恋は潮騒のように

梅咲あすか

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 連休の最終日にまた一度だけ颯太郎くんとキスをして別れ、俺は函館へ戻ってきた。
 それから一ヶ月と少し。
 颯太郎くんから「退院した」との報が入った。

「退院したの!?」

 俺は嬉しさに手を震わせながら彼に電話をかける。

『うん。びっくりでしょ』
「めちゃくちゃびっくりしてる」
『みんな驚いてたよ。俺、予定ではそろそろ死んでるはずだったから』
「笑えないからやめてよ。おめでとう。よく頑張ったね」
『……うん、ありがと』

 スピーカーの向こうで彼が優しく笑う。

『凪がいなかったら折れちゃってたと思う。全部、凪のおかげだよ』
「颯太郎くんが頑張ってくれたからだろ。自分を褒めてあげて。俺、夏休み入ったらそっち行くから」
『うん。今度はうちに泊まりに来てよ。……早く会いたいな』
「俺も早く会いたい」

 通話を切って嬉しさに浸る。
 よく頑張ってくれたね、颯太郎くん。
 救われたのは颯太郎くんじゃなくて俺の方だ。俺はもうとっくに、彼なしの人生を考えられなくなってしまっているのだから。


「……男の恋人?」

 突き刺すような視線の前に、俺は正座したまま萎縮してしまった。

「その人のために広島に行って就職したい? 一体何の冗談?」

 ぐっと握る拳に力を入れる。
 まさか。……まさか自分の母親にこうも冷ややかな目を向けられるとは思っていなかった。

 俺は中学生の頃から自分の性的指向を自覚しながらも、家族を含め誰にもカミングアウトをしたことがなかった。
 話したとしてどうせ受け入れてもらえないだろう、といった諦めがあったのは確かだけれど、いつも俺の言葉を尊重してくれる両親ならばあるいは、と楽観的に考えていた節もあった。

「母さん、真剣に考えたことだから」
「何言ってんの。ちょっと頭冷やしなさい。あなただっていつかはちゃんと女の子と恋愛できるようになるから。焦らなくたって大丈夫よ」

 ポンポン、と頭を撫でられる。
 その手は優しかったけれど、自分の息子はきっと『普通』であるはずだから大丈夫だと、自分自身に言い聞かせているようでもあった。

「……母さん、悪いけど、女の子と……いや、彼以外とこの先恋愛する気はないよ」
「結婚は? 子供は?」
「それは……ごめん」
「凪。子供っていいものよ」

 母さんは笑って、俺が小さかった頃の思い出話をし始めた。
 俺は言葉を挟めなくなってしまった。
 母さん、ごめん。動揺してるよね。そりゃそうだ。俺だって母さんと同じ立場だったらきっと受け入れられていない。

 だけど。ずっと一緒に過ごしてきた大切な家族との間に決定的な亀裂が生じてしまったようで、俺はひどく胸が苦しくなった。
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