テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

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第二章

2-8 天聖軍クエスト

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「おぬしら、突然の招集すまんのう。なにしろ天聖軍からのお願いじゃ」
 ティーチャーからの急な呼び出しの理由が判明した時、グラウンドに集合した生徒たちからざわめきや歓喜の声が次々と上がる。
「しかもなんと今回はクラス制限なし、人数制限なし。来るもの拒まずの大盤振る舞いじゃ」
 生徒からの歓声はさらに一段と大きくなった。無理もない、天聖軍から回されるクエストに参加できる転生者の資格や人数はたいてい細かく定められている。軍からのクエストに参加したものは、天聖者の証ともいわれる天聖の鎧を借り受け、それを装備して現役天聖軍と肩を並べて戦えるのだ。クエスト求人倍率はいつも数十倍を超える事は当たり前で、なかなか経験出来る事ではない。
「天聖者を目指すおぬしらに、少しでも実地で経験を積ませてやろうと女神様からのありがたいご配慮じゃ。現在治療中の生徒も含めた全員を登録しておいた。機会は皆平等じゃ、当日までにゆっくりと治すがよい」
 喜びの声は最高潮となった。しかし僕はどうも他の生徒のように喜ぶ気になれない。F組のみんなも同じようで全員が暗い表情をしている。
「な、何かありますね。ま、間違いなく」
「そりゃなあ、誰でもいいから来てくれなんてクエスト普通は怖くて近寄れねえもんなのに、天聖軍クエストってことで他の奴らおおはしゃぎしてやがる。怪我人まで強制登録ってのも普通じゃありえねえぞ」
「本来は陣形の編成などもおぬしらにやってもらうべきなのじゃが、今回はあまりにも人数が多い。よってワシや教員たちでやっておく。後日配布するので間違いのないようよく確認後、各クラスで事前に訓練を行っておくように。それでは以上じゃ、解散」
 他の生徒たちは興奮冷めやらぬといった感じで何やら語りながら帰っていく。僕たちも教室に戻ったが、クエストの事が気がかりで雰囲気は暗かった。
 
 それから出発の日まではどのクラスもそれどころではなく模擬戦も中止となったので、僕たちは軍クエストの為に自分達にできることをするしかなかった。ハカセに少しずつ魔法を教えてもらい、さすがに攻撃魔法も簡単なものだが覚えることになった。
 
 出発の日はあっという間にやってきた。クラスごと役割ごとに分けられた部隊が綺麗に第一グラウンドに並ぶ。しかし他の部隊が十人単位で組まれていたのにもかかわらず、僕たちはF組はたった四人で一部隊とされていたため、どうみてもオマケ扱いでしかないことがよくわかった。
「それではこれから部隊ごとに天聖の鎧を配ります」
 生徒一人一人に純白に輝く鎧が配られいてく。これはきちんとF組の分も用意されていたのでひとまずは安心した。
 装備する方法を教えてもらい全員がその鎧を身に付けていく。どうやって計ったのかしらないが、サイズはそれぞれにぴったりに作られており、顔以外全て鎧で覆われているのに重さはみじんも感じなかった。

 そしてこの鎧を装備した時、僕は生まれ変わった。

 強烈な感情が心の奥底から沸きあがるのを感じる。女神様に対する忠誠など特に意識していなかった過去の自分に対する自責の念、これから向かうクエストに対する責任感、そして全身を包むこの正義感。今まさに私は天聖軍の一員になったことを心から理解したのだ。
「女神様の為に!」
 ティーチャーが大きく声を上げた。
「女神様の為に!!!」
 生徒全員が声を合わせて復唱する。それだけで身体が震えるほどの忠誠心が沸き起こり、鎧も純白の光を増して輝く。
「それでは順に天聖軍との合流地点に送る」
 ティーチャーが赤く大きな扉を召喚し開いた。我が戦友達が順々に、一糸乱れぬ行進でその扉へ入っていく光景に胸が高鳴る。あの先はきっともう戦場に繋がっているのだ。女神様に恥ずかしくない戦いをしなければならない。F組の皆もこれから起きる戦いへの高揚が抑えきれぬようで顔を随分と赤くしていた。
「行こう」
 F組の仲間たちと手を重ね、お互いに強く頷く。そして我々も力強く扉の中へ進んでいった。

 扉の先では、すでに偉大なる天聖者の方々がすでに布陣を終え、我々も順にその後方へ配属されているところだった。
「ハカセ、我々天聖軍は一体どれくらの規模かわかるかい?」
 この日の為に準備しておいたテレパシーでハカセと交信する。
「ここに配属されているのは天聖第五軍から第九軍まで。それぞれが十万規模なので合わせて五十万と我々といったところですな。学院で編成された生徒たちの部隊はすでに各軍に編入されているところのようであります」
 言葉で会話するよりはるかに速いスピードで意思の疎通が行われる。ハカセは自分の思考スピードに身体と口がついていかず、すぐにどもってしまう体質であったのだが、この手段なら彼の能力を最大限に引き出せる。教室では意識と意識を繋げる事に非常に苦労し、防御や他の行動まで手が回らず結果的にフォーメーションの瓦解に繋がることが多かったのだが、今はなぜかとてもスムーズに意識の接続が行えている。恐らくこの鎧が我々の能力を底上げし、連帯感を深めているに違いない。
「ゴエモン」「バンコ」
「オウ!」「バッチリよ!」
 口を開けば十分に言葉が聞こえる距離だが、F組全員と意識が繋がっていることを確認する。
「私たちはたった四人しかいないが、その分自由に行動することができる。ハカセには戦場の動き全体をしっかりと確認してもらって最も必要な場所で戦うことにしよう」
 一先ず我々は戦場全体が見える高台にまで登り、状況を確認することにした。

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