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第二章
2-2 適材適所
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「ワシは『ティーチャー』、その名の通り『教える者』じゃ。この天聖学院学院長にして転生者を天聖者へと導く者を助ける者でもある」
女神様が去り、全員が未だ動くことができないところに、新しい『ティーチャー』がやってきた。彼は周囲の者に解散を命じ、僕に深々と頭を下げて非礼を詫びた。
今は応接間に移動し、こうしてこの学院の事などの説明を受けているところである。
「ここは天聖学院、優秀な転生者のみを集めた学校である。ここで転生者は様々な事を学び、実践し、そして試練を受け、晴れて合格すれば天聖者となることができる」
テンセイシャとテンショウシャ。彼の話によると、女神様に認められた者は死後に転生の機会を得るという。そしてその転生者の中でも素質を認められたもの、もしくは転生後に目まぐるしい成果を上げたものはこの学院に推薦され入学を許される。一体僕がどうして女神様に認められるどころか特別扱いを受けてまで転生しているのかはわからないが、とにかく僕はここで天聖者を目指すことになるようだ。
「本来ならばここに推薦されるものは皆転生者としての能力と実績を兼ね備えた者達だけじゃ。しかしお主はあの女神様ご推薦じゃからの」
彼はゆっくりとお茶をすすり一息つく。
「しかし聞くところによると、自分に向けられた下級魔法を打ち消すでも避けるでもなく正面からくらい、無様にもそのまま死にかけたそうじゃな」
(人を殺しかけておいて……)
まあ場所柄を考えると仕方のないことかもしれない。ここの生徒たちは皆それぞれの世界で人々の為に転生者としての力を奮ってきた者ばかりなのだろう。力のない者はここではそういった扱いを受けてしかるべきというわけだ。
「はるか遠い昔。まだ転生も天聖もなかったころ、人々は神のお力によってあらゆる辛苦から無縁であった。しかしある時世界のあちらこちらから魔物と呼ばれるものが闇より沸き出はじめた。その闇の力はどんどんと強くなり、神はその闇を抑えることにご自身の力のほとんどを使わねばならなくなった。よって今まで神のお力によって平穏が保たれていた世界に、怒りや憎しみ、悲しみといった負の感情らが生まれ始めた。神は苦しむ人々をなんとか助けるためにある方法を考えた。それは清い心を持ってその一生を終えたものを神の使徒とし、闇を討つ手助けとすることだった。……これが転生の起こりである」
彼はまた一息つくとお茶をすする。
「神はまず最初に四人の人間をお選びになった。彼らは始原の四聖と呼ばれ神から直接力を授かった為、その力は天聖者を遥かに超えるものだったという。彼らは始めより聖名を与えられ、ひとたびその能力を奮えば、その力は星一つを丸々包み込むほど強大であった」
星一つを飲み込む能力なんて一体どれほどのものなのだろう。先ほど食らった火球なら、それが星一つ丸々焼き尽くしてしまうのだろうか?
「始原の四聖は魔を討ち、人を癒し、富と平和を与えていった。彼らは転生者を選別し、力を与え、共に戦う仲間としていった。中でも特に優秀な者達には更なる力を与え天聖者と呼んだ。天聖者達はゆっくりと、しかし確実に力と数を増やしていった。それはいつしか数多の軍を成し、次第に闇を圧倒していった」
「始原の四聖を筆頭とした天聖者達の奮闘により、神はその力を全て闇を封じる事に使うことができた。闇はその深さと暗さを失っていった。光の勝利はもはや目前だったのだ」
「神は始原の四聖を神の間に呼んだ。神はそこで彼らの働きをねぎらい、闇を封じた後の治世について話されたそうだ。しかし……しかし始原の四聖は何故か神を裏切った。神より与えられし力で神を殺した。彼らは光を捨てて闇へと堕ちた。封印は失われ、世界に再び闇が生まれた」
僕はいつの間にか身体を乗り出して彼の話に聞き入っていた。
「それでは神は……神は今いないのですか?先ほどの女神様と呼ばれていた女性は?」
彼は初めてここで微笑み、大きく首を振った。
「神をこの世から消し去ることはできぬ。神の死後すぐ神の間に新たな神が降臨なされた。それが今この世を統べている女神様じゃ」
神は不死……ではなく不滅ということなのだろうか。その神は一体どこから現れるのだろう。
「始原の四聖は当時の天聖者達の追跡を巧妙にかわし、今もどこかに隠れ潜んでいる。しかし神に直接刃を突き立てた四聖の内の一人は神のひどい呪いをその身に受け、今はもうまともに能力を使うこともできないそうじゃ」
「その始原の四聖の特徴などはわかっているのですか?」
「女神様を初めとしたわずかな数の天聖者のみがそれを知らされていると聞く。とはいえ神を刃を突き立てた男だけはみんな知っておる。奴は『ホールダー』の罪名で呼ばれ、その罪で全身は醜く老い衰えており一目見ただけでわかるじゃろう。そのあたりの事もここで学んでいきなさい」
「さて話が少々長くなってしまった。先ほど女神様からお主の入るクラスについてご指示を受けてな。お主に相応しい場所と役割を用意しておいた」
「その役割というのは……?」
ティーチャーはニヤリと笑ってこう言った。
「サンドバッグじゃよ」
女神様が去り、全員が未だ動くことができないところに、新しい『ティーチャー』がやってきた。彼は周囲の者に解散を命じ、僕に深々と頭を下げて非礼を詫びた。
今は応接間に移動し、こうしてこの学院の事などの説明を受けているところである。
「ここは天聖学院、優秀な転生者のみを集めた学校である。ここで転生者は様々な事を学び、実践し、そして試練を受け、晴れて合格すれば天聖者となることができる」
テンセイシャとテンショウシャ。彼の話によると、女神様に認められた者は死後に転生の機会を得るという。そしてその転生者の中でも素質を認められたもの、もしくは転生後に目まぐるしい成果を上げたものはこの学院に推薦され入学を許される。一体僕がどうして女神様に認められるどころか特別扱いを受けてまで転生しているのかはわからないが、とにかく僕はここで天聖者を目指すことになるようだ。
「本来ならばここに推薦されるものは皆転生者としての能力と実績を兼ね備えた者達だけじゃ。しかしお主はあの女神様ご推薦じゃからの」
彼はゆっくりとお茶をすすり一息つく。
「しかし聞くところによると、自分に向けられた下級魔法を打ち消すでも避けるでもなく正面からくらい、無様にもそのまま死にかけたそうじゃな」
(人を殺しかけておいて……)
まあ場所柄を考えると仕方のないことかもしれない。ここの生徒たちは皆それぞれの世界で人々の為に転生者としての力を奮ってきた者ばかりなのだろう。力のない者はここではそういった扱いを受けてしかるべきというわけだ。
「はるか遠い昔。まだ転生も天聖もなかったころ、人々は神のお力によってあらゆる辛苦から無縁であった。しかしある時世界のあちらこちらから魔物と呼ばれるものが闇より沸き出はじめた。その闇の力はどんどんと強くなり、神はその闇を抑えることにご自身の力のほとんどを使わねばならなくなった。よって今まで神のお力によって平穏が保たれていた世界に、怒りや憎しみ、悲しみといった負の感情らが生まれ始めた。神は苦しむ人々をなんとか助けるためにある方法を考えた。それは清い心を持ってその一生を終えたものを神の使徒とし、闇を討つ手助けとすることだった。……これが転生の起こりである」
彼はまた一息つくとお茶をすする。
「神はまず最初に四人の人間をお選びになった。彼らは始原の四聖と呼ばれ神から直接力を授かった為、その力は天聖者を遥かに超えるものだったという。彼らは始めより聖名を与えられ、ひとたびその能力を奮えば、その力は星一つを丸々包み込むほど強大であった」
星一つを飲み込む能力なんて一体どれほどのものなのだろう。先ほど食らった火球なら、それが星一つ丸々焼き尽くしてしまうのだろうか?
「始原の四聖は魔を討ち、人を癒し、富と平和を与えていった。彼らは転生者を選別し、力を与え、共に戦う仲間としていった。中でも特に優秀な者達には更なる力を与え天聖者と呼んだ。天聖者達はゆっくりと、しかし確実に力と数を増やしていった。それはいつしか数多の軍を成し、次第に闇を圧倒していった」
「始原の四聖を筆頭とした天聖者達の奮闘により、神はその力を全て闇を封じる事に使うことができた。闇はその深さと暗さを失っていった。光の勝利はもはや目前だったのだ」
「神は始原の四聖を神の間に呼んだ。神はそこで彼らの働きをねぎらい、闇を封じた後の治世について話されたそうだ。しかし……しかし始原の四聖は何故か神を裏切った。神より与えられし力で神を殺した。彼らは光を捨てて闇へと堕ちた。封印は失われ、世界に再び闇が生まれた」
僕はいつの間にか身体を乗り出して彼の話に聞き入っていた。
「それでは神は……神は今いないのですか?先ほどの女神様と呼ばれていた女性は?」
彼は初めてここで微笑み、大きく首を振った。
「神をこの世から消し去ることはできぬ。神の死後すぐ神の間に新たな神が降臨なされた。それが今この世を統べている女神様じゃ」
神は不死……ではなく不滅ということなのだろうか。その神は一体どこから現れるのだろう。
「始原の四聖は当時の天聖者達の追跡を巧妙にかわし、今もどこかに隠れ潜んでいる。しかし神に直接刃を突き立てた四聖の内の一人は神のひどい呪いをその身に受け、今はもうまともに能力を使うこともできないそうじゃ」
「その始原の四聖の特徴などはわかっているのですか?」
「女神様を初めとしたわずかな数の天聖者のみがそれを知らされていると聞く。とはいえ神を刃を突き立てた男だけはみんな知っておる。奴は『ホールダー』の罪名で呼ばれ、その罪で全身は醜く老い衰えており一目見ただけでわかるじゃろう。そのあたりの事もここで学んでいきなさい」
「さて話が少々長くなってしまった。先ほど女神様からお主の入るクラスについてご指示を受けてな。お主に相応しい場所と役割を用意しておいた」
「その役割というのは……?」
ティーチャーはニヤリと笑ってこう言った。
「サンドバッグじゃよ」
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