だったり癒しのためや。栓抜きは指だけじゃ開けられないビールの栓を抜くためにあるし、缶切りは缶を開けるためや」
「じゃあ転生は? 闇より這い出る魔族を倒すため? 元となる地球に魔族がおったか? 闇から魔族が這い出て人間を殺して回ってたか? 地球がベースになっているのなら、魔族もエルフやドワーフと同じで後から付け足されただけの存在ちゃうんか?」
「神様が動物や人間を造り出した理由はなんや? 神様ができないことをやってもらうため? 全知全能の神に出来ない事なんてあるか? 何故人間は七つも大罪を持たされて生まれてきた?」
「人間はな、失敗する為に生まれてきたんや」
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