恋は潮騒のように

梅咲あすか

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 部屋代は全額出すと言い張る彼を説得して半分ずつ出すことにし、更に近くの店で夕食を奢った。彼は美味しい美味しいと函館名物の海鮮料理を頬張って笑みを浮かべている。
 この笑顔を見ていたら何でもしてあげたくなってしまう。明日は北海道名産のお土産を山ほど持たせて帰らせよう。

 そんなことを思いながら部屋へ戻ってきた。
 備え付けの大きなベッドが二つ。大きな窓からはパノラマのように函館の街並みが広がっている。朝になれば颯太郎くんが好きな港の風景も綺麗に見えるだろう。

「颯太郎くん。大浴場行く?」
「俺は部屋でシャワー浴びるからいいや。凪俺の代わりに入ってきて」
「え、せっかくなのに?」
「俺身体があんまり……綺麗じゃないというか」

 しまった。事情があったのか。
 しかし彼は明るく俺を玄関まで見送った。

「まぁ凪には見せてもいいよ。……あ、そういえばゴムとローション買ってこなきゃ」
「えっほんとにやるの!?」
「やらないの?」
「や、やります」
「じゃあ俺先にコンビニ行ってくる。凪はゆっくりしてきて。ほんとゆっくりしてきていいから」
「う、うん。わかったよ」

 俺はホテル最上階の大浴場で夜景を堪能しながら、脳内ではしきりに颯太郎くんとのセックスのことばかりを考えていた。こんな不埒な奴はここにただ一人だけだろう。
 そもそも、彼のポジションはウケでよかっただろうか。俺は性経験なんて、アプリで出会った適当な相手と一度したことがあるだけだ。そんな俺に、果たして彼を満足させてあげられるだろうか。

 そんなこんなで、俺は颯太郎くんの言葉通りにゆっくり湯に浸かっていたが、やがてのぼせてしまったので部屋に戻ることにした。
 ウケ側は準備が大変なことは当然知っている。もう少し時間を置いた方がいいだろうかと思いつつ、待たせてしまうのも悪いので、俺はホテルの売店で2人分の飲み物とお菓子を見繕って部屋に戻った。

 部屋では、大きなベッドの隅にちょこんと颯太郎くんが座っていた。俺と同じ、備え付けの浴衣を纏っている。

「おかえり」
「ただいま。待たせたな」
「ううん」
「ジュース買ってきたけど飲む?」
「飲む。ありがと」

 彼は俺からペットボトルを受け取ってゴクゴクと喉を潤した。
 そうしてまた、隣に腰掛ける俺の肩に頭を預けた。

「……なんか緊張してきた。実は俺初めてなんだよね」

 彼の頬と耳がほんのり赤くなっている。可愛い。

「男とはね。女の子とはしたことあるけど」
「……そう。確認だけど、颯太郎くんがウケ側でいいの?」
「いいよ。こっちじゃなきゃ嫌だった。男に押し倒されてめちゃくちゃ抱きしめられてみたいって、ずっと……。一生叶わないと思ってた」
「颯太郎くん」

 俺は颯太郎くんの華奢な身体をベッドに押し倒した。
 そして浴衣の上からぎゅうと力を込めて抱き締める。

「……凪」

 彼の吐息のような声が耳に触れる。

「どう? 颯太郎くん」
「……あったかい」

 彼も俺の背中に両手を回してくれた。
 しばらくそのまま、抱き合っていた。
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