42 / 107
第二章
2-11 反撃
しおりを挟む
攻撃を再開できるようになったものの、両軍の距離はかなり詰められてしまい、もはや肉弾戦は避けられぬであろう事が予想された。
今や高火力広範囲の攻撃は、味方の巻き添えを防ぐ為相手の後方に落とすしかなく、その進軍を留めることは不可能になってしまったのだ。
天聖軍は防御の準備を着々と進め、方陣の四方全ての方向に対して迎撃の態勢を取っている。
未だに数で勝る魔族達はあっという間に天聖軍を取り囲み、ついに近接戦闘が始まってしまった。外周をタンクとアタッカー、その後ろにメイジやアーチャー、ヒーラーが構え、飛行が可能なものはまた空へ飛びながら制空権の確保に努めている。
「しかしこれは……」
あらゆる方向から黒い津波のように押し寄せる魔物達、しかしその波は白い防波堤に触れるだけで飛沫となって消えていく。今までの流れを見ているだけだった剣士や闘士達が、待ってましたとばかりにその力を奮っているのだ。
魔物の攻撃は全て盾やシールドで完全に防がれ、反対に天聖者が刀を振れば扇形に、槍を突き出せば長方形に、その得物を動かすごとに魔物の群れにポッカリと穴が開いていく。
五十万の主人公達は思い思いにその実力を相手に見せつけ、次第に魔物達の数もこちらと変わらないぐらいに減っていた。包囲もいつの間にか解かれており、今やまた開戦時と同じように互いに正対している。変わったことといえば魔物の数ぐらいで、天聖軍はまるで無傷のようだ。
「終わってみれば何ということもない戦いだったか」
距離を開けていても一方的に攻撃されるばかりの魔物達は、ついに最後の玉砕を始めた。熱した鉄板に垂らした水滴のように蒸発していく奴らを確認し、お祝いの言葉を考えながら女神様の方に振り返る。女神様は表情を一切崩すことなく、遥か彼方の一点を凝視し続けていた。
慌ててその視線の先を追うと、そこには出現以来微動だにしていなかったあの巨人がいた。いや、よく見るといつの間にかその手には棍棒のようなものが握られており、それを振り上げている。
しかしだから何だというのか、彼我の距離はまさに地平線のかなたであり、奴があそこで何をしたとしてもそれは意味をなさないだろう。確かに生き残りがいる事は宜しくないし、逃すなよという意味でアレを見てらっしゃるのだろう。
味方はそろそろ殲滅を終えているだろう、あとは適当な人数であのデカブツを倒して終わりだ。
天聖軍は相変わらず美しい方陣を維持したまま、魔物の掃討を終えるところだった。彼らも勿論あの巨大な人の形をした魔物の事は認識しているようで、ゆっくりと前進を始めた。
「全軍でとは慎重だな」
相手のサイズがサイズだけに念を入れているのであろう。天聖者が一人減るだけで世界にとってはあまりに大きな損失となるので、これぐらい慎重である方が良いのかもしれない。
そんなことを考えながら天聖軍を眺めていると、美しい正方形を保っていた方陣の正面部分が削れた。始めは進軍速度を上げるために布陣を変えただけかなと思っていたのだが、しばらくしてまた陣の正面部分が削れる。
何が起きたんだ? と呆けていると、ハカセが大慌てで答えを教えてくれた。
「あのデカイやつです! あいつの攻撃です!」
確かにあの巨人はさっき振り上げていた腕を下ろしている。しかしたったそれだけで天聖者をまとめて倒せたりするはずがない! 彼らは皆が言葉通り一騎当千の勇者達なのだ!
そんなことを言っている間にも、やつは再度腕を振り上げようとしている。天聖軍もさっきの二回で前衛が尽く消えてしまったらしく、もはやまともな陣形を取る事ができていなかった。
それでも逃げ出したりするものが見当たらないのは流石だが、このままでは全滅してしまう。
「女神様……!」
事ここに至ってはもはや試練などと言っている場合ではないはずだ。
しかし女神様はやはり表情を変えることもなくこう言いました。
「F組よ、真価を発揮する時が来ました」
そして我々の一人ずつに話しかけていきます。
「ゴエモンよ。守る者が多いほど強くならお前の盾で天聖者達を守りなさい」
「バンコよ。涙の数だけ強くなる癒しの力で天聖者を癒しなさい」
二人は頷き、未だ陣が立て直せずにいる天聖軍へ向かって飛んで行きました。
「ハカセよ。言葉さえ置き去りにするお前の知恵でオールを助けなさい」
「そしてオール。全能のオールよ。貴方の力の封印を今解きます」
女神様は私の手をお取りになりました。するとそこからまばゆいばかりの光が溢れ、私は自分の能力の事を全て仔細に思い出したのです。
「行きなさい。Fortitudeよ」
私とハカセは、今また腕を振り下ろさんとしている巨人に向かって飛び立ちました。
今や高火力広範囲の攻撃は、味方の巻き添えを防ぐ為相手の後方に落とすしかなく、その進軍を留めることは不可能になってしまったのだ。
天聖軍は防御の準備を着々と進め、方陣の四方全ての方向に対して迎撃の態勢を取っている。
未だに数で勝る魔族達はあっという間に天聖軍を取り囲み、ついに近接戦闘が始まってしまった。外周をタンクとアタッカー、その後ろにメイジやアーチャー、ヒーラーが構え、飛行が可能なものはまた空へ飛びながら制空権の確保に努めている。
「しかしこれは……」
あらゆる方向から黒い津波のように押し寄せる魔物達、しかしその波は白い防波堤に触れるだけで飛沫となって消えていく。今までの流れを見ているだけだった剣士や闘士達が、待ってましたとばかりにその力を奮っているのだ。
魔物の攻撃は全て盾やシールドで完全に防がれ、反対に天聖者が刀を振れば扇形に、槍を突き出せば長方形に、その得物を動かすごとに魔物の群れにポッカリと穴が開いていく。
五十万の主人公達は思い思いにその実力を相手に見せつけ、次第に魔物達の数もこちらと変わらないぐらいに減っていた。包囲もいつの間にか解かれており、今やまた開戦時と同じように互いに正対している。変わったことといえば魔物の数ぐらいで、天聖軍はまるで無傷のようだ。
「終わってみれば何ということもない戦いだったか」
距離を開けていても一方的に攻撃されるばかりの魔物達は、ついに最後の玉砕を始めた。熱した鉄板に垂らした水滴のように蒸発していく奴らを確認し、お祝いの言葉を考えながら女神様の方に振り返る。女神様は表情を一切崩すことなく、遥か彼方の一点を凝視し続けていた。
慌ててその視線の先を追うと、そこには出現以来微動だにしていなかったあの巨人がいた。いや、よく見るといつの間にかその手には棍棒のようなものが握られており、それを振り上げている。
しかしだから何だというのか、彼我の距離はまさに地平線のかなたであり、奴があそこで何をしたとしてもそれは意味をなさないだろう。確かに生き残りがいる事は宜しくないし、逃すなよという意味でアレを見てらっしゃるのだろう。
味方はそろそろ殲滅を終えているだろう、あとは適当な人数であのデカブツを倒して終わりだ。
天聖軍は相変わらず美しい方陣を維持したまま、魔物の掃討を終えるところだった。彼らも勿論あの巨大な人の形をした魔物の事は認識しているようで、ゆっくりと前進を始めた。
「全軍でとは慎重だな」
相手のサイズがサイズだけに念を入れているのであろう。天聖者が一人減るだけで世界にとってはあまりに大きな損失となるので、これぐらい慎重である方が良いのかもしれない。
そんなことを考えながら天聖軍を眺めていると、美しい正方形を保っていた方陣の正面部分が削れた。始めは進軍速度を上げるために布陣を変えただけかなと思っていたのだが、しばらくしてまた陣の正面部分が削れる。
何が起きたんだ? と呆けていると、ハカセが大慌てで答えを教えてくれた。
「あのデカイやつです! あいつの攻撃です!」
確かにあの巨人はさっき振り上げていた腕を下ろしている。しかしたったそれだけで天聖者をまとめて倒せたりするはずがない! 彼らは皆が言葉通り一騎当千の勇者達なのだ!
そんなことを言っている間にも、やつは再度腕を振り上げようとしている。天聖軍もさっきの二回で前衛が尽く消えてしまったらしく、もはやまともな陣形を取る事ができていなかった。
それでも逃げ出したりするものが見当たらないのは流石だが、このままでは全滅してしまう。
「女神様……!」
事ここに至ってはもはや試練などと言っている場合ではないはずだ。
しかし女神様はやはり表情を変えることもなくこう言いました。
「F組よ、真価を発揮する時が来ました」
そして我々の一人ずつに話しかけていきます。
「ゴエモンよ。守る者が多いほど強くならお前の盾で天聖者達を守りなさい」
「バンコよ。涙の数だけ強くなる癒しの力で天聖者を癒しなさい」
二人は頷き、未だ陣が立て直せずにいる天聖軍へ向かって飛んで行きました。
「ハカセよ。言葉さえ置き去りにするお前の知恵でオールを助けなさい」
「そしてオール。全能のオールよ。貴方の力の封印を今解きます」
女神様は私の手をお取りになりました。するとそこからまばゆいばかりの光が溢れ、私は自分の能力の事を全て仔細に思い出したのです。
「行きなさい。Fortitudeよ」
私とハカセは、今また腕を振り下ろさんとしている巨人に向かって飛び立ちました。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!
モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。
突然の事故で命を落とした主人公。
すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。
それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。
「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。
転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。
しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。
そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。
※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
魔拳のデイドリーマー
osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。
主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる