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第四話

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 申請が正式に通るのは早くても二ヶ月後になると言われた。それでも白い結婚が認められた今となっては、離縁が覆ることはほぼないと言う。
 夫婦になったからには最低でも初夜は済ませておくのが普通だ。貴族なら尚更、世継ぎは必要不可欠。白い結婚での離縁など異例中の異例だ。
 ーーでも、これで私も自由になれるのね。
 後は気兼ねなく、ありふれた生活ができると思えば最高の気分だ。夫になった人にも子供が生まれるのだ。

「神父様、この度は誠にありがとうございました。深く、お礼申し上げます」

 感極まって泣きそうになると、神父は首を振った。

「いいえ、私は何もしておりませんよ。貴方が自ら行動した結果です。それよりも、今まで良く頑張りましたね」
「…………」

 褒められるようなことは何もしていない。でも、皺を作って微笑む神父の顔を見たら、マリアーナ自身頑張ってきたのだろうと思えた。あの、違和感だらけの空間で。

「……これからご実家に帰られるのですか?」
「ええっと…元から実家とは疎遠でしたから、いずれ貴族籍から抜けて平民になるつもりです」

 溢れそうになる涙を呑んで素直に答えた。

「それは、」

 貴族の娘が平民となって、一人で生きていくのは難しいだろう。それも慣れない市井で。
 確かに、前世の記憶がなかったら、ここまで行動しようとは思わなかった。

「だ、大丈夫です! この後、神殿の祝福を受けて自分に合った仕事を見つけるつもりです」

 それでも、実家や、夫の屋敷には二度と戻りたくなかった。

「そうですか、分かりました。これから神殿に向かわれるのでしたら私の方からも手紙を書かせていただきます。宜しければ住む場所が見つかるまで、神殿の方で過ごされてはいかがですか?」

 神父の急な申し出にマリアーナは困惑した。
 住む場所なら仕事が決まるまでしばらく宿を借りるつもりだった。そのぐらいの資金は問題ない。
 長く伸びた髪だって、切って売るつもりだ。

「いえ、ですが」

 両手を振って遠慮すると、神父は言い聞かせるようにして話した。

「離縁の手続きをしているとはいえ、貴方は聖女様を御守りする護衛騎士の奥様です。そのような方を路頭に迷わせるわけにはいきません」

 鋭い眼差しで、有無を言わせない迫力があった。

「あ、あの……それでは、宜しくお願い致します」

 根負けして頭を下げると、神父は「直ぐに準備致しますので、それまでお待ち下さい」と微笑んで、部屋から出て行った。
 彼の目元が笑っていないように見えたのはきっと気のせいだ。

 離縁の手続きと、神父からの手紙を受け取ったマリアーナは教会を後にした。
 なんとなく肩の荷が下りたようだ。
 足取りも軽い。
 マリアーナは小さく笑い、今度は神殿に向かって歩き出した。

 さて次は、生きていく為に重要なことをしなくてはいけない。
 そう、仕事を探さないと!
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