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第二章
2-13 それぞれの道
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巨人の身体のほとんどはこの世から消えてなくなった。敵が回復や増殖の類を行っていないことを確認し、ハカセと共に女神様のいらっしゃったあの崖上まで転移して戻る。
「オール、ハカセの両名ただいま敵の討伐を完了いたしました」
女神様の足元に跪き報告する。
「見事であった。お前の以前の姿を思い出したぞ」
「女神様、いくつかお伺いしたいことがございます」
「よい。しかし後だ」
「畏まりました!」
女神様と私、そしてハカセは崖下の天聖軍のところへ転移する。
魔族の討伐とお互いの無事を喜んでいた天聖者達は、女神様の姿に気づくと瞬時に跪き臣下の礼を取った。
「皆の者ご苦労であった」
女神様が戦いの後かけてくださるお言葉はいつも決まってこれだけだ。しかしこれだけで我々は何度でも戦える。この言葉だけで胸の底から震えるほどの歓喜と覚悟が沸きあがり、鎧はその決意にまた眩く輝くのだ。死んでしまった者達も本望だろう、世界と人々の為にその命を使うことができたのだから。
しかし何故か私の鎧だけ輝きが鈍い。女神様に記憶を戻していただくまでの私と今の私はまるで別人なので、そのあたりでうまく鎧と同調できていないのかもしれない。
天聖軍と学院の仲間たちは導きの門から次々に元の場所へと戻っていく。私はゴエモン達に先に戻るよう伝え、女神様の元へと足を運んだ。
「お時間をお取り頂き申し訳ございません」
「よい、申せ」
「は! 私は天聖第一軍軍団長としてアンタッチャブル共を殲滅したところまでは覚えております。それ以後私はどうなったのでしょうか」
「今は言えぬ」
「私を学院に送り出したのは、記憶の限りその私が殺したアンタッチャブル達でございます。女神様と何かご関係がおありなのでしょうか?」
「今は言えぬ」
「天聖者をまとめて吹き飛ばすほどの魔物を私は見たことがありませぬ。あれは一体?」
「今は言えぬ」
「私はこれからどのようにすればよろしいのでしょうか」
「追って沙汰を申し付ける」
「は! 畏まりました! 私は今一度学院まで戻りご指示を待つことにいたします!」
導きの門を召喚し……ようとしたができなかった。あれは天聖者でなければ出せない事を思い出し、私が今ただの転生者であることを実感する。大変に畏れ多くも女神様にお出しいただき、私は学院に戻ることができた。
F組の教室に戻り、クラスメイトと再会する。聞きたいことは山ほどあるだろうが、まずは皆の生還を喜び、硬い握手を交わす。
「あー、えっと。俺……その……オール、いやオールさんがそんなすごい人とは知らなくてよ、いや知りませんで。すまな……いやすみませんでした」
ゴエモンのめちゃくちゃな丁寧語につい苦笑してしまう。
「ハハハ。やめてくれよゴエモン。そんな調子で話されたらこっちまでおかしくなってしまう」
その一言にゴエモンの表情はパッと明るくなった。
「お! いいのか!? だよな! 俺たちは俺たちだもんな!」
「ああ、もちろんだ。それにお偉いさんとして天聖軍で働いてた記憶はあるが、それが実際にいつの話の事なのかはまるでわからない。今は存在していないとされている蘇生やリセットが実はあったとして、蘇生なら天聖者から転生者に戻るわけがないし、リセットだとしたら戻る位置が遠すぎる。それに女神様を初め私の事を覚えている者もいた。リセットなら私に対する記憶は消えているはずだから、やはり辻褄が合わない」
アンタッチャブルの名前などは出さないことにしておく。女神様は私の成すべきことを実に雄弁に語ってくださった。今は言えぬ事ならただ待てばよいのだ。
「お、オール殿のその強力な魔力の理由は、め、女神様のお力が混ざっているからだったのですね。な、ならば全能などというとんでもない力を持っていることも、な、納得できます」
そういえば以前ハカセは私の魔力には私自身の物以外も混ざっていると言っていた。あれは女神様のお力であったのか。手を胸の前で組み、目をつぶり感謝の意を捧げる。
私の過去……で合っているのかはわからないが、天聖軍で起きた出来事などをたのしく話していると、バンコが私の肩をチョンチョンとつつく。そのモジモジとしたいつもの様子に意識をリンクさせていた間の事を思い返す。あの時は元気よくたくさん喋っていたはずなのだが、実際に声を出すのは恥ずかしいのだろうか。
そのバンコは小さなぬいぐるみをいくつか持っていた。なんだろうとよく見てみると、それは私たちの姿をかわいらしくデフォルメした人形だった。空いた時間に縫物をしていたのはこれを作っていたのだろうか。
バンコはそれを押し付けるようにそれぞれに渡し、じっと私の目を見てきた。彼らもなんとなく、私がこれから別の道を行くことを理解しているのかもしれない。
「お……お前……! どんなに偉くなったとしても、俺たちの事……! 忘れるんじゃねえぞ……!」
ゴエモンは上を向いたまま、何かを必死にこらえながら強がって見せる。
「お、お、お、お、お、お、お、お、オール殿~!」
ハカセは感情と頭にまったく口が付いて行けていない。
「……忘れないでね……」
バンコはとても小さな声で、それでも一生懸命に言葉を紡いでくれた。
忘れるものか。
私は返事の代わりに再び彼ら一人一人と固く、強く握手を交わした。そして互いに頷き、私はF組からゆっくりと去っていく。私のこれからを気遣う声が、いつまでも……いつまでも後ろから聞こえ続けた。
「オール、ハカセの両名ただいま敵の討伐を完了いたしました」
女神様の足元に跪き報告する。
「見事であった。お前の以前の姿を思い出したぞ」
「女神様、いくつかお伺いしたいことがございます」
「よい。しかし後だ」
「畏まりました!」
女神様と私、そしてハカセは崖下の天聖軍のところへ転移する。
魔族の討伐とお互いの無事を喜んでいた天聖者達は、女神様の姿に気づくと瞬時に跪き臣下の礼を取った。
「皆の者ご苦労であった」
女神様が戦いの後かけてくださるお言葉はいつも決まってこれだけだ。しかしこれだけで我々は何度でも戦える。この言葉だけで胸の底から震えるほどの歓喜と覚悟が沸きあがり、鎧はその決意にまた眩く輝くのだ。死んでしまった者達も本望だろう、世界と人々の為にその命を使うことができたのだから。
しかし何故か私の鎧だけ輝きが鈍い。女神様に記憶を戻していただくまでの私と今の私はまるで別人なので、そのあたりでうまく鎧と同調できていないのかもしれない。
天聖軍と学院の仲間たちは導きの門から次々に元の場所へと戻っていく。私はゴエモン達に先に戻るよう伝え、女神様の元へと足を運んだ。
「お時間をお取り頂き申し訳ございません」
「よい、申せ」
「は! 私は天聖第一軍軍団長としてアンタッチャブル共を殲滅したところまでは覚えております。それ以後私はどうなったのでしょうか」
「今は言えぬ」
「私を学院に送り出したのは、記憶の限りその私が殺したアンタッチャブル達でございます。女神様と何かご関係がおありなのでしょうか?」
「今は言えぬ」
「天聖者をまとめて吹き飛ばすほどの魔物を私は見たことがありませぬ。あれは一体?」
「今は言えぬ」
「私はこれからどのようにすればよろしいのでしょうか」
「追って沙汰を申し付ける」
「は! 畏まりました! 私は今一度学院まで戻りご指示を待つことにいたします!」
導きの門を召喚し……ようとしたができなかった。あれは天聖者でなければ出せない事を思い出し、私が今ただの転生者であることを実感する。大変に畏れ多くも女神様にお出しいただき、私は学院に戻ることができた。
F組の教室に戻り、クラスメイトと再会する。聞きたいことは山ほどあるだろうが、まずは皆の生還を喜び、硬い握手を交わす。
「あー、えっと。俺……その……オール、いやオールさんがそんなすごい人とは知らなくてよ、いや知りませんで。すまな……いやすみませんでした」
ゴエモンのめちゃくちゃな丁寧語につい苦笑してしまう。
「ハハハ。やめてくれよゴエモン。そんな調子で話されたらこっちまでおかしくなってしまう」
その一言にゴエモンの表情はパッと明るくなった。
「お! いいのか!? だよな! 俺たちは俺たちだもんな!」
「ああ、もちろんだ。それにお偉いさんとして天聖軍で働いてた記憶はあるが、それが実際にいつの話の事なのかはまるでわからない。今は存在していないとされている蘇生やリセットが実はあったとして、蘇生なら天聖者から転生者に戻るわけがないし、リセットだとしたら戻る位置が遠すぎる。それに女神様を初め私の事を覚えている者もいた。リセットなら私に対する記憶は消えているはずだから、やはり辻褄が合わない」
アンタッチャブルの名前などは出さないことにしておく。女神様は私の成すべきことを実に雄弁に語ってくださった。今は言えぬ事ならただ待てばよいのだ。
「お、オール殿のその強力な魔力の理由は、め、女神様のお力が混ざっているからだったのですね。な、ならば全能などというとんでもない力を持っていることも、な、納得できます」
そういえば以前ハカセは私の魔力には私自身の物以外も混ざっていると言っていた。あれは女神様のお力であったのか。手を胸の前で組み、目をつぶり感謝の意を捧げる。
私の過去……で合っているのかはわからないが、天聖軍で起きた出来事などをたのしく話していると、バンコが私の肩をチョンチョンとつつく。そのモジモジとしたいつもの様子に意識をリンクさせていた間の事を思い返す。あの時は元気よくたくさん喋っていたはずなのだが、実際に声を出すのは恥ずかしいのだろうか。
そのバンコは小さなぬいぐるみをいくつか持っていた。なんだろうとよく見てみると、それは私たちの姿をかわいらしくデフォルメした人形だった。空いた時間に縫物をしていたのはこれを作っていたのだろうか。
バンコはそれを押し付けるようにそれぞれに渡し、じっと私の目を見てきた。彼らもなんとなく、私がこれから別の道を行くことを理解しているのかもしれない。
「お……お前……! どんなに偉くなったとしても、俺たちの事……! 忘れるんじゃねえぞ……!」
ゴエモンは上を向いたまま、何かを必死にこらえながら強がって見せる。
「お、お、お、お、お、お、お、お、オール殿~!」
ハカセは感情と頭にまったく口が付いて行けていない。
「……忘れないでね……」
バンコはとても小さな声で、それでも一生懸命に言葉を紡いでくれた。
忘れるものか。
私は返事の代わりに再び彼ら一人一人と固く、強く握手を交わした。そして互いに頷き、私はF組からゆっくりと去っていく。私のこれからを気遣う声が、いつまでも……いつまでも後ろから聞こえ続けた。
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