テンセイミナゴロシ

アリストキクニ

文字の大きさ
上 下
30 / 107
第一章

1-11 最高総司令官『プレイヤー』

しおりを挟む
「最高総司令官殿! 女神様がお待ちでございます!」
 神殿護衛兵の声で浅い瞑想から意識を戻す。
「ありがとう。だがまだ正式に総司令官になったわけではない。それまでは今まで通りで頼む」
「はっ!失礼いたしました!天聖てんしょう第一軍軍団長殿!」
「ああ、では先導を頼む」
 神の間までの道は当然把握しているので、普段であればそのまま自分で向かうのだが今日は式典である。彼に先導を頼みその後ろをゆっくりとついていく。
 アンタッチャブル率いる反乱軍の長きにわたる戦いもようやく終わり、これからは世界に蔓延るはびこる悪魔どもとの戦いに全力を割くことができる。私の胸はすでに次なる戦いへの決意で満ち溢れていた。
 その思いに応じるように純白の鎧から光が溢れる。そしてその光に呼応するように私の決意もどんどん固く強くなっていくのだ。
「それにしてもあのアンタッチャブル達の討伐はお見事でございました! 私もこの神殿で知らせを受けた時には喜びに涙したものです。一体あいつらにどれほどの者達が殺されていったことか……!」
「う……うむ、そうであるな……。あれはまさに死闘と言うに相応しい戦いであった……」
 つい言葉に詰まってしまった。あのアンタッチャブル達との戦いに次々と勝利していったことで、私はただの一兵卒から驚くほどの速さで昇進を続けていった。しかし本当は私が実際に倒したわけではなかった。
 勿論、この全能のオールにかかればアンタッチャブルどもがどれほどの強さだとしても勝利は間違いなかっただろう。しかし私には戦う機会すらなかったのだ。
 アンタッチャブルの一人であったダウターの最期の言葉が脳裏に浮かぶ。私は慌ててそれを振り払った。
「到着いたしました! ご存じだとは思いますが、武器の携帯は禁じられておりますのでもしお持ちでしたらここでお預かりいたします!」
「当然理解している。この天聖軍の誇りである鎧以外の武装は一切所持していない」
「愚問でございました! それではご昇進をお祝いし、私はここで失礼いたします!」
「うむ。ありがとう。女神様のために」
「女神様のために!」
 私たちは両手を胸の前で組み軽く目を閉じる。その後護衛兵が去るのを見送り私は神の間へと足を進めた。
 神殿の壁や天井は全て眩いばかりの純白に包まれている。あまりの神聖さに全ての者はこの場に足を踏み入れるだけで己の罪を懺悔することだろう。
「この世には悪が多すぎる」
 知らず知らずのうちに口から嘆きがこぼれる。あらゆる世界のあらゆる場所に沸き続ける魔王や悪魔達はもちろんのこと、我々は仲間であったはずの元天聖者、アンタッチャブル達と長い戦いを今までずっと繰り広げていたのだ。
 私が天聖学院で裏切者の存在を知ったとき、義憤を鎮めるのに相当苦労した。それからは同期の仲間たちとともにいつか我々の手でアンタッチャブル共を屠ってやろうと何度も話し合ったものだ。
 同期との思い出で顔が緩んだ顔を引き締め直し、純白に輝く扉をノックする。
「天聖第一軍軍団長、オール。参上致しました」
 神殿に私の声が反響していく。この場所の静寂を打ち破るだけで大変に畏れ多い気持ちになる。
「入りなさい」
 女神様の許可を受け静かに扉を開く。純白で染められた部屋の中には、女神様が座る神の座以外に余計な家具や装飾などは何一つない。これこそが神に相応しい部屋であるとここに来るたびに深く感じ入る。
「こちらへ」
 女神様の元まで進み跪くひざまずく、胸の前で両手を組み軽く目を閉じて臣下の礼を行った。
「顔を上げなさい、全能のオール。此度は本当によく働いてくれました」
「はっ! 身に余る光栄でございます!」
 女神様がくださる言葉一つで全身が喜びに震える。鎧も我が心を理解してか一層輝きを増しているようだ。
「アンタッチャブルの殲滅、転生者から天聖者への導き、高難易度の天聖任務の遂行。今の天聖軍があるのも全てあなたのおかげといっても過言ではありません」
 ああ……、これ以上の悦びがこの世にあるだろうか。私の力は全て女神様の為であり、それは世に生きる全ての者の為でもあるのだ。
「全ては女神様のために!」
 再び臣下の礼を取る。胸の前で両手を組む、そして軽く目を閉じる。これだけで私の心は平穏に包まれ、全ての苦しみから解放されるのだ。
「あなたのその働きを称え、天聖第一軍軍団長の任を解きこれより天聖軍最高総司令官に任命します。あなたは天聖軍における最大の権限をその手に収め、これより魔族殲滅へと更に邁進せねばなりません。
「はっ! このオール、全身全霊、一命を賭してお受けいたします!」
「それではあなたに聖名せいめいを授けます。あなたはこれより今までのオールの名を捨て、プレイヤーと名乗りなさい」
「かしこまりました! 私はこれよりプレイヤーと名乗り、その祈りによって女神様のご高名をより多くのものへと轟かせることを誓います!」
 ついに……ついに私も女神様より聖なる名を頂くことができた! 何千万といる天聖者の中でもほんの一握りにしか与えられることのない聖名……! そして私に与えられた名前はプレイヤー、つまり『祈る者』という意味だ。私は今より『オール』という個人を捨て、『祈りを捧げる者』という神の使徒として生きることを意味するのだ!
「この祝いの場に相応しい人物をもう一人招待しています」
 意外な言葉に私は顔を上げ女神様を見る。いつも凛々しく厳格な表情を崩さぬ女神様の顔が一瞬だけとても優しいものに変わったような気がした、しかし驚きに二、三度まばたきをして再度女神様を見た時には、やはりいつもの凛々しい女神様であった。
 後ろを振り返り入口の扉を見る。それは静かにゆっくりと動き、もう一人の招待客の正体が露になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

魔拳のデイドリーマー

osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。 主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。

処理中です...