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お昼ご飯は桂川沿いにある蕎麦屋さんに入った。
渡月橋と嵐山の自然を眺めながら食事ができる最高のロケーションだ。
「おっ美味しい! 僕こんなに美味しい蕎麦初めて食べたんだけど」
「俺も」
隣を見れば、由貴くんは蕎麦を大盛りにした上に天丼やらデザートやらを大量に頼んでいる。
「……えっ、食い過ぎ?」
僕の視線に気がついた由貴くんが少しだけ頬を赤らめた。
かっ、可愛い。
「全然! ほらもっと食べなよ!」
「うわっ、入れるなって! お前の分なくなるじゃん」
やがて僕が普通の量を食べ終わるのとほぼ同時に、由貴くんもペロリと全て完食してしまった。
その細い身体のどこに入っているのか甚だ疑問だけど、見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。
向こうに帰ってからもまた一緒に食事に行きたいな。
それから世界遺産である天龍寺の庭園や、空高く聳える大迫力の竹林を見て歩いた。秋の絶景に胸をときめかせながら、心の中では隣を歩く由貴くんの手を握ってみたいな、なんて思ったりして。
けれどそうする勇気もないまま、夕方が近づいてきた。
竹林の中にある野宮神社の黒木の鳥居をくぐり抜ける。
朱色じゃない鳥居って珍しいよね。厳かな感じがして、竹林の雰囲気にぴったり合っている。
ここは恋愛成就のご利益で有名な神社らしい。
まずは手順に沿って参拝する。それからパワースポットである「亀石」の前にやって来た。
これを撫でさすったら一年以内に願い事が叶うとされているらしい。とりわけ恋愛に関しての願いは叶いやすいとかなんとか。
僕は意を決して亀石に右手を触れさせた。
由貴くんと恋人になりたいです。僕に勇気をください。
切実な願いを心の中で唱えていると、隣から由貴くんも手を伸ばした。
彼は何を願っているんだろう。チラリと盗み見たその真剣な表情からは窺い知れない。
「……何願ったの」
鳥居を出たところで由貴くんが口を開いた。
突然のことにびっくりして言葉が出てこない。
「……あの、えっと」
「…………」
「……あ、あ」
「…………」
「あの、ゆっ、由貴く」
「あー! 成瀬じゃん」
びく、と肩を振るわせ振り返ると、そこには同じクラスの女子が数人で立っていた。
「今一人? 一緒に回んない?」
ひっ、一人なわけないでしょうが。
出鼻を挫かれてしまった僕は急に気持ちが小さくなって、しおしおと道端に項垂れた。
「悪い。俺秋人と一緒に回りたいから」
「え? あー、じゃあ倉木も一緒に来ればいいじゃん」
喉元まで出掛かった気持ちがつっかえたままになっていて、にわかに呼吸が苦しくなる。
「ねぇ見てよ成瀬。これさっき撮った写真なんだけどさ……」
「あぁ、また今度見るから。俺今秋人と……」
苦しい。胸が苦しい。
ほんの一瞬、二人きりじゃなくなっただけなのに。
由貴くんが別の誰かに囲まれているのがこんなにも苦しい。
僕だけの由貴くんでいてほしい。
「……秋人?」
僕はみんなの輪に割って入った。
「今、僕たち二人で回ってるから」
そう言って彼の手を引く。
人の中をずんずん歩いていく。
彼が今どんな顔をしているのかは分からない。
「秋人」
人通りの少ない路地へ入って立ち止まった。
ようやく彼の方へ向き直る。
「あきっ……」
彼の身体を正面から抱き寄せた。
背中に手を回して、これでもかってぐらいぎゅうぎゅうと強く抱きしめる。
どれだけ強く触れても足りなかった。もっと、もっと強く。この胸の鼓動も何もかも、全部伝わってしまえばいい。
「……由貴くん、好きです」
その一言だけが口をついて出た。
渡月橋と嵐山の自然を眺めながら食事ができる最高のロケーションだ。
「おっ美味しい! 僕こんなに美味しい蕎麦初めて食べたんだけど」
「俺も」
隣を見れば、由貴くんは蕎麦を大盛りにした上に天丼やらデザートやらを大量に頼んでいる。
「……えっ、食い過ぎ?」
僕の視線に気がついた由貴くんが少しだけ頬を赤らめた。
かっ、可愛い。
「全然! ほらもっと食べなよ!」
「うわっ、入れるなって! お前の分なくなるじゃん」
やがて僕が普通の量を食べ終わるのとほぼ同時に、由貴くんもペロリと全て完食してしまった。
その細い身体のどこに入っているのか甚だ疑問だけど、見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。
向こうに帰ってからもまた一緒に食事に行きたいな。
それから世界遺産である天龍寺の庭園や、空高く聳える大迫力の竹林を見て歩いた。秋の絶景に胸をときめかせながら、心の中では隣を歩く由貴くんの手を握ってみたいな、なんて思ったりして。
けれどそうする勇気もないまま、夕方が近づいてきた。
竹林の中にある野宮神社の黒木の鳥居をくぐり抜ける。
朱色じゃない鳥居って珍しいよね。厳かな感じがして、竹林の雰囲気にぴったり合っている。
ここは恋愛成就のご利益で有名な神社らしい。
まずは手順に沿って参拝する。それからパワースポットである「亀石」の前にやって来た。
これを撫でさすったら一年以内に願い事が叶うとされているらしい。とりわけ恋愛に関しての願いは叶いやすいとかなんとか。
僕は意を決して亀石に右手を触れさせた。
由貴くんと恋人になりたいです。僕に勇気をください。
切実な願いを心の中で唱えていると、隣から由貴くんも手を伸ばした。
彼は何を願っているんだろう。チラリと盗み見たその真剣な表情からは窺い知れない。
「……何願ったの」
鳥居を出たところで由貴くんが口を開いた。
突然のことにびっくりして言葉が出てこない。
「……あの、えっと」
「…………」
「……あ、あ」
「…………」
「あの、ゆっ、由貴く」
「あー! 成瀬じゃん」
びく、と肩を振るわせ振り返ると、そこには同じクラスの女子が数人で立っていた。
「今一人? 一緒に回んない?」
ひっ、一人なわけないでしょうが。
出鼻を挫かれてしまった僕は急に気持ちが小さくなって、しおしおと道端に項垂れた。
「悪い。俺秋人と一緒に回りたいから」
「え? あー、じゃあ倉木も一緒に来ればいいじゃん」
喉元まで出掛かった気持ちがつっかえたままになっていて、にわかに呼吸が苦しくなる。
「ねぇ見てよ成瀬。これさっき撮った写真なんだけどさ……」
「あぁ、また今度見るから。俺今秋人と……」
苦しい。胸が苦しい。
ほんの一瞬、二人きりじゃなくなっただけなのに。
由貴くんが別の誰かに囲まれているのがこんなにも苦しい。
僕だけの由貴くんでいてほしい。
「……秋人?」
僕はみんなの輪に割って入った。
「今、僕たち二人で回ってるから」
そう言って彼の手を引く。
人の中をずんずん歩いていく。
彼が今どんな顔をしているのかは分からない。
「秋人」
人通りの少ない路地へ入って立ち止まった。
ようやく彼の方へ向き直る。
「あきっ……」
彼の身体を正面から抱き寄せた。
背中に手を回して、これでもかってぐらいぎゅうぎゅうと強く抱きしめる。
どれだけ強く触れても足りなかった。もっと、もっと強く。この胸の鼓動も何もかも、全部伝わってしまえばいい。
「……由貴くん、好きです」
その一言だけが口をついて出た。
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